[SCG73-P12] マントル捕獲岩(ピナツボ火山)中のかんらん石に含まれる流体包有物としての負晶の3次元形状
キーワード:かんらん石、負晶、捕獲岩
かんらん石は地球だけでなく宇宙にも普遍的に存在する鉱物であり、その結晶形状はその形成条件を反映するだけでなく、結晶の異方性を通じて様々な物理化学プロセスにも影響を与える可能性がある。結晶形状は成長形と平衡形に分けられる。成長形は生成条件に応じた形状であり、平衡形は表面自由エネルギーと面積の積の総和が最小となる形状である。かんらん石のMg端成分であるフォルステライトの0 K・真空での表面エネルギーは、格子力学[1]や第1原理計算[2]により求められ、平衡形も求められている。
昨年度の連合大会[3]では、普通コンドライト隕石(LL5-6)のかんらん石中の負晶の3次元形状を調べることにより、かんらん石結晶のannealの程度や熱履歴を議論するとともに、annealの進んだ負晶にも表面エネルギーの高い{100}面が発達していることを報告した。これは、一般的に負晶形状は平衡形であると考えられていることと一致せず、水分子などの表面吸着分子の影響の可能性を議論した。本研究では、隕石と形成環境が異なる地球マントル起源のかんらん石中の負晶を調べることにより、流体包有物として水を多量に含む負晶形状を明らかにし、起源の異なる負晶形状の比較をおこなうとともに、マントル起源かんらん石負晶の熱履歴についても議論することを目的とした。
1991年に噴火したフィリピンのピナツボ火山の噴出物(軽石)に含まれるマントル捕獲岩(ハルツバージャイト)中のかんらん石(Mg#:91-92)には、流体包有物としての負晶が存在することが知られている [4]。 本研究では、このマントル捕獲岩の薄片(#P-3)からサンプリングをおこなった。まず偏光顕微鏡によって薄片観察をおこない、かんらん石粒子中に流体包有物が面上に分布しているところを探し、そこから流体包有物を含むようにして、FIB (FEI Quanta 200 3DS)により円柱形状のサンプル(20-30μm)を2個取り出した。サンプルは結像型吸収CT 撮影(SPring-8 BL47XU、7及び8 keV、実効空間分解能:約150 nm)を行い、得られた3次元構造から2値化により負晶の3次元形状を抽出した。サンプルの結晶方位は、母結晶のSEM/EBSD(JEOL 7001F/HKL CHANNEL5)により決定した。CT画像とEBSDで求めた結晶方位から、負晶の結晶面の同定を[3]と同じ手法により行った。
それぞれのサンプルには、15μm程度の大きさでファセットをもつ負晶が1個ずつ存在した。FIBによるサンプリング時に流体包有物である負晶の一部を削ってしまったため、2個ともに流体はすでに抜けていたが、内部にはNaClと思われる物質が蒸発残渣として認められた。負晶の外形の破損はごく一部であったため、負晶の3次元形状抽出時に破損した部分の外形を外挿した。どちらの負晶も表面エネルギーが高い{100}面が発達し、また表面エネルギーの低い{010}面も発達していた。
隕石(LL5-6)サンプルと比較すると{100}と{010}面の発達傾向は一致した。一方、表面自由エネルギーが低い{001}面は隕石サンプルとは異なり発達していなかった。表面エネルギーは、表面吸着分子により低下することが知らてれているが、気体水分子による場合、{100} 面や{010}面と比較して{001}面の相対的な値は変化しない[1]。{001}面の発達の違いは、ピナツボサンプルと隕石サンプルの違いのような負晶界面と接している水分子が、流体と気体の違いあるいは単に、流体と真空の違いの可能性がある。また、負晶形状のエッジに着目すると、ピナツボ火山の負晶のエッジは隕石サンプルに比べ、シャープであった。平衡形では高温になると、エントロピーの寄与によりエッジ自由エネルギーが大きくなるが、この効果を低下させるためにエッジが丸くなることが知られている。隕石サンプルの負晶形状は必ずしも厳密な意味での平衡形ではないと考えられる[3]。厳密な平衡形でなくても、このようなエッジ自由エネルギーのエントロピーの寄与を考えると、ピナツボ火山の負晶は形成温度が隕石サンプル(約1100K)に比べ低温であったことが推測される。
[1] de Leeuw et al. (2000) Phys. Chem. Minerals, 27: 332. [2] Bruno et al. (2014) JCP, 118: 2498. [3] Nakamura et al. (2016) JpGU, PPS12-17 (abstract). [4] Kawamoto et al. (2013) PNAS, 110: 9663
昨年度の連合大会[3]では、普通コンドライト隕石(LL5-6)のかんらん石中の負晶の3次元形状を調べることにより、かんらん石結晶のannealの程度や熱履歴を議論するとともに、annealの進んだ負晶にも表面エネルギーの高い{100}面が発達していることを報告した。これは、一般的に負晶形状は平衡形であると考えられていることと一致せず、水分子などの表面吸着分子の影響の可能性を議論した。本研究では、隕石と形成環境が異なる地球マントル起源のかんらん石中の負晶を調べることにより、流体包有物として水を多量に含む負晶形状を明らかにし、起源の異なる負晶形状の比較をおこなうとともに、マントル起源かんらん石負晶の熱履歴についても議論することを目的とした。
1991年に噴火したフィリピンのピナツボ火山の噴出物(軽石)に含まれるマントル捕獲岩(ハルツバージャイト)中のかんらん石(Mg#:91-92)には、流体包有物としての負晶が存在することが知られている [4]。 本研究では、このマントル捕獲岩の薄片(#P-3)からサンプリングをおこなった。まず偏光顕微鏡によって薄片観察をおこない、かんらん石粒子中に流体包有物が面上に分布しているところを探し、そこから流体包有物を含むようにして、FIB (FEI Quanta 200 3DS)により円柱形状のサンプル(20-30μm)を2個取り出した。サンプルは結像型吸収CT 撮影(SPring-8 BL47XU、7及び8 keV、実効空間分解能:約150 nm)を行い、得られた3次元構造から2値化により負晶の3次元形状を抽出した。サンプルの結晶方位は、母結晶のSEM/EBSD(JEOL 7001F/HKL CHANNEL5)により決定した。CT画像とEBSDで求めた結晶方位から、負晶の結晶面の同定を[3]と同じ手法により行った。
それぞれのサンプルには、15μm程度の大きさでファセットをもつ負晶が1個ずつ存在した。FIBによるサンプリング時に流体包有物である負晶の一部を削ってしまったため、2個ともに流体はすでに抜けていたが、内部にはNaClと思われる物質が蒸発残渣として認められた。負晶の外形の破損はごく一部であったため、負晶の3次元形状抽出時に破損した部分の外形を外挿した。どちらの負晶も表面エネルギーが高い{100}面が発達し、また表面エネルギーの低い{010}面も発達していた。
隕石(LL5-6)サンプルと比較すると{100}と{010}面の発達傾向は一致した。一方、表面自由エネルギーが低い{001}面は隕石サンプルとは異なり発達していなかった。表面エネルギーは、表面吸着分子により低下することが知らてれているが、気体水分子による場合、{100} 面や{010}面と比較して{001}面の相対的な値は変化しない[1]。{001}面の発達の違いは、ピナツボサンプルと隕石サンプルの違いのような負晶界面と接している水分子が、流体と気体の違いあるいは単に、流体と真空の違いの可能性がある。また、負晶形状のエッジに着目すると、ピナツボ火山の負晶のエッジは隕石サンプルに比べ、シャープであった。平衡形では高温になると、エントロピーの寄与によりエッジ自由エネルギーが大きくなるが、この効果を低下させるためにエッジが丸くなることが知られている。隕石サンプルの負晶形状は必ずしも厳密な意味での平衡形ではないと考えられる[3]。厳密な平衡形でなくても、このようなエッジ自由エネルギーのエントロピーの寄与を考えると、ピナツボ火山の負晶は形成温度が隕石サンプル(約1100K)に比べ低温であったことが推測される。
[1] de Leeuw et al. (2000) Phys. Chem. Minerals, 27: 332. [2] Bruno et al. (2014) JCP, 118: 2498. [3] Nakamura et al. (2016) JpGU, PPS12-17 (abstract). [4] Kawamoto et al. (2013) PNAS, 110: 9663