JpGU-AGU Joint Meeting 2017

講演情報

[JJ] 口頭発表

セッション記号 G (教育・アウトリーチ) » 教育・アウトリーチ

[G-02] [JJ] 災害を乗り越えるための「総合的防災教育」

2017年5月20日(土) 15:30 〜 17:00 コンベンションホールA (国際会議場 2F)

コンビーナ:中井 仁(小淵沢総合研究施設)、宮嶋 敏(埼玉県立熊谷高等学校)、根本 泰雄(桜美林大学自然科学系)、小森 次郎(帝京平成大学)、座長:中井 仁(小淵沢総合研究施設)、座長:宮嶋 敏(埼玉県立熊谷高等学校)

15:30 〜 15:45

[G02-01] 火山学者から見た火山噴火警戒レベル

★招待講演

*林 信太郎1 (1.秋田大学大学院教育学研究科)

キーワード:防災教育、火山教育、噴火警戒レベル

 噴火予知:噴火の予知のもっとも重要なツールは地震観測と地殻変動の観測である。噴火が起こる場合,なんらかの物質移動現象が起こる。たとえば,大量のマグマが移動すると周辺の岩盤を破壊し,地震が起こる。また,マグマだまりが膨張すると火山周辺の地盤がわずかに膨張する。これらの変化を地震計やGNSSでとらえることにより,火山の状態を診断することができる。
 噴火警戒レベル:噴火警戒レベルは「火山活動の状況に応じて「警戒が必要な範囲」と防災機関や住民等の「とるべき防災対応」を5段階に区分して発表する指標」である。噴火警戒レベル1は「活火山であることに留意」から5は「避難である。段階的に噴火が進行し,遅滞なく警戒レベルが上げられれば,住民を避難させることが可能なシステムとなっている。警戒レベル導入時には特に火山学者を中心として,「警報が直接に避難などの社会的指示に結びついているために,警報の発令が遅くなる。」(岡田,2008)などの懸念が表明されていた。
 噴火予知の現状:では,噴火警戒レベルの基礎にある噴火予知は今どのような到達点にあるのだろうか?筆者のみるところ,噴火予知には「得意科目」と「不得意科目」があるように見える。大量の粘性の高いマグマが移動するような噴火は予知しやすい。これが 「得意科目」にあたる。有珠山の2000年の噴火では,噴火予知が成功し,犠牲者はでなかった。このように大きな噴火が始まることの予測は「得意科目」と捉えて良いだろう。
 「不得意科目」には二つある。一つ目は水蒸気噴火。二つ目は噴火の推移である。一つ目の水蒸気噴火の場合,熱水(マグマの熱で間接的に熱せられた地下水。圧力が高いので沸点は100℃を超える)が浅いところに移動し,圧力の低下にともない爆発的に沸騰して,発生する。噴火を引き起こす熱水は粘性が低く,その移動をとらえるのはむずかしい。この典型的な例が御嶽山の2014年の噴火である(この噴火については予知可能だったとの意見を持つ火山学者もいる)。御嶽山の2014年噴火では,レベル1(平常)でレベル3相当の噴火が起き,噴火予知に大きな課題があることが明らかになった。二つ目の噴火の推移についても大きな問題を抱えている。噴火の発生は火山の状態からある程度診断できるが,噴火が始まった後それがどのように変化していくか予測することは現状ではむずかしい。その噴火が拡大するのかおさまるのかそのまま維持されるのか,判断するのかは困難である。その典型例が口永良部島の2015年噴火である。2013年に小噴火があったのち,二酸化硫黄の放出量の増大や火山性地震などの火山性異常があいつぎ,2014年の5月29日に火砕流が発生し海岸まで流れ下った。レベル3の入山規制の状態で山麓に影響のあるレベル5相当の災害が起きたのである。「ギリギリのセーフ」で犠牲者は出なかった。
 火山防災教育の課題:では,このような噴火予知の現状ではどのような火山防災教育を行うべきだろうか?ここでは二つにわけて議論したい。一つ目は御嶽山2000年噴火のような火口周辺にだけ危険が及ぶような小噴火,二つ目は,浅間山1783年噴火のような火山周辺の広い地域が荒廃するような大規模噴火である。
 御嶽山2014年噴火のような水蒸気噴火は今後も警戒レベル1の状態でおこる可能性がある。火山防災教育でこのような噴火に対応する場合は,緊急避難法に関する教育が重要である。避難の方法の基本は津波からの避難に近い。1秒でもはやく岩の陰や山小屋に隠れることで生存率を大幅に高めることができる。林(2015)はこれを「逃げる,隠れる」と表現した。そもそもどの火山が活火山なのか,水蒸気噴火がなぜ予知しにくいか,水蒸気噴火が起こった時どのようなことが起きるのか,これについて知ってもらうのが,突発的な噴火に体操する火山防災教育の基本となるだろう。
 二つ目の大規模噴火については,噴火警戒レベルを上げるタイミングが遅れると多くの犠牲者が発生する可能性がある。したがって,このような噴火を教育の素材とするのはたいへん難しいのが現状である。