JpGU-AGU Joint Meeting 2017

講演情報

[EJ] 口頭発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-CG 地球人間圏科学複合領域・一般

[H-CG30] [EJ] 堆積・侵食・地形発達プロセスから読み取る地球表層環境変動

2017年5月24日(水) 13:45 〜 15:15 106 (国際会議場 1F)

コンビーナ:清家 弘治(東京大学大気海洋研究所)、高柳 栄子(東北大学大学院理学研究科地学専攻)、成瀬 元(京都大学大学院理学研究科)、山口 直文(茨城大学 広域水圏環境科学教育研究センター)、座長:清家 弘治(東京大学大気海洋研究所)、座長:山口 直文(茨城大学 広域水圏環境科学教育研究センター)

14:30 〜 14:45

[HCG30-04] 生物撹拌は初生堆積構造をどう変える?:ルール型格子モデルによる検討

*小川 琴奈1成瀬 元1 (1.京都大学大学院理学研究科地球惑星科学専攻地質学鉱物学教室地球生物圏史分科)

キーワード:Bioturbation, Sedimentary structure, ruled-lattice model

生物撹拌とは,巣穴の形成や採餌といった底生生物の活動によってすでに堆積した粒子が拡散・混合されることを指す.地表面の堆積物は多くの場合,底生生物による生物撹拌作用を受けている.生物撹拌によって地層中に含まれる化石の産出層準が時間的に平均化されたり,初生的な堆積構造が失われたりする現象が起こる.すなわち,地質記録から古生態系の構造や機能を復元したり,古環境情報の保存確率を検討したりするためには,生物撹拌によってどれほどの初生的な情報が失われたかを定量的に見積もることが重要になる.そこで,本研究は,生物撹拌作用による初生的な堆積構造の保存確率がどのような要因によって決まるのかを定量的に検討するため,生物撹拌のルール型格子モデルによる数値計算を行った.その結果,生物撹拌に関するパラメーターを変化させると,条件が特定の閾値を超えた場合に堆積構造が急激に塊状化すること,生物撹拌作用が堆積構造に対し特定の周期の堆積構造のみを保存するいわばバンドパスフィルターの役割をになうことが明らかになったので報告する.
本研究は,生物撹拌作用による堆積物粒子の拡散を定量化するための数理モデルであるSchiffers et al(2011)による生物撹拌のルール型格子モデルを発展させ,数値実験を行った.このモデルは,堆積層を格子状に区切り,それぞれの格子内の堆積物(以下「粒子」とよぶ)が単位時間当たり一定の確率で上方もしくは下方へ移動するようにルールを定めた生物撹拌作用の格子モデルである.なお,粒子移動距離の確率密度関数は正規分布で与えられる.Schiffersらはこの格子モデルにより,飼育実験下の生物撹拌作用を的確に表現できることを示した.生物撹拌のルール型格子モデルは,実際の堆積構造や底生生物の生態,生痕化石の形状をモデルパラメーターとして取り込みやすいという利点がある.本研究はこのモデルを発展させ,生物撹拌が起こる深度範囲,粒子移動確率,粒子移動平均距離,粒子移動方向という4要素に加えて堆積速度を考慮するモデルを作成した.初生的な堆積構造としては,一定の時間間隔で交互にトレーサー粒子と非トレーサー粒子の薄層を交互に堆積させた葉理構造と,二種類の波長の正弦波を合成した波に従って,トレーサー粒子の濃度を変動させた葉理堆積構造を用いた.そして,生物撹拌の影響を受けなくなる限界深度以下の堆積物(ヒストリカルレイヤー)におけるトレーサー粒子濃度の垂直変化に対してフーリエ解析を行い,初生的な葉理の特徴が保存される度合いを定量化して,初生的構造が生物撹拌によって失われる条件について検討を行った.
ヒストリカルレイヤーにおけるトレーサー粒子濃度の垂直分布をフーリエ変換した結果,設定したパラメーターに応じて,初生的な葉理と同じ周期におけるスペクトル密度が十分に大きい堆積層が形成される場合と,スペクトル密度がバックグラウンドと識別できなくなる塊状堆積層が形成される場合とにはっきりと分かれることが明らかになった.また,初生的な堆積構造が二つの波長を持つ場合,生物撹拌の度合いが大きくなると,堆積構造にはより長い波長の構造のみが残されることが明らかになった.すなわち,ここでは,生物撹拌作用がいわばバンドパスフィルターの役割を果たしているということになる.様々なパラメーターの下で実験を行ったところ,こうした堆積構造の保存には,葉理の幅に対する生物撹拌が起こる深度範囲や,粒子移動平均距離が強く影響している可能性が高いことがわかった.