JpGU-AGU Joint Meeting 2017

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[JJ]Eveningポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-VC 火山学

[S-VC49] [JJ] 火山防災の基礎と応用

2017年5月20日(土) 17:15 〜 18:30 ポスター会場 (国際展示場 7ホール)

[SVC49-P06] 浅間山天明噴火降下火山灰粒子の遠方での地質学的認定:千葉県我孫子市における試み

*竹内 晋吾1上澤 真平1 (1.一般財団法人 電力中央研究所 地球工学研究所 地圏科学領域)

キーワード:降下火山灰、浅間山、火山ガラス

火山から遠方の地域に堆積した降下火山灰について、土壌中の粒子の分析により火山灰を認定し、火山灰粒子の粒径などの特性を得るための技術的検討を行っている。一例として、浅間山天明噴火の降下火山灰を対象とした千葉県我孫子市での調査について報告する。

降下火山灰は火山の遠方にまで到達し、人間社会に様々な影響を及ぼす。その影響の大小は堆積量の他、降下火山灰の粒径にも依存する。比較的最近に起こった噴火による降下火山灰は噴火直後の調査により、わずかな堆積量まで計測され、降灰分布などが良く調べられている(例えば及川ほか, 2010, 地質調査研究報告)。一方、百年以上の過去にさかのぼる歴史噴火の場合、層厚の薄い降下火山灰は堆積後の土壌内での物質移動(例えば生物擾乱)などにより地層として残っていない。しかしながら、地表水や風による水平方向の移動が非常に小さい条件であれば、降下火山灰粒子は土壌中に保存されているはずである。土壌中粒子を対象とした場合、降下層準や堆積量の推定は困難を極めるが、降下火山灰の粒径といった特性を得ることは出来ないだろうか?そのためには、土壌中の粒子から特定の噴火の火山灰粒子を認定する方法が必要である。

本研究では浅間山天明噴火の降下火山灰の検出を千葉県我孫子市で試みた。浅間山と我孫子の間には約150kmの距離があるが、降灰主軸が我孫子方向を向いており、天明噴火の際には降下火山灰の被害があったことが古文書から解読されている(例えば中尾, 1986, 手賀沼周辺の水害; 津久井, 2011, 火山)。

調査は電力中央研究所我孫子地区の森林林床内の表土について行った。調査地点付近は下総台地の下総下位面に区分される海成段丘面上にあり、地表から4メートルの深度までローム層が堆積している(杉原, 1970, 地理学評論)。過去の土地利用形態は不明であるが、地図記号で確認できる1927年以降、航空写真で確認できる1947年以降は森林である。林床の地表面から深さ20 cmまでの固く締まった褐色の土壌を検土杖(内径10 mm)により採集した。採集した土壌試料について、水洗の後、過酸化水素水によって有機物を除去し、篩い分けを行った。250 mmで篩い分けられた試料について、実体鏡およびEPMAにより分析を行った。250 mm粒径の試料の中には、斜長石・カリ長石・石英・カンラン石・斜方輝石・単斜輝石・鉄チタン酸化物といった鉱物に加え、黒色スコリア・茶色ガラス片・透明な火山ガラス片が見られた。斜長石・斜方輝石・単斜輝石には、新鮮な火山ガラスが付着しているものが多く見られた。ガラスの組成分析により、付着ガラスの多くはSiO2量で66-69%を持つものと70-74%を持つものが見られる。70-74%の組成は、浅間山近傍で採集した浅間山天明噴火の軽石の石基ガラス組成と一致する。またTiO2-K2O空間でも両者は一致するため、SiO2量70-74%の付着ガラスを持つ鉱物は浅間山天明噴火起源の火山灰粒子である可能性が高い。手持ちの試料では確認できていないが、SiO2量で66-69%を持つガラスの組成は宇井ほか(2002, 火山)で報告されている富士宝永噴火の火山灰のガラスと似た組成を持っている。

以上から、鉱物へのガラス付着組織やガラス組成に基づき、土壌中の浅間山天明噴火起源の火山灰を遠方の土壌から検出し、粒径などに関する地質学的な検討が可能と考えられる。粒径データを古文書の解読による降灰量(津久井, 2011, 火山)と合わせることにより、より精密な降灰影響評価につなげていけると期待できる。今後の課題としては、現状の検土杖による採集量は、粒径の代表性を考える上で十分かという点が挙げられる。この点に関しては、試料採集量を増やして、検証を行うことが重要である。また、降下火山灰堆積後の再移動の影響が粒径にどれだけ現れるかが不明である。この点に関しては、広域に調査を実施し、広域的な粒径の分布傾向を検討することが一つの方法である。