[SCG67-P06] 人工地震探査による日本海溝アウターライズ東麓における海洋性地殻構造
海洋性地殻の地震波速度構造は,比較的均質性が高いと考えられるが,海洋性地殻下部から最上部マントルにかけて複雑な構造をもった反射面が認められることがある.こうした地殻深部やマントルにみられる不均質構造の要因の一つとして,海洋プレートの形成・発達過程が考えられる.たとえば,千島海溝沖の北西太平洋の最上部マントルに認められる反射構造は,プレート運動に伴って形成されたリーデル剪断と解釈されている(Kodaira et al., 2014).本研究では,日本海溝アウターライズの東麓において実施したエアガン−海底地震計(OBS)構造探査の波形記録を解析し,この領域の地殻・マントル内の地震波反射構造を詳細に明らかにすることを通して海洋プレートの形成・発達過程を考察する.
本研究で用いるエアガン―OBS 探査データは, 2010 年に北西太平洋において取得されたもので, 6 km 間隔で23台のOBSを設置した測線沿いに,エアガン発振を0.2 km 間隔で1199 回行った.得られたOBS記録を見ると,初動振幅が顕著に小さくなるシャドウゾーンが認められた.シャドウゾーンが現れ始めるまでの初動は海洋性地殻第3層からの屈折波(Pg)と解釈されることから,海洋性地殻深部のモホ面の直上にシャドウゾーンの原因となる構造が存在すると推察される.こうしたシャドウゾーンは測線南側のOBS の記録でより広く認められ,地殻深部の構造が測線に沿って大きく変化することが示唆される.こうしたOBS記録の特徴を再現するよう,P波速度構造を2 次元波線追跡法により構築した結果,海洋性地殻第3層下部に低速度層が存在し,その厚さが測線に沿って変化していると仮定することで,観測記録の特徴をおおむね再現することができた(大友・他,SSJ,2016).
一方,OBS による広角反射法地震探査記録に地震波干渉法を適用して合成した稠密な仮想観測点における地震波形に反射法的処理を施すことで,海洋プレート内反射構造のイメージングを試みたところ,地殻深部からモホ面程度の深度に相当する垂直往復走時9秒付近に連続性の良い反射信号を抽出することに成功した(大友・他,JpGU,2016).これを,2 次元波線追跡法による屈折波のフォワード解析で得られた構造モデルと対応させると,イメージされた反射面は,モホ面ではなく,地殻最深部に分布する低速度層上面からの反射波である可能性がある.そこで,屈折法解析から得た構造モデルをもとに理論波形計算を行い,理論波形に対して反射法的処理を施すことで,低速度層上面からの反射波がイメージングされるのかを調べてみた.観測波形記録に対して施したのと同様の手順で地震波干渉法および反射法的処理を行って得られた反射断面上には,往復走時で9秒,9.7秒付近に反射面がイメージされ,浅い側の反射面が低速度層上面からの反射波に対応することがわかった.この往復走時が,実際の観測記録から得られた反射断面に認められる反射面の走時が低速度層上面反射のものと整合的であることから,実際の探査によって低速度層上面からの反射波が捉えられている可能性が高い.
実際の反射断面上では,この低速度層上面からの反射波は測線の南側で顕著である一方で,北側では不明瞭になっている.このことを,OBSで観測される初動のシャドウゾーンが測線南側でより広く現れる傾向と対応すると考えると,海洋性地殻深部にある低速度層は,層の厚さが測線に沿って変化しているのではなく,層内の速度が南部側ではより低速度で上面における速度コントラストが大きくなっていることが示唆される.
今後は,走時インヴァージョンとともに詳細な波形モデリングを行い地殻内部の地震波速度分布を詳しく検討するとともに, OBSデータの反射法的処理におけるデコンボリューションなどの波形処理の微調整を行うことにより,反射断面の品位の向上も進める予定である.
本研究で用いるエアガン―OBS 探査データは, 2010 年に北西太平洋において取得されたもので, 6 km 間隔で23台のOBSを設置した測線沿いに,エアガン発振を0.2 km 間隔で1199 回行った.得られたOBS記録を見ると,初動振幅が顕著に小さくなるシャドウゾーンが認められた.シャドウゾーンが現れ始めるまでの初動は海洋性地殻第3層からの屈折波(Pg)と解釈されることから,海洋性地殻深部のモホ面の直上にシャドウゾーンの原因となる構造が存在すると推察される.こうしたシャドウゾーンは測線南側のOBS の記録でより広く認められ,地殻深部の構造が測線に沿って大きく変化することが示唆される.こうしたOBS記録の特徴を再現するよう,P波速度構造を2 次元波線追跡法により構築した結果,海洋性地殻第3層下部に低速度層が存在し,その厚さが測線に沿って変化していると仮定することで,観測記録の特徴をおおむね再現することができた(大友・他,SSJ,2016).
一方,OBS による広角反射法地震探査記録に地震波干渉法を適用して合成した稠密な仮想観測点における地震波形に反射法的処理を施すことで,海洋プレート内反射構造のイメージングを試みたところ,地殻深部からモホ面程度の深度に相当する垂直往復走時9秒付近に連続性の良い反射信号を抽出することに成功した(大友・他,JpGU,2016).これを,2 次元波線追跡法による屈折波のフォワード解析で得られた構造モデルと対応させると,イメージされた反射面は,モホ面ではなく,地殻最深部に分布する低速度層上面からの反射波である可能性がある.そこで,屈折法解析から得た構造モデルをもとに理論波形計算を行い,理論波形に対して反射法的処理を施すことで,低速度層上面からの反射波がイメージングされるのかを調べてみた.観測波形記録に対して施したのと同様の手順で地震波干渉法および反射法的処理を行って得られた反射断面上には,往復走時で9秒,9.7秒付近に反射面がイメージされ,浅い側の反射面が低速度層上面からの反射波に対応することがわかった.この往復走時が,実際の観測記録から得られた反射断面に認められる反射面の走時が低速度層上面反射のものと整合的であることから,実際の探査によって低速度層上面からの反射波が捉えられている可能性が高い.
実際の反射断面上では,この低速度層上面からの反射波は測線の南側で顕著である一方で,北側では不明瞭になっている.このことを,OBSで観測される初動のシャドウゾーンが測線南側でより広く現れる傾向と対応すると考えると,海洋性地殻深部にある低速度層は,層の厚さが測線に沿って変化しているのではなく,層内の速度が南部側ではより低速度で上面における速度コントラストが大きくなっていることが示唆される.
今後は,走時インヴァージョンとともに詳細な波形モデリングを行い地殻内部の地震波速度分布を詳しく検討するとともに, OBSデータの反射法的処理におけるデコンボリューションなどの波形処理の微調整を行うことにより,反射断面の品位の向上も進める予定である.