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[G04-07] 教員養成課程の学生における火成岩岩石組織の理解に関する予察的調査と地学教育との関連
キーワード:斑状組織、石基、アンケート、石基組織
教員養成課程に入学する者の学修履歴は比較的多様である。そこで共通なカリキュラムを学んだ中学校までの理科(地学)に関する質問紙法での調査を行い,地球を柱とする内容についての理解普及の度合いの測定を行った。対象には福岡教育大学の初等教員養成課程3年の授業(必修)実施体制上26に班分けされた中から4班を無作為に選び,その計48名に調査を行った。時間の制約もあり,質問は8項目のみだが地球科学に関する多様な内容を質問している。その中に含まれる火成岩に関するものについて分析した結果,斑状組織の石基部分を認識できた学生は約13%であった。これは全く同様の検査を行った棟上(2006)での20%に比べやや減少している。この設問は鏡下における斑状組織を想定した比較的単純な線画を提示し「安山岩のスケッチを示します。石基を塗りつぶして下さい」と問うものである。このスケッチはガラス基流晶質をイメージした石基組織となっている。今回の結果では,56.5%の学生が斑晶を塗りつぶしたのはごく単純な勘違いとしても,21.7%の学生は,細粒な石基鉱物のみを塗りつぶしている者がおり,この原因についてより詳細な分析が必要と考えられる。中学校の理科教科書に立ち返ると,出版元により多少の文言の差異はあるが,全般的には「石基は細粒な粒やガラス(の集合)からなる」という説明がなされている。これが原因となって「小さい粒が石基」という誤解が生じているのではないだろうか。教科書中の斑状組織の説明の原型は例えばTomkeieff(1983)にほぼ同じ説明がなされているが,そこではさらにRosenbusch(1887)も引用されている(同じ鉱物で異なる2つの世代のものが含まれる岩石組織として)。彼らはすでに偏光顕微鏡で観察をしていたので石基中の細粒鉱物に言及することは当然と推察されるが,それに引き替え現代の中学校の教育現場において偏光顕微鏡を用いた薄片観察の可能性はあるのだろうか。あるいは中学校内に偏光顕微鏡の使用法に習熟した教師は果たしてどのくらい配属しているのか,系統的なデータは今のところ見当たらない。恐らく多くの中学校では写真を利用するであろうが,偏光顕微鏡の用法を知らなければ得られる情報はごく僅かである。すなわち中学校での岩石学は19世紀後半の科学段階で苦戦している状況と捉える事が出来るだろう。中学校学習指導要領解説理科編にも書かれているように,火成岩を扱う上で鏡下観察は本質的に重要なものである。教員養成・研修・評価に携わる関係者は中学校での理科(地学)の岩石学分野の教育についてさらなる支援を行うべきである。
棟上俊二(2006):教育実践研究,福岡教育大学教育学部附属教育実践総合センター刊,no. 14,31 - 38.
棟上俊二(2006):教育実践研究,福岡教育大学教育学部附属教育実践総合センター刊,no. 14,31 - 38.