[PEM22-P07] オーロラスペクトログラフによる上部電離圏N2+の共鳴散乱光観測
キーワード:オーロラ、窒素分子イオン、アップフロー
イオンアップフロー現象の光学リモートセンシングのために、今回我々はロングイヤービン・スバールバルにおけるオーロラスペクトログラフ(ASG)の13年間分のデータ解析から上部電離圏N2+共鳴散乱光を明らかにした成果を報告する。Störmer [1955], Bates [1949]は高度700-1100 kmの日照領域におけるN2+共鳴散乱発光を報告した。近年、より高高度に存在するN2+発光がMSX衛星[Romick et al., 1999]やReimei衛星によって観測され、電離圏高度からの重イオンアップフロー現象として注目されている。電離圏F領域主成分であるO+などのイオンは地磁気擾乱時に磁気圏に流出していくことがよく知られている[Moen et al., 2004, Abe et al., 1993]。一方、N2+などの分子イオンもAkebono衛星等により高度10,000 km付近で観測されている[Yau et al., 1993]。しかし、電離圏E領域に主に存在する重い分子イオンがどのように上昇していくかは未解明である。現在私たちはWallace and McElroy [1966]が主張しているO+とN2分子の電荷交換反応によってN2+が電離圏F領域で生成され、地磁気擾乱に伴い上昇していくのではないかと考えている。
そこで本研究では、分子イオンアップフロー現象を明らかにするために、ノルウェー・ロングイヤービン(地磁気緯度75.2度,経度16.04度)におけるオーロラスペクトログラフの13年間の観測データから地磁気擾乱時かつ地上は日陰で電離圏よりも高高度が日照となっている場合を選び、電離圏N2+共鳴散乱光を調べた。
オーロラスペクトログラフは魚眼レンズ、スリット、グリズム、冷却CCDカメラから構成される。波長範囲は420 nmから730 nm、波長分解能2.0 nm、視野角180度(磁気南北方向)である。観測は2000年から現在(2017年)までの冬季に行われているが、N2+ 427.8 nmが波長範囲に含まれるのは2004年以降の観測データである。また、これまでの研究からN2+アウトフローは地磁気擾乱時(Kp>4)に発生する確率が高いことが知られている[Mizuno et al., 2005]。従って、本研究では2004年から2016年の観測日で、地上が日陰時かつKp指数が9時間以上にわたり4以上であった65日間をすべて解析した。ここで、シンプルな単一アーク状のオーロラが磁気南方向に出現したと仮定すると、オーロラスペクトログラフの仰角分布はオーロラ高度分布とみなすことができる。この場合、同時に観測される酸素原子557.7 nm発光や630.0 nm発光ピークから発光高度を概ね知ることができる。酸素原子557.7 nm発光は降下電子によるオーロラのみと考えられるため、557.7 nm発光と比較して427.8 nmが557.7 nm発光よりも高高度(より大きな仰角)に分布する場合は、この高高度領域のN2+共鳴散乱光を捉えたと解釈される。そのようなイベントを5例見いだした。この5例それぞれにおけるKpの値は4-,2+,3+,4-,6-,5であり、地磁気擾乱時と静穏時の2つの場合があることが分かった。2014年12月21日0700 UT(Kp=2+)頃には、最大400 RのN2+発光が観測されたが、これに関連するDst指数変動は約-10 nT(N2+発光観測の1時間前)であった。この時のN2+発光ピーク高度を630.0 nm発光高度を250 kmと仮定すると380 kmと見積もられた。一方、2015年12月21日に0100 UTにはDst指数変動は-150 nT程度の地磁気嵐が発生し、これに伴い0830 UT(Kp=5)頃に最大800 RのN2+発光が観測された。この時のN2+発光ピーク高度を同様に推定した結果、340 kmであり、200 R以上の発光が高度1,000 km以上まであることが分かった。5例のうち4例は発光ピーク高度が300~400 kmに存在し、200 R以上の発光が続く高度は地磁気擾乱に伴い、より高高度まで達していることが分かった。この結果は地磁気擾乱時でなくても電離圏F領域下部ではN2+が生成され、それが地磁気擾乱とともに上昇していくことを示唆している。これは先行研究の衛星観測による結果と整合的である。
そこで本研究では、分子イオンアップフロー現象を明らかにするために、ノルウェー・ロングイヤービン(地磁気緯度75.2度,経度16.04度)におけるオーロラスペクトログラフの13年間の観測データから地磁気擾乱時かつ地上は日陰で電離圏よりも高高度が日照となっている場合を選び、電離圏N2+共鳴散乱光を調べた。
オーロラスペクトログラフは魚眼レンズ、スリット、グリズム、冷却CCDカメラから構成される。波長範囲は420 nmから730 nm、波長分解能2.0 nm、視野角180度(磁気南北方向)である。観測は2000年から現在(2017年)までの冬季に行われているが、N2+ 427.8 nmが波長範囲に含まれるのは2004年以降の観測データである。また、これまでの研究からN2+アウトフローは地磁気擾乱時(Kp>4)に発生する確率が高いことが知られている[Mizuno et al., 2005]。従って、本研究では2004年から2016年の観測日で、地上が日陰時かつKp指数が9時間以上にわたり4以上であった65日間をすべて解析した。ここで、シンプルな単一アーク状のオーロラが磁気南方向に出現したと仮定すると、オーロラスペクトログラフの仰角分布はオーロラ高度分布とみなすことができる。この場合、同時に観測される酸素原子557.7 nm発光や630.0 nm発光ピークから発光高度を概ね知ることができる。酸素原子557.7 nm発光は降下電子によるオーロラのみと考えられるため、557.7 nm発光と比較して427.8 nmが557.7 nm発光よりも高高度(より大きな仰角)に分布する場合は、この高高度領域のN2+共鳴散乱光を捉えたと解釈される。そのようなイベントを5例見いだした。この5例それぞれにおけるKpの値は4-,2+,3+,4-,6-,5であり、地磁気擾乱時と静穏時の2つの場合があることが分かった。2014年12月21日0700 UT(Kp=2+)頃には、最大400 RのN2+発光が観測されたが、これに関連するDst指数変動は約-10 nT(N2+発光観測の1時間前)であった。この時のN2+発光ピーク高度を630.0 nm発光高度を250 kmと仮定すると380 kmと見積もられた。一方、2015年12月21日に0100 UTにはDst指数変動は-150 nT程度の地磁気嵐が発生し、これに伴い0830 UT(Kp=5)頃に最大800 RのN2+発光が観測された。この時のN2+発光ピーク高度を同様に推定した結果、340 kmであり、200 R以上の発光が高度1,000 km以上まであることが分かった。5例のうち4例は発光ピーク高度が300~400 kmに存在し、200 R以上の発光が続く高度は地磁気擾乱に伴い、より高高度まで達していることが分かった。この結果は地磁気擾乱時でなくても電離圏F領域下部ではN2+が生成され、それが地磁気擾乱とともに上昇していくことを示唆している。これは先行研究の衛星観測による結果と整合的である。