15:45 〜 16:00
[G02-02] 福島県沿岸部における防災教育に関する考察 -持続可能な防災教育を目指して
キーワード:防災教育、インターディシプリナリー、社会実装、東日本大震災
1. はじめに
近年、地域防災の向上をねらいとしたソフト対策(例:防災教育、避難訓練)が主張されている。自然災害による被害は、外力要因(ハザード)と社会の脆弱性との積で表現される[Wisner, 2004]。つまりソフト対策の強化は、社会の脆弱性を減少させ被害を軽減させることを意図する。しかしこうしたソフト対策を長期的に継続することは様々な課題がある。また、震災当時、福島県いわき市薄磯区では安全神話が唱えられており、被害拡大の一因となっていた。これを受け、薄磯区では安全を確保することにより流出した人口を取り戻そうとする動きがある。本研究では、地域防災の強化を目的とし、防災教育に取り組んだ。本発表では防災教育を長期的に継続するために必要な視点について検討する。
2. 防災教育の内容
防災教育の対象地域は、東日本大震災において甚大な被害を被った福島県沿岸部である。対象地域の小学校2校・公民館・チャイルドハウスにて計5回防災教育を実施した。これまでに(1) 発災時いのちを守るための迅速な判断を「自分で考える」ことを学ぶ思考促進型防災教材「減災アクションカードゲーム」や(2) 科学的試料・史料に依拠した地域災害史の解明、(3) 自然科学の普及活動を主に実施した。
3. インターディシプリナリーな防災教育
防災は学際的研究の代表例と言える。そのため我々の活動は、防災教育のみならず地質調査や史料調査、避難訓練、参与観察など多岐にわたる。こうした「マルチ」ディシプリナリーな活動を「インター」ディシプリナリーな防災教育へと昇華させるためには以下が重要だと考える。
外力(ハザード)の位置付けの見直し;従来支持されてきた防災対策は、外力を研究しそれに対して工学的対策を施すものであった。これは、外力を社会と切り離し社会の「外側」に位置付けることを示唆する。自然科学に焦点を当てた理科教育も同様の傾向を示す。そこで、我々は理科教育に地域災害史やカードゲームを取り入れることで、外力を社会の「内側」へ位置付けることを試みた。そうすることで、児童はより主体的に自然科学・災害について考え、外力を必然的に捉えることができる。さらに、避難訓練を実施することで、大人も外力を社会の内側へ位置付けられる。こうした哲学に基づく倫理的枠組に則り、インターディシプリナリーな防災教育を目指した。
4. 持続可能な防災教育に向けて
大災害後、外部団体が地域に介入する事例は数多く確認されてきた。しかし将来的には外部からの介入なく地域内で防災活動が継続・発展することが望ましい。防災教育実施時、我々は児童に対して「今日考えたことを家族と話してみて」と伝えている。これはまさに児童から大人への波及を期待した発言である。また災害の話題を避けたい一部の学校関係者に対しては「外力を必然に捉えることは様々な災害から児童の命を守ることにつながる」ことを説明し理解を求めた。その他の活動としては、長期にわたり住民の参与観察を行い、住民側の要求の把握を試みた。その結果、地域資料館の建設や防災人材の育成を要望することが明らかとなった。従って防災教材の提供及び人材育成によって将来的には外部からの介入なく防災教育が持続することが期待される。
5. 結論
福島県沿岸部において防災教育を実施した。従来の理科教育に地域災害史やカードゲームの内容を取り入れることで、自然現象を社会の「内側」へと位置付け主体的に自然科学・災害について考える姿勢の形成を試みた。さらに避難訓練や地域住民の要望の把握を通して、大人への防災教育の波及をねらった。本研究を通して、持続可能な防災教育及び地域の主体性のさらなる発展が期待される。
近年、地域防災の向上をねらいとしたソフト対策(例:防災教育、避難訓練)が主張されている。自然災害による被害は、外力要因(ハザード)と社会の脆弱性との積で表現される[Wisner, 2004]。つまりソフト対策の強化は、社会の脆弱性を減少させ被害を軽減させることを意図する。しかしこうしたソフト対策を長期的に継続することは様々な課題がある。また、震災当時、福島県いわき市薄磯区では安全神話が唱えられており、被害拡大の一因となっていた。これを受け、薄磯区では安全を確保することにより流出した人口を取り戻そうとする動きがある。本研究では、地域防災の強化を目的とし、防災教育に取り組んだ。本発表では防災教育を長期的に継続するために必要な視点について検討する。
2. 防災教育の内容
防災教育の対象地域は、東日本大震災において甚大な被害を被った福島県沿岸部である。対象地域の小学校2校・公民館・チャイルドハウスにて計5回防災教育を実施した。これまでに(1) 発災時いのちを守るための迅速な判断を「自分で考える」ことを学ぶ思考促進型防災教材「減災アクションカードゲーム」や(2) 科学的試料・史料に依拠した地域災害史の解明、(3) 自然科学の普及活動を主に実施した。
3. インターディシプリナリーな防災教育
防災は学際的研究の代表例と言える。そのため我々の活動は、防災教育のみならず地質調査や史料調査、避難訓練、参与観察など多岐にわたる。こうした「マルチ」ディシプリナリーな活動を「インター」ディシプリナリーな防災教育へと昇華させるためには以下が重要だと考える。
外力(ハザード)の位置付けの見直し;従来支持されてきた防災対策は、外力を研究しそれに対して工学的対策を施すものであった。これは、外力を社会と切り離し社会の「外側」に位置付けることを示唆する。自然科学に焦点を当てた理科教育も同様の傾向を示す。そこで、我々は理科教育に地域災害史やカードゲームを取り入れることで、外力を社会の「内側」へ位置付けることを試みた。そうすることで、児童はより主体的に自然科学・災害について考え、外力を必然的に捉えることができる。さらに、避難訓練を実施することで、大人も外力を社会の内側へ位置付けられる。こうした哲学に基づく倫理的枠組に則り、インターディシプリナリーな防災教育を目指した。
4. 持続可能な防災教育に向けて
大災害後、外部団体が地域に介入する事例は数多く確認されてきた。しかし将来的には外部からの介入なく地域内で防災活動が継続・発展することが望ましい。防災教育実施時、我々は児童に対して「今日考えたことを家族と話してみて」と伝えている。これはまさに児童から大人への波及を期待した発言である。また災害の話題を避けたい一部の学校関係者に対しては「外力を必然に捉えることは様々な災害から児童の命を守ることにつながる」ことを説明し理解を求めた。その他の活動としては、長期にわたり住民の参与観察を行い、住民側の要求の把握を試みた。その結果、地域資料館の建設や防災人材の育成を要望することが明らかとなった。従って防災教材の提供及び人材育成によって将来的には外部からの介入なく防災教育が持続することが期待される。
5. 結論
福島県沿岸部において防災教育を実施した。従来の理科教育に地域災害史やカードゲームの内容を取り入れることで、自然現象を社会の「内側」へと位置付け主体的に自然科学・災害について考える姿勢の形成を試みた。さらに避難訓練や地域住民の要望の把握を通して、大人への防災教育の波及をねらった。本研究を通して、持続可能な防災教育及び地域の主体性のさらなる発展が期待される。