JpGU-AGU Joint Meeting 2017

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[JJ]Eveningポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-MP 岩石学・鉱物学

[S-MP44] [JJ] 鉱物の物理化学

2017年5月21日(日) 17:15 〜 18:30 ポスター会場 (国際展示場 7ホール)

[SMP44-P04] 常温に急冷したプロトエンスタタイトの構造について

*神崎 正美1 (1.岡山大学惑星物質研究所)

キーワード:プロトエンスタタイト結晶構造、リートベルト法による定量分析、エンスタタイトの相関係

protoenstatite(MgSiO3)は一般には常温に回収できないとされているが、急冷した例がいくつか報告されている(e.g., Lee and Heuer, 1987)。我々も以前に炉外に取り出し放冷したMgSiO3試料を29Si MAS NMR測定したところ、low-clinoenstatite以外にprotoenstatiteが存在することを見出した(Xue et al., 2002)。しかしながら、室温に回収したprotoenstatiteの結晶構造やその定量は行われていない。本研究では異なる冷却速度で1500 oCから室温まで冷却した試料を粉末X線回折法と顕微ラマン分光法で調べた。
出発物質はMgOとSiO2試薬を混合し、ペレットを作り、1500 oCで2度加熱処理したものである。以前の報告(Lee and Heuer, 1987; Reynard et al., 2008)では、ガラスまたはメルトを急冷したものからprotoenstatiteが得られていたが、我々の実験では通常の固相合成法を使っている。得られた試料を出発物質として、1500 oCに5時間保持して、4つの異なる冷却速度(150 K/h, 15K/h, 白金るつぼの底を水で急冷、試料自体を水で急冷)で室温に回収した。protoenstatiteはすり潰すことでlow-clinoenstatiteへ変化することが報告されているので、試料は注意して扱った。回収した試料は粉末状であり、粉末X線回折法用試料も粉砕する必要なく、ガラスホルダーに詰めることができた。粒径は全ての試料でほぼ同じで、5 ミクロン程度の角ばった結晶であった。測定した回折データはRietveld法を使って、構造精密化および定量分析を行った(RIETAN-FPプログラム使用)。ラマン分光法ではReynard et al. (2008)を参照して、enstatite多形を同定した。
粉末X線回折パターンからは、全ての試料においてprotoenstatiteがlow-clinoenstatiteとともに存在することが分かった。protoenstatiteとlow-clinoenstatiteの存在は顕微ラマン分光法においても全ての試料(および出発物質)で確認された。protoenstatiteを最も多く含む試料を使い、protoenstatiteの室温での結晶構造をRietveld法で精密化した。格子定数は過去の高温測定データ(Jiang et al., 2002)を室温に外挿したものとよい一致を示し、構造に大きな変化がないことを示す。精密化された結晶構造はこれまでに知られている高温での構造と大きな違いはなく、また、第一原理計算から予測されたもの( 0 K)ともよく一致した。Rietveld法で定量分析を行い、白金るつぼの底を水で急冷した試料においては、protoenstatiteが約40%、ごく普通の冷却速度(15 K/h)の試料についても30%程度含まれることが分かった。3つの試料については、冷却速度が早い方がprotoenstatiteが多い傾向があったが、一方で直接水に接触させて急冷した試料では30%と低い値となった。
本研究は、ごく普通の固相合成法を利用していても、protoenstatiteがかなりの量含まれていることを明らかにした。これは従来のMgSiO3系相平衡実験の出発物質にprotoenstatiteが知らずに含まれていた可能性を示唆し、場合によっては結果の再吟味が必要であろう。そのような例として、low-clinoenstatiteとorthoenstatiteの相平衡実験において、見過ごされたprotoenstatiteが誤った相関係を導いた可能性について議論する。
Jiang, D. et al. (2002) J. Min. Petrol. Sci., 97, 20
Lee, W.E. and Heuer, A.H. (1987) J. Am. Ceram. Sco., 70, 349
Reynard, B. et al. (2008) J. Euro. Ceram. Soc., 28, 2459
Xue, X. et al. (2002) Geochim. Cosomochim. Acta, 66, A853