JpGU-AGU Joint Meeting 2017

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[JJ]Eveningポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-GL 地質学

[S-GL36] [JJ] 地域地質と構造発達史

2017年5月22日(月) 17:15 〜 18:30 ポスター会場 (国際展示場 7ホール)

[SGL36-P04] 埼玉県笠山-堂平山地域のみかぶスラスト

*小野 晃

キーワード:みかぶユニット、柏木ユニット、みかぶスラスト、セリサイト化作用、石英の粒径

三波川帯みかぶユニットと秩父帯柏木ユニットが関東山地北東部の笠山-堂平山地域に分布している(添付図 E ).ユニット境界の基本は低角断層(みかぶスラスト)で,その露頭は数か所で見出されている.スラストではみかぶ緑色岩類の構造的上位に柏木ユニットのジュラ紀後期から白亜紀初期の珪質凝灰岩やチャートが重なっている[1].スラストでの変成温度の急変が示唆されている[2].今回は,小川町栗山北方の帯沢と萩平に認められるスラスト[1,3]やスラストから約2m以内の変成岩を調査した.ユニット間での変成度の差異については,岩石試料の数を増やして検討した.
萩平のみかぶスラストについて,柏木ユニットのチャートや淡緑色珪質凝灰岩の層理面はほぼ一定の走向傾斜であるが,みかぶユニットの緑色岩の片理面はスラストと調和的に波打っている(添付図 A).一部では cm オーダーの複雑な褶曲構造もみられる.断層ガウジはほとんど存在しない.スラスト近傍の緑色岩には著しいセリサイト化作用が認められる.帯沢のみかぶスラストは比較的平坦であるが,露頭中央部に40cmほどの段差がある.チャート層は切断されているが,緑色岩は段差にかなり調和的に変形している.断層ガウジはほとんど存在しないが,一か所に粉砕された泥質岩が認められる.スラスト近傍のチャートや淡緑色珪質凝灰岩にはスティルプノメレンやアルカリ角閃石を含有するものがある.これらの岩石には粒径5µm前後の石英が非常に多い.二次的な破砕作用や変質作用はほとんど認められない.スラスト近傍のみかぶ緑色岩には緑泥石とエピドートが多い.アクチノ閃石はかなり少なくしかも微細である.薄い石英脈や緑泥石脈が非常に多く,そのため緑色岩は細かく破砕されやすい.プレーナイト脈や方解石脈は認められていない.緑色岩には展張割れ目が発達し,割れ目をおもに緑泥石と非常に微細なアクチノ閃石が満たしている(添付図 B,C).スラストから少し遠方のあまり破砕されていない緑色岩でも緑泥石が多く,アクチノ閃石は少量で微細である.セリサイト化作用をうけた緑色岩も存在する.
以上のように,みかぶスラスト近傍の緑色岩はスラストの形成時期に変形作用や変質作用を受けて,緑泥石,微細なアクチノ閃石,セリサイトなどが生成し,石英脈や緑泥石脈が形成されている.
笠山-堂平山地域の柏木ユニットには淡緑色の珪質凝灰岩,灰白色や白色の凝灰岩,黒色の泥岩, 泥質チャート,千枚岩質層状チャート,千枚岩質泥質凝灰岩などが分布している.千枚岩質泥質凝灰岩は泥岩層と灰白色凝灰岩層が細かく互層している.凝灰岩層にはかなり粗粒のフェンジャイトが多く,千枚岩には光沢がある.泥岩層には粒径が5µm前後以下の石英が多い.千枚岩質層状チャートは灰白色凝灰岩の薄層と厚さ約1-2mmのチャート層が互層している.チャート層の石英の粒径は場所による変化が著しく,径20 µm以上の石英も少なくないが,径5µm前後の石英(添付図D)は約50%を占めている.
変成岩の原岩がみかぶスラストで変化しているためスラストでの変成温度の変化を推定できない.しかし,みかぶユニットには淡緑色や灰白色の凝灰質片岩,泥質片岩,砂質片岩,石英片岩などが少数ながら存在する(添付図E,loc.4–8).これらは柏木ユニットの類似の岩石よりも片理面の発達が良好である.添付図Fには岩石薄片中の石英の一般的粒径が提示されている.この図表では原岩が類似しているみかぶユニットと柏木ユニットの変成岩についてのデータが上下に配置されている.みかぶユニットの泥質片岩,フェンジャイト片岩,石英片岩などの石英は,多くの場合粒径が5µm前後よりも大きく,柏木ユニットの類似の変成岩よりも粗粒である.フェンジャイトの粒度についても同様の結論が得られている.
変形状況も柏木ユニットとみかぶユニットではかなり異なる.みかぶユニットの石英片岩では流動塑性変形が顕著であり,大小様々な石英プールが多数形成されている.剪断面に沿って薄く伸長した板状の小さい石英も多い.一方,千枚岩質層状チャートには石英脈は形成されているが,石英プールや板状の石英はほとんど形成されていない.なお,石英片岩(loc.8)の K-Ar 全岩年代は112Maである[2].良好な再結晶作用と顕著な剪断作用を考慮すると,年代値はほぼ変成年代と考えられる.   
[1] 松岡,2013,地球科学,v. 67, 101-112.[2] 小野,2015,日本地質学会第122年学術大会講演要旨,p.215.[3] 豊原・小坂,1981,日本質学会第88年学術大会巡検案内書,103-120.