JpGU-AGU Joint Meeting 2017

講演情報

[JJ] 口頭発表

セッション記号 G (教育・アウトリーチ) » 教育・アウトリーチ

[G-03] [JJ] 地球惑星科学のアウトリーチ

2017年5月20日(土) 15:30 〜 17:00 A03 (東京ベイ幕張ホール)

コンビーナ:植木 岳雪(千葉科学大学危機管理学部)、小森 次郎(帝京平成大学)、長谷川 直子(お茶の水女子大学)、大木 聖子(慶應義塾大学 環境情報学部)、座長:尾方 隆幸(琉球大学島嶼防災研究センター)

16:30 〜 16:45

[G03-05] 石材を導入に用いた地球科学のアウトリーチ事例

*乾 睦子1 (1.国士舘大学理工学部)

キーワード:building stone、granite、limestone

建材や墓石材として使われている岩石は,日常生活において身近にある地質資源の代表である.石材は,素材となる岩石をほとんど化学的に加工せずに用いることが多く,地中に存在していたそのままの姿で人目に触れるという特徴がある.近年では「自然」「ナチュラル」などのキーワードとともに用いられる人気素材のひとつである.しかし,これを地球科学が対象とする物質としての岩石を知ってこれを使っているケースは近年ではますます少ないと思われる.なぜなら,高等学校までに地学を履修する機会はますます減っており,特に理系学生では地学は選択科目にもならないことが多いからである.
この石材は以下の点で地球科学のトピックの導入として最適であると考えている.ひとつには,そのままの物質に日常的に接しているため,地球がこのような物質でできているということが想像しやすい点である.もうひとつは,岩石が多様な側面を持っており,様々な人がそれぞれに興味を持てる側面があり得るということである.例えば建築が好きで石材に興味を持ったり,結晶(宝石、パワーストーン)が好きだったり、その他にも化石、火山の噴火、彫刻材として、などが考えられる.本稿では,石材を導入に利用したアウトリーチの実施例を紹介し,得られた知見を報告する.アウトリーチ事例としては,講演会や建築物の見学会,また高校生向けのデリバリー授業やオープンキャンパスでの実施例,製品展示会におけるサイエンスブースなどがある.
石材を用いたアウトリーチの大きなメリットとして,素材に触れることや近づいて観察できることがある.石材の高い耐久性がそれを可能にしている.また,磨いた断面では内部構造が観察でき,肉眼で見える範囲でも科学的にかなり高度な内容まで踏み込める可能性がある.また,石材には加工できる素材なので,研磨作業などで参加者に手を動かしてもらうという参加型の活動が考えられる点も石材の特徴である.さらに,ただの「灰色の」石であるのに偏光顕微鏡像はカラフルで美しいという驚きが演出できる点で,アウトリーチに適した魅力を備えた素材であると言えることが分かった.
一方,石材を用いたアウトリーチの困難な点としては,特に野外での地質観察経験がない参加者にとっては,岩石の分布や広がり,産状を口頭だけで説明することには限界があることが挙げられる.また,石材を商品として扱う立場と,サイエンスの対象として見る立場との差異をよく認識しておかないと誤解を生みやすいという問題があることも分かった.石材を導入トピックとして用いているだけに,参加者が経済商品としての石材に注目することがあり,一方,話者がそれに気づかずに全く時間スケールの異なるサイエンスの話に入ってしまうと内容が伝わらない可能性がある.身近に触れられる工業製品を用いたアウトリーチ活動では,その製品へのイメージを共有した上で伝える必要があることが分かった.