JpGU-AGU Joint Meeting 2017

講演情報

[EJ]Eveningポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-MP 岩石学・鉱物学

[S-MP42] [EJ] 変形岩・変成岩とテクトニクス

2017年5月23日(火) 17:15 〜 18:30 ポスター会場 (国際展示場 7ホール)

[SMP42-P07] 地質圧力計を用いた圧力差の再評価とその地質学的意義

*池田 剛1宮崎 一博2松浦 浩久2 (1.九州大学大学院理学研究院地球惑星科学部門、2.産業技術総合研究所)

キーワード:圧力差、地質温度圧力計、誤差

伝統的な地質圧力計は一般に100 MPa を越える誤差をもち,それは深さにして3.6-2.7 km の誤差に相当する。この誤差ゆえに,一つの変成帯の温度圧力構造(等圧線)を精密に決定することが困難であり,地殻進化の数値モデルの妥当性を評価するに耐える観測値を提供できない。本研究では,伝統的な地質圧力計の一般式を再評価し,同一手法で求めた試料の圧力差の誤差が圧力の絶対値の誤差よりも1桁小さいことを明らかにした。
 伝統的な地質圧力計の圧力誤差は,エンタルピー変化の誤差とエントロピー変化の誤差に起因する。地殻内部で実現する温度範囲において,両者に起因する圧力誤差は同程度の値を持つ。例えば,ザクロ石−単斜輝石−斜長石−石英の反応を用いた地質圧力計の場合,エンタルピー変化の誤差に起因する圧力誤差は約120 MPa,エントロピー変化の誤差に起因する圧力誤差は 727 oC で約120 MPa となる。その結果,圧力計の誤差は160 MPa となる。
 これに対し,同じ地質圧力計で求めた2つの試料の条件の圧力差が持つ誤差には,エンタルピー変化の誤差に起因する誤差はなくなる。しかもエントロピー変化の誤差に乗じるのは絶対温度でなく2試料の温度差であり,有意に小さい値である。その結果,上述の例で温度差200 ℃ の試料間の圧力差の誤差は 32 MPa となる。これは,深さにして 1.2 km の差を検知できるということである。
 実際の応用例として,九州北部大牟田地域に産する高温変成コンプレックスを検討する。この変成コンプレックスは白亜紀の花崗岩類と接しており,変成作用が広域なのか花崗岩による接触なのかが問題となっていた。地理的に6.8 km 離れた2地点の変成条件を同一地質温度圧力計で求めたところ,圧力差が 320 MPa,誤差は10 MPa であることがわかった。これは深さで11-12(誤差0.3 km)の差に相当し,変成作用時に2地点は少なくともこの距離だけ離れていたことを意味する。それが現在,6.8 km (アイソグラッドに直交する方向には 2.3 km)の位置にある。間に変位の大きい断層がないことから,後退変成作用時に地殻が薄層化したことが推測される。このことは変成コンプレックスが接触変成岩でなく広域変成岩であることを示唆する。