JpGU-AGU Joint Meeting 2017

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[EJ]Eveningポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-GL 地質学

[S-GL35] [EJ] 断層における年代と熱および流体流動の時空間的4D履歴の構築

2017年5月25日(木) 15:30 〜 16:45 ポスター会場 (国際展示場 7ホール)

[SGL35-P01] 断層運動が石英の水和層厚さに及ぼす影響:SIMSによる分析

*丹羽 正和1島田 耕史1 (1.日本原子力研究開発機構)

キーワード:断層、石英、水和、二次イオン質量分析

断層の活動性評価は一般に,断層によって変位を受けた地層と断層を被覆する新しい地層の年代とから断層運動の時期を推定する上載地層法によって行われるが,断層を被覆する若い年代の地層との関係が露頭で欠如している場合も多く,上載地層法が適用できない断層も数多く存在する.一方,基盤岩中の破砕帯の新鮮な露頭が侵食によって露出している場合,破砕帯の物質科学的解析から直接的に断層運動の有無やその時期が特定できれば,断層の活動性評価の充実度が格段に増すことが期待される.
 過去の地震性すべりの物質科学的な痕跡としては,摩擦溶融によるシュードタキライトの形成に加え,断層ガウジの流動化や粘土鉱物の分解などが主張されているが,断層面でのシリカの水和・ゲル化もそのうちの一つである(Faber et al., 2014).考古学分野では,石像や石斧などの材料となる黒曜石(ガラス)の年代を推定する手法として,水和層の厚さ測定が適用されている(勝井・近堂,1967;Stevenson et al., 1989).火山ガラスについても,偏光顕微鏡観察による屈折率の違いから水和層を認定し,その厚さと堆積時期との相関関係が見出されている(山下・檀原,1995;生田ほか,2016).堆積環境にもよるが,火山ガラスの水和速度は概ね1 μm/千年のオーダーである.一方,石英はガラスと比べて水和速度が非常に遅く,室温での拡散係数にすると,前者は10-21 cm2/s程度,後者は10-17 cm2/s程度である(Ericson et al., 2004).ただし,天然試料の観察や実験的研究からは,断層面において,水和したシリカの潤滑が地震性滑りに大きく寄与している可能性のある証拠が得られており(Hayashi and Tsutsumi, 2010; Kirkpatrick et al., 2013),断層運動が水和層の成長を促進させている可能性がある.
 そこで本研究では,断層運動が石英の水和層厚さに及ぼす影響を評価するため,二次イオン質量分析装置(SIMS)によってイオンビームを石英表面に照射し,発生する二次イオンを分析することによって水和層の厚さを推定することを試みた.SIMS分析は材料科学技術振興財団において実施し,用いた装置はPhysical electronics PHI 6650またはPHI ADEPT 1010である.一次イオンとしてCsイオンを照射し,二次イオンとしてH,Si,O,Alイオンの強度の試料表面からの深さ10 μmまでのプロファイルを取得した.石英標準試料も併せて計測し,規格化処理により,水和層の発達の指標としてHイオンの濃度の深さ分布を計算した.一次加速電圧は5.0 kV,検出領域は約20 μm×20 μmである.
 本研究ではまず,付加体チャート試料(カリフォルニアのFranciscan Complexおよび日本の美濃帯)を用いてSIMS分析を行った.チャートの定常的な水和層の形成速度に対し,断層運動の影響により水和層がどれだけ成長しているかを評価するため,同じ岩石試料において,1) 鏡肌の明瞭な断層面,2) 断層運動を被っていない自然の岩石表面で凹凸のほとんど無い部分,3) 研磨した岩石内部の面,のそれぞれについて二次イオンの深さプロファイルを取得して比較した.その結果,1)では,少なくとも試料表面(汚れや微妙な凹凸の影響が無視できない部分は除く)から深さ1 μm程度まではそれ以深よりもHイオン濃度が数倍大きくなっているのに対し,断層すべり面と関係のない2)や3)では,Hイオン濃度が深度方向にほとんど変化していないことが明らかとなった.既往の研究では黒曜石の水和層の厚さの分析でSIMSが適用された例はあるが(Liritzis and Laskaris, 2009),本研究により,断層面の石英の水和層厚さの推定にもSIMSが適用できる見通しが得られた.今後は,水和層の厚さの違いと断層の活動時期との関係を検討するため,さらに多くの試料に対して測定を試していきたい.