[SGL36-P07] EPMAを用いた重鉱物の存在比・化学組成分析による後背地解析の試み:中部日本・屏風山断層の例
キーワード:EPMA, heavy mineral, provenance analysis
重鉱物の化学組成は,岩体ごとに固有の値を示すことが多いため,重鉱物の種類や存在比に加えて化学組成を知ることにより,後背地解析に活用できる可能性がある。(Takeuchi, 1994)。従来の偏光顕微鏡を用いた重鉱物同定法では,鉱物粒子の化学組成を別途測定する必要がある。本研究では,清水ほか(2016)のEPMAを利用した鉱物の定量分析法を,活断層である屏風山断層(活断層研究会,1991)周辺の露頭から採取した堆積物試料に適用し,鉱物種の同定や存在比の計測を実施して後背地の推定を試みた。後背地解析を行う上では短時間にできるだけ多数の重鉱物粒子のデータを取得できることが理想であるので,本研究では測定精度よりも迅速さを優先し,1スポットの測定時間を約3分半とした。
対象とした試料は,屏風山断層の断層露頭(香取ほか,2015,2016)付近の砂礫層露頭で採取した4試料(By-M1,By-M2,By-M3,By-M4)である。断層露頭では北西側の東海層群土岐砂礫層(新第三紀鮮新世)に南東側の伊奈川花崗岩(白亜紀後期)が乗り上げている。By-M1は,断層から西側に5m程度離れた土岐砂礫層(主な礫種は濃飛流紋岩と美濃帯堆積岩類)に挟在する中粒砂層より採取した (露頭1)。By-M2,By-M3,By-M4の採取位置は,露頭1から北に10 m程度沢を下った場所に位置する露頭(露頭2)で,未固結で白色の砂層が卓越しており土岐砂礫層よりも新しい時代の堆積物と考えられる。この堆積物は中粒砂が主体で,その中に細かい美濃帯堆積岩類の礫を含む部分が存在する。
By-M1~M4の4試料に高速定量分析法を適用したところ,いずれの試料にもチタン鉄鉱(Ilmenite),金紅石(Rutile),ジルコン(Zircon)が含まれ,重鉱物組成には試料間で大きな差異は見られなかった。本地域の基盤岩である,苗木・上松花崗岩と濃飛流紋岩はチタン鉄鉱の割合が最も多いのに対し,伊奈川花崗岩では普通角閃石(Hornblende)の割合が突出して多い(清水ほか,2016)。しかしながら,普通角閃石は風化により消失する可能性があることから,普通角閃石の量比に基づき堆積物の供給起源を判断するのは難しい。一方,どの分析試料にも含まれているチタン鉄鉱やジルコンは,風化に強いため化学組成を基盤岩と対比することで後背地岩体を推定できる可能性がある。そこで,チタン鉄鉱中のMnO量およびジルコン中のY2O3量に着目し,それぞれについてヒストグラムを作成し比較を行った。その結果,4試料ともほぼ同様のパターンとなり,チタン鉄鉱中のMnO量は約1 wt.%と約3 wt.%のバイモーダルの分布を示し,ジルコン中のY2O3量は0〜0.5 wt.%の粒子が突出して多い傾向を示した。これらの組成データについても本地域の基盤岩の測定値と比較すると,チタン鉄鉱中のMnO量は苗木・上松花崗岩や伊奈川花崗岩よりも濃飛流紋岩の測定値に近い。ジルコン中のY2O3量については,苗木・上松花崗岩に特徴的な3 wt.%以上の粒子(Suzuki and Yogo, 1986)が見られず相対的に濃飛流紋岩に近い。このことは,砂礫層の礫種が花崗岩を欠き,円磨度の比較的高い濃飛流紋岩または美濃帯堆積岩類を主体とすることと整合的である。また,露頭2の新しい堆積物(By-M2,By-M3,By-M4)は土岐砂礫層と同様の重鉱物を含むことから,土岐砂礫層の再堆積を示唆する。
屏風山断層露頭周辺は伊奈川花崗岩が広く分布し,南側が高い地形であることを考えると,砂礫層に伊奈川花崗岩由来の砕屑物が含まれる可能性が高いにもかかわらず,より遠方に分布する濃飛流紋岩由来と考えられるものが含まれている。すなわち,土岐砂礫層が堆積した際には現在高くなっている南側の山地は低く,土岐砂礫層を構成する礫などの堆積物を運搬した河川は濃飛流紋岩や美濃帯の堆積岩類が分布する北~北東側から流れていたが,屏風山断層の活動に伴って山地の高度変化が起こり,現在の地形が形成されたと推測される。
以上より,砂や細かい礫で構成され肉眼観察による記載だけでは後背地岩体を推定することが難しい地層でも,EPMAによる高速定量分析法に基づいて重鉱物を同定し,特定の重鉱物の元素比率を指標として基盤岩と対比することにより供給源を推定でき,後背地解析のツールとなることが示された。この手法は,地層処分における地質環境の長期予測・影響評価モデルの開発に重要な,山地の形成過程の把握に有効と考えられる。
本報告は経済産業省資源エネルギー庁委託事業「地層処分技術調査等事業(地質環境長期安定性評価確証技術開発)」の成果の一部である。
引用文献
Takeuchi (1994), Sedimentary Geology, 93, 85-105.
清水ほか (2016), 日本地質学会第123年学術大会講演要旨, R8-P-8.
活断層研究会編 (1991), 新編 日本の活断層, 東京大学出版会.
香取ほか (2015), 日本地球惑星科学連合2015年大会, SSS29-P06.
香取ほか (2016), 日本地球惑星科学連合2016年大会, SCG63-P17.
Suzuki and Yogo (1986), Bull. Nagoya Univ. Mus., 2, 27-53.
対象とした試料は,屏風山断層の断層露頭(香取ほか,2015,2016)付近の砂礫層露頭で採取した4試料(By-M1,By-M2,By-M3,By-M4)である。断層露頭では北西側の東海層群土岐砂礫層(新第三紀鮮新世)に南東側の伊奈川花崗岩(白亜紀後期)が乗り上げている。By-M1は,断層から西側に5m程度離れた土岐砂礫層(主な礫種は濃飛流紋岩と美濃帯堆積岩類)に挟在する中粒砂層より採取した (露頭1)。By-M2,By-M3,By-M4の採取位置は,露頭1から北に10 m程度沢を下った場所に位置する露頭(露頭2)で,未固結で白色の砂層が卓越しており土岐砂礫層よりも新しい時代の堆積物と考えられる。この堆積物は中粒砂が主体で,その中に細かい美濃帯堆積岩類の礫を含む部分が存在する。
By-M1~M4の4試料に高速定量分析法を適用したところ,いずれの試料にもチタン鉄鉱(Ilmenite),金紅石(Rutile),ジルコン(Zircon)が含まれ,重鉱物組成には試料間で大きな差異は見られなかった。本地域の基盤岩である,苗木・上松花崗岩と濃飛流紋岩はチタン鉄鉱の割合が最も多いのに対し,伊奈川花崗岩では普通角閃石(Hornblende)の割合が突出して多い(清水ほか,2016)。しかしながら,普通角閃石は風化により消失する可能性があることから,普通角閃石の量比に基づき堆積物の供給起源を判断するのは難しい。一方,どの分析試料にも含まれているチタン鉄鉱やジルコンは,風化に強いため化学組成を基盤岩と対比することで後背地岩体を推定できる可能性がある。そこで,チタン鉄鉱中のMnO量およびジルコン中のY2O3量に着目し,それぞれについてヒストグラムを作成し比較を行った。その結果,4試料ともほぼ同様のパターンとなり,チタン鉄鉱中のMnO量は約1 wt.%と約3 wt.%のバイモーダルの分布を示し,ジルコン中のY2O3量は0〜0.5 wt.%の粒子が突出して多い傾向を示した。これらの組成データについても本地域の基盤岩の測定値と比較すると,チタン鉄鉱中のMnO量は苗木・上松花崗岩や伊奈川花崗岩よりも濃飛流紋岩の測定値に近い。ジルコン中のY2O3量については,苗木・上松花崗岩に特徴的な3 wt.%以上の粒子(Suzuki and Yogo, 1986)が見られず相対的に濃飛流紋岩に近い。このことは,砂礫層の礫種が花崗岩を欠き,円磨度の比較的高い濃飛流紋岩または美濃帯堆積岩類を主体とすることと整合的である。また,露頭2の新しい堆積物(By-M2,By-M3,By-M4)は土岐砂礫層と同様の重鉱物を含むことから,土岐砂礫層の再堆積を示唆する。
屏風山断層露頭周辺は伊奈川花崗岩が広く分布し,南側が高い地形であることを考えると,砂礫層に伊奈川花崗岩由来の砕屑物が含まれる可能性が高いにもかかわらず,より遠方に分布する濃飛流紋岩由来と考えられるものが含まれている。すなわち,土岐砂礫層が堆積した際には現在高くなっている南側の山地は低く,土岐砂礫層を構成する礫などの堆積物を運搬した河川は濃飛流紋岩や美濃帯の堆積岩類が分布する北~北東側から流れていたが,屏風山断層の活動に伴って山地の高度変化が起こり,現在の地形が形成されたと推測される。
以上より,砂や細かい礫で構成され肉眼観察による記載だけでは後背地岩体を推定することが難しい地層でも,EPMAによる高速定量分析法に基づいて重鉱物を同定し,特定の重鉱物の元素比率を指標として基盤岩と対比することにより供給源を推定でき,後背地解析のツールとなることが示された。この手法は,地層処分における地質環境の長期予測・影響評価モデルの開発に重要な,山地の形成過程の把握に有効と考えられる。
本報告は経済産業省資源エネルギー庁委託事業「地層処分技術調査等事業(地質環境長期安定性評価確証技術開発)」の成果の一部である。
引用文献
Takeuchi (1994), Sedimentary Geology, 93, 85-105.
清水ほか (2016), 日本地質学会第123年学術大会講演要旨, R8-P-8.
活断層研究会編 (1991), 新編 日本の活断層, 東京大学出版会.
香取ほか (2015), 日本地球惑星科学連合2015年大会, SSS29-P06.
香取ほか (2016), 日本地球惑星科学連合2016年大会, SCG63-P17.
Suzuki and Yogo (1986), Bull. Nagoya Univ. Mus., 2, 27-53.