JpGU-AGU Joint Meeting 2017

講演情報

[JJ] 口頭発表

セッション記号 G (教育・アウトリーチ) » 教育・アウトリーチ

[G-02] [JJ] 災害を乗り越えるための「総合的防災教育」

2017年5月20日(土) 15:30 〜 17:00 コンベンションホールA (国際会議場 2F)

コンビーナ:中井 仁(小淵沢総合研究施設)、宮嶋 敏(埼玉県立熊谷高等学校)、根本 泰雄(桜美林大学自然科学系)、小森 次郎(帝京平成大学)、座長:中井 仁(小淵沢総合研究施設)、座長:宮嶋 敏(埼玉県立熊谷高等学校)

16:30 〜 16:45

[G02-05] 地域資源を活用した鉄道防災教育プログラムの一考察 -JRきのくに線「鉄学」の取り組みから―

*西川 一弘1此松 昌彦1 (1.和歌山大学)

キーワード:鉄道防災教育、地域学習、JRきのくに線

1、報告の目的
 今後発生が懸念されている東海・東南海・南海地震等の海溝型地震による津波では、人的被害だけではなく、鉄道などの交通インフラにも甚大な被害が及ぶと想定されている。紀伊半島の沿岸部を走るJRきのくに線においても、南海地震発生から津波到達までの時間が厳しい中で、高台等の避難場所に乗客を迅速に避難することが必要である。
JR西日本和歌山支社では2009年から同線において津波避難訓練を行っている。2013年からは地域と連携する実践的な訓練も行われているが、「訓練」の機会だけで列車から避難方法を習得し、率先避難者になる乗客を大きく拡げていくことは厳しいと考えられる。
 そこで「防災と言わない防災」の視座のもと,地域資源を学びながら鉄道での避難方法をも学ぶプログラムとして「鉃學」を開発し、試行を行った。本発表ではこの「鉃學」の取り組みの背景、および試行の成果をまとめるとともに、今後の鉄道防災教育へのあり方を示すことを目的としたい。

2、鉄道防災教育・地域学習列車「鉃學」とは
 JR きのくに線では当該沿線の高校や地域住民・団体と連携した先駆的な実践的避難訓練を展開している。車両からの避難方法としては、当時は危険視されていた「飛び降り」による避難を導入し、現在では主要な避難方法として乗客へ積極的に周知している。しかし,実車を用いた訓練は継続的に展開されているが、回数を増やすためにはダイヤや安全要員の配置等の制約が存在する。「非常時には訓練以上のことはできない」と言われる中、実際の訓練機会を保証することが求められる。
 また,訓練に参加する層はいわゆる「防災意識が高い人」や「防災に対して関心を持つ人」が多く,その広がりに欠けるという課題がある。地域の防災文化を醸成させ率先避難者の層を拡大するためには「防災に対して意識や関心が低い人」に対してのアプローチが必要である。このアプローチでは、直接的な防災教育の展開ではなく「防災と言わない防災」という視座が重要であり、この観点をさまざまな取り組みや事業に埋め込むことが必要である。
 以上の問題関心から,JRきのくに線沿線が持つ地域資源の学習と鉄道防災教育をセットにしたプログラム、「スタディーツーリズムの手法を用いた鉄道防災教育プログラムの開発と実証」の研究実践に取り組むことになった。この地域資源を学びながら,鉄道での避難方法をも学ぶプログラムの愛称を「鉃學」とした。鉄道で地域を学ぶ、鉄道から地域を学ぶという意味を込めている。

3、鉃學プログラムの展開
 鉃學プログラムの編成では、2014年夏に登録認定された「南紀熊野ジオパーク」の資源(ジオサイトを中心とするジオ資源)を地域資源・防災教育の素材としつつ(自然の恵みと脅威の両面を知るためには,その根幹にあるジオをテーマにする方が良い)、そこに列車からの避難方法や情報提供に関する学習(例えば,地域資源のスポットに列車から飛び降りて見に行く等)を含めた複合的なプログラムを織り込むことが重要である。2016年11月12日に実証運行した鉃學では13のスポットを巡ると同時に、「食」についても地元の素材を集めた弁当を提供した。
 今後「鉃學」の展開では、2つの目標がある。一つ目は、教育として利用されること、すなわち学校教育における授業・遠足・社会見学、および社会教育の事業として展開されることである。これまでのJRきのくに線での津波避難訓練では地元学校との連携も行っているが、「鉃學」という具体的な学習プログラムを活用して、通常の教育の中で活用できればと考えている。
 二つ目は観光として利用されること、すなわち「旅行商品」として展開されることである。当該路線でも少子高齢化や沿線高速道路の整備等により、利用客が減少傾向にある。津波避難訓練を「訓練」として継続実施することは重要であるが、一方で路線の活性化も急務であり、「鉃學」はこの二つの取り組みを繋げるものである。鉄道防災教育の展開が、路線の収入源のひとつになることができればと考えている。