[SMP44-P12] 熱水変質を受けた花崗岩中黒雲母の緑泥石化機構に関する新しい知見
キーワード:緑泥石化、黒雲母、熱水変質、花崗岩
花崗岩中の熱水変質による黒雲母の緑泥石化機構は、花崗岩の変質史を理解するためにこれまでも多くの研究が行われてきた。しかしその研究は、結晶学的な手法と組成分析を主とする手法のどちらかに偏ったものに限られていた。本研究では、この黒雲母の緑泥石化の過程を結晶構造と化学組成変化の両面から検討した。その結果、黒雲母の緑泥石化には2種類の転移機構が同時に起きていることが強く示唆された。
調べた試料は日本中部に位置する土岐花崗岩帯で、岐阜県瑞浪市に位置する超深地層研究所の坑道の海抜-274 mから-314 m付近で採取された。薄片観察により、この花崗岩は様々な緑泥石化の程度を持つ黒雲母を含んでいることが判った。未変質に近い黒雲母粒子と完全に緑泥石化した粒子を薄片から切り出し、ガンドルフィカメラを用いてX線回折パターンを取得した。その結果、ほぼ未変質の黒雲母粒子のポリタイプは1M、完全に緑泥石化した粒子のポリタイプグループはⅡbbであることが判明した。EPMAによる分析により、この完全に緑泥石化した粒子には黒雲母には含まれているTiがまったく含まれていないことが分かった。一方で一部が緑泥石化した黒雲母の組成マッピングからは、Kを含んでいない(黒雲母ではない)が、Tiを含んでいる部分が含まれていることが判った。他の元素を比べると、この部分もまた緑泥石と考えられた。これらを定量分析したところ、Tiの有無によってAlの量やFe/Mg比に違いが見られることが確かめられた。またTEMによる電子回折パターンと高分解能像の観察から、これらのTiを含む部分と含まない粒子はどちらも緑泥石であることが確認できた。
我々は、この組成の違いは黒雲母の緑泥石化の機構の違いによるものだと考えた。つまり、Tiを含む緑泥石化は黒雲母の2:1層を引き継ぎ、Tiを含まない緑泥石は溶解と再析出の過程を経て形成されたと推察した。Tiは黒雲母中では2:1層の八面体シート中にあるので、緑泥石化でこの2:1層を引き継げば、緑泥石はTiを含むことになる。一方で一度黒雲母が熱水に溶解し、再析出で形成された緑泥石はTiを含まず、この場合Tiは熱水中のカルシウム・ケイ素と共にチタナイトを形成する。電子回折を見ると、Tiを含む緑泥石は、異なる複数のポリタイプグループが混ざった回折パターンを示し、これは完全に緑泥石化したⅡbbの粒子とは構造的に不連続であることを示唆する。Ⅱbbは緑泥石の最も安定な積層構造なので、溶解再析出した場合はIIbbが形成されるが、緑泥石が黒雲母の2:1層を引き継いだ場合、黒雲母と緑泥石の層間の構造の違いにより完全なⅡbbの形成は難しいと考えられる。さらに高分解能TEM像を詳細に調べると、Tiを含む緑泥石は2:1層の方向が揃っており、これは1Mのポリタイプを持つ黒雲母から2:1層が引き継がれたと考えることで説明できる。これに対してTiを含まない緑泥石は2:1層の向きが揃っておらず、構造的に明瞭な違いが観察された。
調べた試料は日本中部に位置する土岐花崗岩帯で、岐阜県瑞浪市に位置する超深地層研究所の坑道の海抜-274 mから-314 m付近で採取された。薄片観察により、この花崗岩は様々な緑泥石化の程度を持つ黒雲母を含んでいることが判った。未変質に近い黒雲母粒子と完全に緑泥石化した粒子を薄片から切り出し、ガンドルフィカメラを用いてX線回折パターンを取得した。その結果、ほぼ未変質の黒雲母粒子のポリタイプは1M、完全に緑泥石化した粒子のポリタイプグループはⅡbbであることが判明した。EPMAによる分析により、この完全に緑泥石化した粒子には黒雲母には含まれているTiがまったく含まれていないことが分かった。一方で一部が緑泥石化した黒雲母の組成マッピングからは、Kを含んでいない(黒雲母ではない)が、Tiを含んでいる部分が含まれていることが判った。他の元素を比べると、この部分もまた緑泥石と考えられた。これらを定量分析したところ、Tiの有無によってAlの量やFe/Mg比に違いが見られることが確かめられた。またTEMによる電子回折パターンと高分解能像の観察から、これらのTiを含む部分と含まない粒子はどちらも緑泥石であることが確認できた。
我々は、この組成の違いは黒雲母の緑泥石化の機構の違いによるものだと考えた。つまり、Tiを含む緑泥石化は黒雲母の2:1層を引き継ぎ、Tiを含まない緑泥石は溶解と再析出の過程を経て形成されたと推察した。Tiは黒雲母中では2:1層の八面体シート中にあるので、緑泥石化でこの2:1層を引き継げば、緑泥石はTiを含むことになる。一方で一度黒雲母が熱水に溶解し、再析出で形成された緑泥石はTiを含まず、この場合Tiは熱水中のカルシウム・ケイ素と共にチタナイトを形成する。電子回折を見ると、Tiを含む緑泥石は、異なる複数のポリタイプグループが混ざった回折パターンを示し、これは完全に緑泥石化したⅡbbの粒子とは構造的に不連続であることを示唆する。Ⅱbbは緑泥石の最も安定な積層構造なので、溶解再析出した場合はIIbbが形成されるが、緑泥石が黒雲母の2:1層を引き継いだ場合、黒雲母と緑泥石の層間の構造の違いにより完全なⅡbbの形成は難しいと考えられる。さらに高分解能TEM像を詳細に調べると、Tiを含む緑泥石は2:1層の方向が揃っており、これは1Mのポリタイプを持つ黒雲母から2:1層が引き継がれたと考えることで説明できる。これに対してTiを含まない緑泥石は2:1層の向きが揃っておらず、構造的に明瞭な違いが観察された。