JpGU-AGU Joint Meeting 2017

講演情報

[EJ]Eveningポスター発表

セッション記号 P (宇宙惑星科学) » P-PS 惑星科学

[P-PS06] [EJ] あかつき金星周回1.5年とその科学成果

2017年5月20日(土) 17:15 〜 18:30 ポスター会場 (国際展示場 7ホール)

[PPS06-P19] 中間赤外ヘテロダイン分光観測による金星中間圏/熱圏下層における風速・温度導出の検証

*高見 康介1中川 広務1佐川 英夫2Krause Pia3青木 翔平4笠羽 康正1村田 功1渡部 重十5田口 真6今村 剛7佐藤 毅彦8黒田 剛史9寺田 直樹1 (1.東北大学大学院 理学研究科 地球物理学専攻 惑星大気物理学分野、2.京都産業大学 理学部、3.I. Physical Institute, University of Cologne,、4.Istituto di Astrofisica e Planetologia Spaziali, Istituto Nazionale di AstroFisica、5.北海道大学大学院 理学院 宇宙理学専攻、6.立教大学 理学部 物理学科、7.東京大学大学院 新領域創成科学研究科 複雑理工学専攻、8.宇宙航空研究開発機構 宇宙科学研究本部、9.国立研究開発法人 情報通信研究機構)

キーワード:金星中間圏、ヘテロダイン、風速、温度

高度70 – 90 kmの金星中間圏と高度90 – 120 kmの熱圏下層は金星の大気の遷移領域であり、この領域の研究は大気上下間結合の理解に重要である。近年、Venus Expressに搭載された観測機器の高鉛直分解観測により上層大気の熱構造の理解が進んだ。一方、地上観測においては、周回軌道衛星の観測領域外の情報を補完し衛星の寿命を超えた長期的観測が可能であるため、より様々な時空間スケールの変動を理解することが期待できる。また、金星上層の大気循環は、雲層の高度でスーパーローテーション、熱圏下層で昼夜間対流が卓越していると考えられているが、これらの間の高度70 – 90 kmの領域の大気循環は、観測例も少なく理論的にも観測的にも明らかになっていない。本研究はNakagawa et al. (2016)によって理論的に提唱された中間圏の風速、温度の新しい解析手法を実際の観測データに適用してその導出精度、導出高度ついての検証を行った。
本研究の観測対象は、雲頂から放射された背景放射が雲層の上層に分布するCO2大気に吸収されて形成される10 µm帯の吸収スペクトルである。3×107の高周波数分解能を有する中間赤外ヘテロダイン分光器を用いて、このスペクトルを1MHzで分解し、また放射伝達計算と反転解析を行うことで雲頂から中間圏までの風速と温度を導出することができる。また、60 cm望遠鏡を用いた10 µm帯観測では、回折限界を達成することで4秒角の空間分解能を理論的に実現できる。これにより、視直径10 - 60秒角で変化する金星を常に空間分解して観測ができる。
2012年3月20 - 29日のTHIS(ケルン大学開発のヘテロダイン分光器)での観測と5月18 - 20日のHIPWAC(NASA開発のヘテロダイン分光器)での観測から、視線方向成分の風速と温度を導出した。風速解析は、誤差±33 - ±54 m/sの範囲で高度85 – 100 kmに高度分解能10 kmで感度を持つことがわかった。温度解析では、高度分解能5 kmで70 – 95 kmの温度プロファイルを誤差±3 - ±13 Kで得られた。これらの誤差は、反転解析の初期値依存性の評価からも決定されている。
導出された温度プロファイルについては、先行研究と比較し我々の解析結果の妥当性の評価を行った。我々の解析結果は、中間赤外ヘテロダイン分光観測 (Stangier et al., 2015)と電波掩蔽観測 VeRa/VEXの先行研究と高度75 – 90 kmの範囲でよく一致した。本研究では、初の複数地点観測により中間圏の風速が-163 – 143 m/sの範囲で分布していることがわかった。ここで、正の風速は観測者に向かう方向、負の風速は観測者から遠ざかる方向になる。また、スーパーローテーション方向と昼夜間対流方向の風速が中間圏に存在し得ることが確認された。
我々はこの解析手法をハレアカラ山頂に位置する東北大学60cm望遠鏡に設置された東北大学開発のMid-Infrared Laser Heterodyne Instrument (MILAHI)での定常観測に用い、金星探査機あかつきとの共同観測などから包括的な大気上下間結合の理解に向けて風速と温度の継続的な観測を実施する予定である。