[SRD39-P05] 鹿児島湾若尊海底熱水系における輝安鉱の沈澱条件
キーワード:輝安鉱、海底熱水系、鹿児島湾
鹿児島湾湾奥部の水深約 200m の海底に若尊熱水系と呼ばれる活発な熱水噴出活動が確認されている。過去の潜航調査から少なくとも3か所でチムニーを伴う熱水噴出活動が見つかっており、これらのチムニーは主に輝安鉱の塊状硫化物から成るマウンドの上に形成されている。先行研究より、この硫化物マウンドはかつて海底下で形成され、その後小規模な水蒸気爆発のような噴火活動が起こり、海底面上に噴出した可能性が示されており、海底下において鉱床規模での硫化物沈殿が生じていることが期待されている。
本研究では、若尊海底下において輝安鉱沈殿適した条件が存在するのかを明らかにすることを目的とし、鉱物の共生関係、EPMA分析による元素分析、硫黄同位体比測定を行い、その結果と先行研究で明らかとされている熱水の化学的、物理的条件に基づいて熱力学計算を行った結果を合わせて輝安鉱沈殿条件について検討した。
検鏡およびEPMA分析を行った結果、微量ではあるが黄鉄鉱、閃亜鉛鉱、黄銅鉱、方鉛鉱の存在が認められた。硫黄同位体比測定の結果、輝安鉱の硫黄同位体比は試料ごとにあまり差が無いのに対し、黄鉄鉱の硫黄同位体比には比較的大きな差が認められた。産状と合わせて考えると、これらの硫化物が輝安鉱と共生関係にあるとは見なせないと結論づけた。閃亜鉛鉱中のFeS含有量についてEPMA分析を行った結果、0.5~41.0mol%とおおきなばらつきを示し、このことから閃亜鉛鉱は様々な酸化還元条件で沈殿していると考えられた。よって、熱水の酸化還元条件は一様ではなく、輝安鉱も様々な酸化還元条件で沈殿していると考えられる。輝安鉱の硫黄同位体比と、本海域の噴気ガスや熱水試料から得られた硫化水素の同位体比を用いて硫黄同位体地化学温度計を用いて形成温度を見積もったところ110~220℃と算出された。
アンチモンに関する熱力学データから、アンチモンはH2Sb2S4,HSb2S4-,Sb2S42-,Sb(OH)3の錯体で熱水中に溶存していると推定された。酸化還元条件はアンチモンの溶解度と関係がなく、さらに硫化水素濃度の変化による溶解度への影響もほとんどないと考えられた。また、pH条件について、若尊では熱水中に火山ガス由来もしくは堆積有機物分解起源のCO2が多量に溶解していることによりpH=6でほとんど一定であるため、pH変化に伴う溶解度の変化は無視できる。このような条件下において熱水が200℃以上になると1ppm以上のアンチモンが熱水中に溶け込み、鉱液として有効な熱水になると考えられた。その一方で、温度が170℃より低温になると溶解度は劇的に低下し、それに従って輝安鉱の沈殿も生じると推測された。この温度条件は硫黄同位体比から推測された輝安鉱の沈殿温度と矛盾しない。熱水の温度低下は、上昇に伴う伝導的なものと、海水との混合によるものが考えられる。いずれの場合も、輝安鉱の沈澱に影響しないが、本海域からはマグネシウムを含む熱水性粘土鉱物が報告されており、その形成温度が約130℃とされていることから、海水の混合が温度低下の主因だと考えられる。なお、本海域の硫化物には最大500ppmほどの金の濃縮が認められるが、金の濃縮は、酸化的な海水の混合に起因すると考えられる。
以上より、若尊熱水系における輝安鉱の沈殿は温度によるコントロールが主体であり、輝安鉱の沈殿には高温の熱水が噴出するチムニーよりも海底下におけるおだやかな温度低下が生じている環境のほうが適していると考えられる。
本研究では、若尊海底下において輝安鉱沈殿適した条件が存在するのかを明らかにすることを目的とし、鉱物の共生関係、EPMA分析による元素分析、硫黄同位体比測定を行い、その結果と先行研究で明らかとされている熱水の化学的、物理的条件に基づいて熱力学計算を行った結果を合わせて輝安鉱沈殿条件について検討した。
検鏡およびEPMA分析を行った結果、微量ではあるが黄鉄鉱、閃亜鉛鉱、黄銅鉱、方鉛鉱の存在が認められた。硫黄同位体比測定の結果、輝安鉱の硫黄同位体比は試料ごとにあまり差が無いのに対し、黄鉄鉱の硫黄同位体比には比較的大きな差が認められた。産状と合わせて考えると、これらの硫化物が輝安鉱と共生関係にあるとは見なせないと結論づけた。閃亜鉛鉱中のFeS含有量についてEPMA分析を行った結果、0.5~41.0mol%とおおきなばらつきを示し、このことから閃亜鉛鉱は様々な酸化還元条件で沈殿していると考えられた。よって、熱水の酸化還元条件は一様ではなく、輝安鉱も様々な酸化還元条件で沈殿していると考えられる。輝安鉱の硫黄同位体比と、本海域の噴気ガスや熱水試料から得られた硫化水素の同位体比を用いて硫黄同位体地化学温度計を用いて形成温度を見積もったところ110~220℃と算出された。
アンチモンに関する熱力学データから、アンチモンはH2Sb2S4,HSb2S4-,Sb2S42-,Sb(OH)3の錯体で熱水中に溶存していると推定された。酸化還元条件はアンチモンの溶解度と関係がなく、さらに硫化水素濃度の変化による溶解度への影響もほとんどないと考えられた。また、pH条件について、若尊では熱水中に火山ガス由来もしくは堆積有機物分解起源のCO2が多量に溶解していることによりpH=6でほとんど一定であるため、pH変化に伴う溶解度の変化は無視できる。このような条件下において熱水が200℃以上になると1ppm以上のアンチモンが熱水中に溶け込み、鉱液として有効な熱水になると考えられた。その一方で、温度が170℃より低温になると溶解度は劇的に低下し、それに従って輝安鉱の沈殿も生じると推測された。この温度条件は硫黄同位体比から推測された輝安鉱の沈殿温度と矛盾しない。熱水の温度低下は、上昇に伴う伝導的なものと、海水との混合によるものが考えられる。いずれの場合も、輝安鉱の沈澱に影響しないが、本海域からはマグネシウムを含む熱水性粘土鉱物が報告されており、その形成温度が約130℃とされていることから、海水の混合が温度低下の主因だと考えられる。なお、本海域の硫化物には最大500ppmほどの金の濃縮が認められるが、金の濃縮は、酸化的な海水の混合に起因すると考えられる。
以上より、若尊熱水系における輝安鉱の沈殿は温度によるコントロールが主体であり、輝安鉱の沈殿には高温の熱水が噴出するチムニーよりも海底下におけるおだやかな温度低下が生じている環境のほうが適していると考えられる。