JpGU-AGU Joint Meeting 2017

講演情報

[EE]Eveningポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-IT 地球内部科学・地球惑星テクトニクス

[S-IT23] [EE] Structure and Dynamics of Earth and Planetary Mantles

2017年5月22日(月) 17:15 〜 18:30 ポスター会場 (国際展示場 7ホール)

[SIT23-P10] 低粘性層を含む内部構造を持つ固体地球の潮汐散逸

*原田 雄司1松本 晃治2 (1.澳門科技大學太空科學研究所月球與行星科學實驗室、2.自然科学研究機構国立天文台RISE月惑星探査検討室)

キーワード:Tidal Dissipation, Solid Earth, Internal Structure, Low-Viscosity Layer

固体地球における潮汐散逸は重要な地球物理学的現象の一つである.固体天体の潮汐散逸は内部構造,特に粘性構造に依存するから,その制約条件と成り得る.粘性構造を制約する事が出来れば,それはマントルダイナミクスを知る為の一つの有益な手掛かりを与えるかも知れない.

固体地球の潮汐応答,特に理論的なラブ数の潮汐周期と粘性構造に対する依存性に関しては既に幾つかの先行研究で調べられている.その結果,測地学的観測から得られたラブ数の周波数依存性を上手く解釈する為にはマントルの内部,特に底部における低粘性層の存在が重要であると考えられている.

その一方,上述の研究と類似の考え方に基づいて我々筆者達は,この様な低粘性層が月のマントルにも存在すると仮定して潮汐クオリティ係数の周波数と内部構造に対する依存性を調べた.結果として地球と同様,もしマントルの底に低粘性層が存在すれば測月観測から得られたクオリティ係数の周波数依存性が説明可能である事を示した.そして更には,その層の粘弾性に対応する特徴的時間スケールは主要な潮汐周期と非常に近い事を見出した.即ち層内で効率的な潮汐発熱が起こる様な粘性率が自己調節的に決まる可能性も示した.

この月潮汐における示唆を踏まえて視点を地球潮汐に戻すと,こうした卓越する潮汐の周期と調和する粘性率が地球の低粘性層でも与えられるのかどうか,は知られていない.過去の研究で明示されていたのは主に複素ラブ数の周波数依存性である.確かに過去の解析においても層の粘性の不確定性は系統的に考慮されていた.但し,その複素ラブ数から導かれるクオリティ係数の粘性構造依存性までは明⽰されていなかった.その点の調査は地球物理学と比較惑星学の双方の観点で有意義である.

そこで本研究では固体地球の潮汐散逸,特にクオリティ係数に及ぼすマントル最下部の低粘性領域の効果を定量的に見積もる為,幾つかの実際の潮汐周期を想定して粘弾性潮汐変形の計算を行なった.ここで密度と弾性率の鉛直構造に関しては地震波の観測に基づく典型的な参照構造を与えた.又,粘性構造に関しては大まかな構造依存性を把握する為,層構造を単純化して上から下へリソスフェア,アセノスフェア,メソスフェア,及び低粘性層の四層だけ設定した.その中で低粘性層の粘性のみ調整して残りの三層の粘性は均一かつ一定とした.クオリティ係数を求める際の複素ラブ数の計算において応力と歪の関係はマクスウェル物体のレオロジー則に従った.そしてクオリティ係数の理論値を観測値と比較する事によって,この層の粘性率を見積もった.

本計算の結果,地球の潮汐変形においても月と同じく低粘性層の緩和時間が潮汐周期に近い事が分かった.ここで低粘性層の影響を加味すれば測地学的観測量と調和的な計算結果が得られるのは先行研究と概ね同様である.今回の研究で更に明らかとなった事は,地球潮汐で特に卓越する半日周潮と日周潮の各周期で共にクオリティ係数を満足する粘性率のマクスウェル緩和時間は潮汐周期に近かった点である.言い換えれば地球の場合でも前述の月の低粘性層の場合と類似する示唆が得られたと言える.

本結果はマントルの底に低粘性層が維持される理由を考察する上で興味深い.何故なら上述の結果は,月の先行研究の中で指摘されたマントル最下部の効率的な潮汐エネルギー散逸は地球のマントル最下部でも励起されている事を意味するからである.即ち月の核マントル境界の直上における粘性の自己調節機構は地球でも有り得る事が予想される.この低粘性領域の緩和時間と潮汐周期の対応関係は,上記の計算の中で定義された内部構造の範囲内において潮汐発熱が最大に近い事を意味する.とは言え,地球深部では放射性壊変の発熱の影響が月よりも支配的であり,従って熱的状態も月深部とは大きく異なる.その点に関しては今後,更なる調査が必要であろう.

本結果はマントルの底に低粘性層が維持される理由を考察する上で興味深い.何故なら上述の結果は,月の先行研究の中で指摘されたマントル最下部の効率的な潮汐エネルギー散逸は地球のマントル最下部でも励起されている事を意味するからである.即ち我々自身が月の潮汐散逸の研究で指摘した核マントル境界付近における粘性の自己調節機構は地球にも存在すると予想される.この低粘性領域の緩和時間が潮汐周期に近いという事実は,上記の計算の中で定義された内部構造の範囲内において潮汐発熱がほぼ最大であるという事を意味する.但し地球深部では放射性壊変の発熱の影響が月よりも支配的であり,従って熱的状態も月深部とは大きく異なるであろう.その点に関しては今後,更なる調査が必要であろう.

謝辞:本研究は澳門特別行政區科學技術發展基金より科研資助039/2013/A2及び007/2016/A1の助成を受けて実施された.