JpGU-AGU Joint Meeting 2017

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[EJ]Eveningポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-SS 地震学

[S-SS12] [EJ] 活断層と古地震

2017年5月23日(火) 17:15 〜 18:30 ポスター会場 (国際展示場 7ホール)

[SSS12-P14] 能郷白山付近における根尾谷断層北部の断層変位地形と活動履歴

*田中 知季1金田 平太郎1井上 勉 (1.千葉大学大学院理学研究科地球科学コース)

キーワード:活断層、古地震学、航空レーザー測量、濃尾地震

1891年に発生した濃尾地震(Mw7.5) では, 主として,温見断層, 根尾谷断層, 梅原断層の3条の左横ずれ活断層が連動破壊を起こし, 甚大な被害をもたらした. これらの活断層のうち, 根尾谷断層中部以南では地震後多くの研究が行われ, 平均変位速度や活動履歴などの情報が得られているが, 同断層北部については,植生に覆われた山岳地域に位置することもあって詳しい現地調査はこれまで行われておらず, この区間の平均変位速度や活動履歴は不明であった. そこで本研究では, これらを明らかにすることを目的として, 段丘面を切る低断層崖の存在が報告されている(松田,1974;佐々木・上田,2012)能郷白山南西方(温見白谷最上流部)について,航空レーザー測量データを用いた詳細な地形判読および現地調査を行うとともに, 低断層崖をまたぐ形で手掘りによるトレンチ掘削調査を実施した.
温見白谷最上流部には複数段の河成段丘面が発達しており, 上位から順にNS-Ⅰ面, NS-Ⅱ面, NS-Ⅲ面, NS-Ⅳ面の4面に分類される.このうち最も広く発達するNS-Ⅱ面上には段丘面を横切って明瞭な逆向き低断層崖が存在し,NS-Ⅱ面に3.0±0.1 mの上下変位を与えている.また,この段丘面を開析する支谷は28±5 m,uphill方向に左屈曲しており, この谷が低断層崖と交差する地点では,段丘構成礫層と基盤岩(礫岩)を境する活断層の露頭が確認された.
このNS-Ⅱ面上の逆向き断層崖をまたいで長さ約5.5m, 深さ約1.5m, 幅約1mのトレンチを掘削した. トレンチ壁面には,隆起側の段丘構成礫層と低下側のせき止め堆積物を境する断層が露出した.低下側には, 地表面から表土, 湿地堆積物と考えられる黒色泥炭層, 湖沼堆積物と考えられる灰色粘土層, 風成層と考えられる黄褐色シルト層, および段丘構成礫層が確認された. 黄褐色シルト層と灰色粘土層の境界は極めて明瞭であり, 劇的な堆積環境の変化を示唆する. また, 灰色粘土層は, 断層に向かって撓み上がるような変形を受けており, その上位の黒色泥炭層はこれを不整合に覆って堆積している. さらに,黒色泥炭層中にみられる有機物濃集層も断層直近で撓み上がっている. 以上の層相変化や変形構造等から, 段丘構成礫層堆積以降計4回の古地震イベントを認定した. 火山灰分析結果から, このうち3回のイベントは鬼界アカホヤテフラ降灰(約7.3 ka)以降に発生したことが明らかになり, 最新のイベントは1891年濃尾地震である可能性がある. また,NS-Ⅱ面の離水は姶良丹沢テフラ降灰(約30 ka)以降,鬼界アカホヤテフラ降灰以前と考えられることから,上記の開析谷の屈曲量に基づくと,この付近の根尾谷断層の左横ずれ平均変位速度は少なくとも2.6±1.9 mm/yr以上に達することになる.
以上から,根尾谷断層北部区間が同断層中部と同等ないしそれ以上の高い活動度を持つ可能性が高いことが示された.注目すべきは,このような高い活動度を持つ活断層が通過するにも関わらず, 同区間において本研究地域以外には明瞭な断層変位地形がほとんど見られないことである. 大起伏山地における高い侵食速度によって断層変位地形が失われたと考えられるが,このことは, 他の高い活動度を持つ活断層においても, 山岳地域では明瞭な断層変位地形を伴わない可能性があることを示唆する. 後氷期の激しい削剥・侵食が及んでいない温見白谷の最上流部に位置するため,本研究地域では局所的に断層変位地形が保存されていたものと推定される.