JpGU-AGU Joint Meeting 2017

講演情報

[JJ] 口頭発表

セッション記号 G (教育・アウトリーチ) » 教育・アウトリーチ

[G-04] [JJ] 小・中・高等学校,大学の地球惑星科学教育

2017年5月20日(土) 10:45 〜 12:15 301A (国際会議場 3F)

コンビーナ:畠山 正恒(聖光学院中学高等学校)、座長:畠山 正恒(聖光学院中学高等学校)

11:00 〜 11:15

[G04-08] 伊豆諸島の玄武岩質火山島列と流紋岩質火山島列の成因を結晶分化作用と関連づけて考察させる授業の試み

*佐藤 俊一1 (1.東京大学海洋アライアンス海洋教育研究センター)

キーワード:マグマの結晶分化作用、流紋岩質火山、プレートの沈み込み、伊豆諸島、新島・式根島・神津島

1. 背景と目的 
伊豆諸島は、海洋性火山島であることから、本来、すべて玄武岩質火山島列となるはずと思われがちであるが、意外にも、新島、式根島、神津島は流紋岩質火山島列を成している。そして、その東側に、大島、利島、三宅島、御蔵島、八丈島などの玄武岩質火山島列が横たわるという一見奇妙な2列の配列構成になっている。何故、結晶分化作用の最終段階に出来る流紋岩岩質マグマから形成された火山島列が玄武岩質火山島と洋上に並行して存在するのか、その起源や典型的な玄武岩質火山島である西ノ島新島の誕生・成長・拡大など、身近な東京都の地域に属する伊豆諸島を題材に、マグマの「結晶分化作用」や島弧形成について理解を深め考察できる好材料と考え、自身の地学の授業で取り上げ話題にしてきた実践事例を紹介する。その一端を報告する。
2. 方法・内容 
流紋岩質マグマの発生メカニズムについては、教科書には、モデルとして①本州への太平洋プレートの沈み込みに伴う成因解説図と②大陸地殻内(本州)の伸張場(亀裂など)に伴うマグマ貫入や部分的溶融による成因解説図の2通りの考えを併記した模式図がよく掲載されている。伊豆諸島の岩質の違いの成因についても、同様の考えを適用すれば、フィリピン海プレート下への太平洋プレートの沈み込みが明らかにされていることを踏まえ、<案1>フィリピン海プレート下へ太平洋プレートが潜り込み沈降することにより発生するとするとする考え。あるいは、<案2>伊豆半島や伊豆諸島を載せるフィリピン海プレートの本州側プレート下への衝突・潜り込み沈降に伴い発生する伸張力場(亀裂など)による“部分溶融”により生じたとする考え、の主に2通りの考えが想起されそうである。<案1>は、上昇経路が長くなるにつれマグマが発生してからの経過時間が長くなるなどして、それだけ結晶分化作用が先へ進行する結果、マグマだまりのマグマの性質が玄武岩質→安山岩質→デイサイト・流紋岩質に変化していくというもの。<案2>は、大陸地殻の内部(深部)で何らかの原因(圧力現象または温度上昇)により、部分溶融が起こり、その位置に留まりつつも時間の経過とともにSiO2 %に富む花崗岩質(流紋岩質)マグマが形成されやがて地表(海面上)に現れるというもの。以上2つの説のいずれかの立場にせよ、現在も学術的に完全に解明はされていないようである。しかし、いずれの立場でも、プレートや地殻の部分的溶融により生じたマグマが結晶分化作用により最終的に流紋岩質マグマに辿り着くというシナリオの大筋の根幹部分はほぼ同じであると言えるのではないだろうか。そこで、授業で話題にし、教科書的な記述事項をより身近に感じられるようにと教材化して活用を図ってきた次第である。現地への地学巡検を行う場合にも、東京港(竹芝桟橋)から大島・利島(玄武岩質)、新島・式根島・神津島(流紋岩質)の双方へは、東海汽船で往路・復路とも同じ航路で結ばれているため一度に容易に溶岩性質と火山島形の関係などを比較しながら見て廻れ学習に大変便利で好都合であり、私自身、希望生徒を募り夏季になるとしばしば実施してきた経験を有する。
3.結果・考察 
資料を基にした授業の中で、生徒たちから出される主な疑問や論点を紹介しておく。<案1>に対するものは、「なぜ、安山岩質マグマの生成が見られないのか?」、<案2>に対するものは、「新島・式根島・神津島は海洋上にあり、果たして大陸性地殻と言えるのか?」といった類のものである。一連の学習過程に要する総時間はグループ検討、発表活動を含め、30分程度を予定している。繰り返しになるが、正解は用意されていない。しかし、「結晶分化作用」という学習事項について、地域に関する素材・教材を用いて教科書的な記述事項と関連付け、身近なものとして感じ捉え考究するメリットは大きいと感じて行ってきた。
現在、教育界で関心事のActive Learning で大事なことの一つに、知識を既成のものとして受け身で単に覚えるために学ぶのではなく、答えが見当たらないあるいは未解明の問題・課題に既知の知識を駆使し、「科学の方法」(仮説、推論、検証)を用いながら如何に能動的にアプローチしていくかという点にあるとすれば、本発表で紹介したような試行も一つの参考事例になるのではないかと考えている。