[SSS17-P20] 福島県南相馬市に発達する社地神剪断帯のマイロナイトを利用した変形条件の推定
キーワード:社地神剪断帯、マイロナイト、格子定向配列
福島県南相馬市の阿武隈東縁構造帯(南部北上帯)には北東–南西方向に延びる剪断帯が発達しており,社地神剪断帯と呼ばれている(山元ほか,1989).剪断帯中央部の社地神断層に沿って東側に花崗閃緑岩が,西側に石灰岩が分布しており,共に変形を受けている.久田・高木(1992)は断層岩の変形構造から,花崗閃緑岩マイロナイトは左ずれを示し,花崗閃緑岩カタクレーサイトと石灰岩マイロナイトは右ずれを示すことを報告している.今回,SEM–EBSD法により測定した花崗閃緑岩マイロナイト中の再結晶石英および石灰岩マイロナイト中の再結晶方解石の格子定向配列(以下LPO)パターンと粒径分布に基づいて変形条件を推定したので,報告する.
花崗閃緑岩マイロナイトの多くはマイロナイト化に重複してカタクレーサイト化を被っている.マイロナイトの非対称構造は左ずれを示す.マイロナイト試料の再結晶石英粒子(平均粒径13.8–21.1 μm)の結晶方位は,多くの試料でrhomb<a>すべりとprism<a>すべりに起因する集中を示した.推定した優先すべり系は,c軸の集中パターンであるタイプIクロスガードルとY集中の中間に対応している.変形微細構造とLPOパターンから,このマイロナイトは400 °C前後の環境で変形したと推定できる(竹下,1996; Passchier and Trouw, 2005).
石灰岩マイロナイトは,社地神断層に近い試料ほど強くマイロナイト化しており,いずれも右ずれを示す.ただし,一部の石灰岩マイロナイト中の方解石ポーフィロクラスト内部に,左ずれの運動が保存されている.再結晶方解石粒子(平均粒径16.9–46.9 μm)のc軸はZ方向から10–20° 程度時計回りに回転した方向に集中し,a軸はガードル状に集中する.マイロナイト中の方解石には双晶の屈曲が認められ,200 °C以上で変形したと考えられる(Burkhard, 1993).
花崗閃緑岩の角閃石K–Ar年代は105 Maであり(資源エネルギー庁,1990),400 °C前後での変形はそれ以後に生じたと考えられる.また,花崗閃緑岩カタクレーサイトがホルンフェルス化していることから,その熱源は阿武隈帯の新期花崗岩類に求められ,石灰岩マイロナイトの変形は90 Ma以前であると考えられている(久田・高木,1992). 以上より,社地神剪断帯の花崗閃緑岩は,105 Ma以降に400 °C前後の環境で花崗閃緑岩が左横ずれのマイロナイト化を受けた.その後,応力方向が変化した結果右横ずれ変形に転換し,90 Maまでに200–300 °Cの環境で石灰岩のマイロナイト化と花崗閃緑岩のカタクレーサイト化が生じたと推定できる.
文献
Burkhard, 1993, Jour. Struct. Geol., 15, 351–368.
久田 司・高木秀雄, 1992, 地質雑, 98, 137–154.
Passchier, C. W. and Trouw, R. A. J., 2005, Springer, Berlin, 366p.
資源エネルギー庁, 1990, 資源エネルギー庁, 116p.
竹下 徹, 1996, 地質雑, 102, 211–222.
山元孝広・久保和也・滝沢文教, 1989, 地質雑, 95, 701–710.
花崗閃緑岩マイロナイトの多くはマイロナイト化に重複してカタクレーサイト化を被っている.マイロナイトの非対称構造は左ずれを示す.マイロナイト試料の再結晶石英粒子(平均粒径13.8–21.1 μm)の結晶方位は,多くの試料でrhomb<a>すべりとprism<a>すべりに起因する集中を示した.推定した優先すべり系は,c軸の集中パターンであるタイプIクロスガードルとY集中の中間に対応している.変形微細構造とLPOパターンから,このマイロナイトは400 °C前後の環境で変形したと推定できる(竹下,1996; Passchier and Trouw, 2005).
石灰岩マイロナイトは,社地神断層に近い試料ほど強くマイロナイト化しており,いずれも右ずれを示す.ただし,一部の石灰岩マイロナイト中の方解石ポーフィロクラスト内部に,左ずれの運動が保存されている.再結晶方解石粒子(平均粒径16.9–46.9 μm)のc軸はZ方向から10–20° 程度時計回りに回転した方向に集中し,a軸はガードル状に集中する.マイロナイト中の方解石には双晶の屈曲が認められ,200 °C以上で変形したと考えられる(Burkhard, 1993).
花崗閃緑岩の角閃石K–Ar年代は105 Maであり(資源エネルギー庁,1990),400 °C前後での変形はそれ以後に生じたと考えられる.また,花崗閃緑岩カタクレーサイトがホルンフェルス化していることから,その熱源は阿武隈帯の新期花崗岩類に求められ,石灰岩マイロナイトの変形は90 Ma以前であると考えられている(久田・高木,1992). 以上より,社地神剪断帯の花崗閃緑岩は,105 Ma以降に400 °C前後の環境で花崗閃緑岩が左横ずれのマイロナイト化を受けた.その後,応力方向が変化した結果右横ずれ変形に転換し,90 Maまでに200–300 °Cの環境で石灰岩のマイロナイト化と花崗閃緑岩のカタクレーサイト化が生じたと推定できる.
文献
Burkhard, 1993, Jour. Struct. Geol., 15, 351–368.
久田 司・高木秀雄, 1992, 地質雑, 98, 137–154.
Passchier, C. W. and Trouw, R. A. J., 2005, Springer, Berlin, 366p.
資源エネルギー庁, 1990, 資源エネルギー庁, 116p.
竹下 徹, 1996, 地質雑, 102, 211–222.
山元孝広・久保和也・滝沢文教, 1989, 地質雑, 95, 701–710.