JpGU-AGU Joint Meeting 2017

講演情報

[JJ] 口頭発表

セッション記号 G (教育・アウトリーチ) » 教育・アウトリーチ

[G-03] [JJ] 地球惑星科学のアウトリーチ

2017年5月21日(日) 13:45 〜 15:15 A03 (東京ベイ幕張ホール)

コンビーナ:植木 岳雪(千葉科学大学危機管理学部)、小森 次郎(帝京平成大学)、長谷川 直子(お茶の水女子大学)、大木 聖子(慶應義塾大学 環境情報学部)、座長:植木 岳雪(千葉科学大学危機管理学部)

15:00 〜 15:15

[G03-18] 実効的防災教育の導入におけるショート訓練とその効果の考察 〜横浜市白幡小学校を事例として〜

*松本 光広1永松 冬青2所 里紗子3小幡 宣友3大木 聖子1 (1.慶應義塾大学 環境情報学部、2.慶應義塾大学 大学院 政策・メディア研究科、3.慶應義塾大学 総合政策学部)

2011年の東日本大震災を機に、防災教育の重要性は再認識された(文部科学省, 2012)。しかし、それにも関わらず、多くの学校現場の防災教育に変化は見られず、それだけでなく避難訓練ですら従来の形式でそのまま行われていることが多い。以上の問題意識のもと、筆者らは実効的な防災教育の普及を狙いとして、横浜市立白幡小学校(以下、白幡小学校)をフィールドに、2016年5月より防災教育のアクションリサーチを実施している。白幡小学校では2016年度から、5学年の児童が総合的な学習の時間のテーマとして防災に取り組んでおり、1年間に渡って以下の内容に取り組んできた。

1)2016年6月15日、児童が緊急地震速報を聞いて身を守る姿勢をとることができるかを確認するための抜き打ち訓練を実施。2)6月25日、防災授業を実施。児童に向けて日本が地震大国であるということを伝え、地震発生時に命を守るための姿勢を教えた。3)各家庭の地震対策の実施状況について調査するためのアンケート調査を実施。4)7月上旬の3日間を使って、集中的にショート訓練(詳細は後述)を実施。5)7月11日、横浜市民防災センターを訪問し、起震車を体験。6)7月15日、防災センターで体験した震度7の揺れを踏まえてショート訓練を再度実施。7)7月19日、夏休みに防災に関する自主学習を進めやすいよう、おたよりを配布。8)9月上旬、児童が各教室の危険をまとめたポスターを作成。9)10月15日、地域総合防災訓練において、5年生の児童が低学年の児童に対して防災授業を実施。10)11月12日、白幡小学校創立80周年式典が開かれ、これまでに防災で学んだり調べたりした内容を発表。11)12月21日、教員を対象にヒアリング調査を実施。12)2017年1月20日、公開授業研究会が行われ、筆者らがブース出展。13)2月2日、次年度以降学校全体で防災教育に取り組むことを狙いとし、教員を対象に防災に関する研修を実施。
なお1から7、11から13は筆者らが、8から10は白幡小学校の教員が中心になって実施した。

本発表では、上記の取り組みの中から、特にショート訓練を通して見られた児童と教員の姿勢やその変化について注目して解説する。
多くの学校で行われている、従来の地震の際の避難訓練(具体的には、教員や放送の指示にしたがって児童が机の中に入り、その後校庭に避難する方法)では、震度6や7程度の揺れに襲われた場合、児童や教員が適切に対応できるかは疑わしい。この従来の避難訓練に代わる、実効的な訓練として筆者らが積極的に実施しているのがショート訓練である。
ショート訓練では、児童らは教員の指示を待つことなく、緊急地震速報の報知音を合図に自ら身の回りの危険を判断し、身を守る行動をとる。また、児童を二つのグループに分け、避難行動に対するフィードバックをお互いに行わせる。このショート訓練は、短期間で集中的に何度も実施したり、また特別教室や校舎外など様々な場所で実施したりすることで、多様な危険に対する判断力を養わせる。

以上のショート訓練を通し、児童が揺れから素早く身を守る方法を身につけた直後、無論偶然ではあるが、2016年7月19日12時57分頃に千葉県東方沖を震源とするM5.2、最大震度4の地震が発生し、白幡小学校の所在地である横浜市神奈川区では震度3が観測された。担当教員の報告によると、児童らは給食を食べている最中であったが、揺れを感じた2秒後には、教員が指示をだすよりも先に、教室内の児童が全員、机の下に速やかに入ったとのことである。また、教室内を歩いて移動していた児童は、近くの椅子を使って頭を守るという工夫をも見せた。

なお、ショート訓練は1つの訓練であると同時に、防災において正解を教えるという知識の伝達のみを重視してきた従来の防災教育とは正反対の考え方に基づいた取り組みであり、答えがない問題に取り組むという姿勢をも育むものである。実際、ショート訓練の開始当初、教員らには、筆者らに答えを求める場面が幾度も見受けられたが、集中的に何度も実施する中で、教員らは常に正解となる普遍的な「解」がないということを理解したようであった。

本発表では、ショート訓練を通してみられた児童や教員の変化が、9月以降に実施した防災劇や地域のハザードマップ作りなどにおける教員の言動や防災教育観にどのような影響を与えたかについても解説する。また、ショート訓練という教材が、防災教育における「命を守る方法を身につける」という根本的な狙いを超える役割を果たしたことについても考察する。