JpGU-AGU Joint Meeting 2017

講演情報

[JJ]Eveningポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-SS 地震学

[S-SS17] [JJ] 地震発生の物理・断層のレオロジー

2017年5月21日(日) 17:15 〜 18:30 ポスター会場 (国際展示場 7ホール)

[SSS17-P13] アルゴン雰囲気下におけるドレライトの中速摩擦特性に対する温度効果

*横山 湧紀1村山 寛樹1金川 久一1澤井 みち代1 (1.千葉大学)

キーワード:摩擦、温度効果、ドレライト

大地震の発生時には断層が高速・大変位運動するため、断層内部に顕著な摩擦熱が発生する。この発熱によって、断層内の物質が瞬時に溶融や熱分解をすることで、断層が著しく弱くなることが90年代以降明らかとなってきた(例えばTsutsumi and Shimamoto, 1997やDi Toro et al., 2011)。地震時の断層挙動に対する温度の重要性は広く認識されてきたが、震源核が形成され地震発生時のすべり速度に至るまでの中速度領域(数mm/s-数cm/s)に対する温度効果の見積もりはこれまで数例しかなく(Noda et al., 2011)、すべり速度依存性に与える背景温度の効果は明らかではない。またYao et al. (2015) では、熱伝導率の異なる母岩に同じ断層ガウジを挟み高速摩擦実験をおこなった結果、熱伝導率の違いによって摩擦係数が大きく異なることが示された。これは断層周辺の温度環境が、すべり速度の速い領域において断層摩擦強度に大きな効果を示す可能性があることを示唆するものである。そこで本研究では、高温条件下での中速摩擦実験を実施し、岩石の摩擦特性が背景温度の変化に伴いどのように変化するのかを検証した。
実験には比較的熱破壊に強いベルファスト産ドレライトを使用し、千葉大学設置の回転式高温摩擦試験機を用いた。地下の断層は酸素に乏しい環境下にあることを考慮し、アルゴン雰囲気下(酸素濃度0.2 %程度)で、垂直応力1 MPa、すべり速度1 - 300 mm/s、各速度におけるすべり量10 - 20 mの条件で実験をおこなった。温度は高周波コイルによって加熱し、20oC - 500oCの温度範囲で力学挙動にどのような変化が見られるかを調べた。
20oCおよび100oCでは、1 mm/sで約0.81 - 0.83の値を示した摩擦係数は、速度が上昇するにつれ速度弱化の傾向示し、30 mm/sでは約0.73の値を示した。それに対して300oC以上では、わずかに速度弱化の傾向を示すものの、1- 30 mm/sの比較的低速度範囲では摩擦係数はおよそ0.81 - 0.85の値を示し大きな変化が見られなかった。しかしすべり速度100 mm/sになると20oCおよび100oCでは摩擦係数がわずかに上昇し速度強化の性質を示したのに対し(μ = 0.75 - 0.79)、300oC以上では明瞭な速度弱化の傾向を示した(μ = 0.67 - 0.76)。さらに300 mm/sになるとすべての温度条件で摩擦係数が低下し、その低下量は背景温度が高くなるほど大きくなることがわかった(摩擦低下量∆μ = 0.1 - 0.38)。つまりドレライトの摩擦特性はすべり速度だけでなく背景温度の影響を大きく受け、高温条件下では断層が著しく弱くなる速度が低速側にシフトすることが考えられる。これは、地震が発生し破壊が伝播する際に、より温度が高い深部へと先に破壊が伝播する可能性があることを示唆するものである。実際に2011年東北沖太平洋沖地震時にそうした挙動が確認されたことを鑑みても(Ide et al., 2011)、中速・高速領域での断層強度に対する温度効果を明らかにすることは、地下深部の破壊伝播をより現実的に理解する上で重要な要素の1つとなると考えられる。