[SCG74-P02] コーサイトのX線その場観察変形実験
キーワード:コーサイト、その場観察、転位クリープ、大陸地殻
大陸地殻は上部マントルと比較してSiO2や放射性元素に富み、その運搬量は地球内部での化学組成分布や熱史に大きな影響を与える可能性がある。そして沈み込む大陸地殻の運搬量は大陸地殻の粘性率が決定すると考えられている。Gleason and Tullis (1995) の石英の変形実験によると深さ90 kmまでは石英の摩擦すべりや塑性変形が大陸地殻の変形を支配する。コーサイトは深さ90 ~ 270 kmの温度圧力領域で安定なSiO2鉱物であり、その深さまで沈み込んだ大陸地殻の変形挙動を支配すると示唆されている。しかしコーサイトの粘性率に関する研究はRenner et al. (2001)のみであり、この先行研究の実験条件はGriggs型高圧変形装置の性能により深さ120 kmより低い圧力領域に限られている。
本研究は将来的により高圧での実験を見越し、D-DIA型高圧変形装置を用いたコーサイトのその場観察一軸圧縮実験を高エネルギー加速器研究機構のPF-ARビームラインNE7Aで行った。出発試料及び回収試料の含水量測定と組織観察はフーリエ変換型赤外分光分析装置と走査型電子顕微鏡を用いてそれぞれ行った。二種類の出発物質を用いており、一つは粒径20 µm含水量460 wtppm以下の石英多結晶体、もう一つは粒径10 µm含水量10 wtppmのコーサイト多結晶体である。一辺7 mmの立方体(Mg,-Co)O圧媒体を切り欠き辺長5 mmのWCとcBNのアンビルで圧縮し高圧発生した。φ3.0/2.5 mmの円筒状の黒鉛ヒーターで加熱し、WRe熱電対で温度測定した。高圧下で一時間焼きなましを行い、石英試料はコーサイトに相転移させ、初期応力を取り除いてから一定ひずみ速度の一軸圧縮変形を行った。その場観察には50 keVの単色X線を用いた。ラジオグラフ像はYAG蛍光体とCCDカメラを用いて、二次元回折像はX線を0.2 mm四方に絞って試料に入射しイメージングプレートで3 ~ 6 分露光して取得した。ひずみはラジオグラフ像から試料の長さを得ることで算出した。変形応力はSingh et al. (1998) の式とChen et al. (2015) に報告された室温下の剛性率を用いて算出した。圧力はAngel et al. (2001).; Galkin et al. (1987) に報告された熱弾性パラメータを用いて算出した。変形条件は温度800 ~ 1100 ℃、圧力3 ~ 4 GPa、ひずみ速度6.7 × 10-6 ~ 1.1 × 10-4 s-1である。
定常クリープが達成された変形条件で定常応力を求めた。結果から粘性率を算出すると800℃で行った変形を除いた全てでRenner et al. (2001) とよく一致した。結果に流動則構成方程式をフィットすると応力指数nは1.72±0.38、活性化エンタルピーH*は99.5±27.7 kJ/molと求まった。Renner et al. (2001) のnは2.9±0.5、H*は261±45 kJ/molである。この不一致の原因は本研究とRenner et al. (2001) の双方において応力値が大きな誤差を持つことによる可能性がある。
Ichikawa et al. (2013) はRenner et al. (2001) の流動則パラメータを用いた数値シミュレーションにより、毎年2.2 km3の大陸地殻が深さ270 kmまで運搬されると報告した。今回我々の得た流動則はn値が低いため、10-12 ~ 10-15 s-1の天然のひずみ速度ではRenner et al. (2001) と比較して低粘性となり、大陸地殻の運搬量はより少なく見積もられることが予想される。
本研究は将来的により高圧での実験を見越し、D-DIA型高圧変形装置を用いたコーサイトのその場観察一軸圧縮実験を高エネルギー加速器研究機構のPF-ARビームラインNE7Aで行った。出発試料及び回収試料の含水量測定と組織観察はフーリエ変換型赤外分光分析装置と走査型電子顕微鏡を用いてそれぞれ行った。二種類の出発物質を用いており、一つは粒径20 µm含水量460 wtppm以下の石英多結晶体、もう一つは粒径10 µm含水量10 wtppmのコーサイト多結晶体である。一辺7 mmの立方体(Mg,-Co)O圧媒体を切り欠き辺長5 mmのWCとcBNのアンビルで圧縮し高圧発生した。φ3.0/2.5 mmの円筒状の黒鉛ヒーターで加熱し、WRe熱電対で温度測定した。高圧下で一時間焼きなましを行い、石英試料はコーサイトに相転移させ、初期応力を取り除いてから一定ひずみ速度の一軸圧縮変形を行った。その場観察には50 keVの単色X線を用いた。ラジオグラフ像はYAG蛍光体とCCDカメラを用いて、二次元回折像はX線を0.2 mm四方に絞って試料に入射しイメージングプレートで3 ~ 6 分露光して取得した。ひずみはラジオグラフ像から試料の長さを得ることで算出した。変形応力はSingh et al. (1998) の式とChen et al. (2015) に報告された室温下の剛性率を用いて算出した。圧力はAngel et al. (2001).; Galkin et al. (1987) に報告された熱弾性パラメータを用いて算出した。変形条件は温度800 ~ 1100 ℃、圧力3 ~ 4 GPa、ひずみ速度6.7 × 10-6 ~ 1.1 × 10-4 s-1である。
定常クリープが達成された変形条件で定常応力を求めた。結果から粘性率を算出すると800℃で行った変形を除いた全てでRenner et al. (2001) とよく一致した。結果に流動則構成方程式をフィットすると応力指数nは1.72±0.38、活性化エンタルピーH*は99.5±27.7 kJ/molと求まった。Renner et al. (2001) のnは2.9±0.5、H*は261±45 kJ/molである。この不一致の原因は本研究とRenner et al. (2001) の双方において応力値が大きな誤差を持つことによる可能性がある。
Ichikawa et al. (2013) はRenner et al. (2001) の流動則パラメータを用いた数値シミュレーションにより、毎年2.2 km3の大陸地殻が深さ270 kmまで運搬されると報告した。今回我々の得た流動則はn値が低いため、10-12 ~ 10-15 s-1の天然のひずみ速度ではRenner et al. (2001) と比較して低粘性となり、大陸地殻の運搬量はより少なく見積もられることが予想される。