JpGU-AGU Joint Meeting 2017

講演情報

[EJ] 口頭発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-CG 地球人間圏科学複合領域・一般

[H-CG30] [EJ] 堆積・侵食・地形発達プロセスから読み取る地球表層環境変動

2017年5月24日(水) 15:30 〜 17:00 106 (国際会議場 1F)

コンビーナ:清家 弘治(東京大学大気海洋研究所)、高柳 栄子(東北大学大学院理学研究科地学専攻)、成瀬 元(京都大学大学院理学研究科)、山口 直文(茨城大学 広域水圏環境科学教育研究センター)、座長:山口 直文(茨城大学 広域水圏環境科学教育研究センター)、座長:清家 弘治(東京大学大気海洋研究所)

15:30 〜 15:45

[HCG30-07] 古琵琶湖層群下部における供給源変化と後背地風化:鮮新世における古風化環境の復元

*吉田 孝紀1葉田野 希2笹尾 英嗣3 (1.信州大学理学部理学科地球学コース、2.信州大学大学院総合工学系研究科、3.日本原子力研究開発機構)

キーワード:古風化、後背地、供給源

三重県北部から琵琶湖南部に分布する鮮新統・更新統は古琵琶湖層群と呼ばれ,古くから古生物学的・層序学的研究がなされてきた.この地層群は新第三紀鮮新世~第四紀の西南~中部日本の陸上環境を復元する際に重要な役割を果たすと期待される.今回,三重県北部から滋賀県南部に分布する古琵琶湖層群下部の鮮新統について,層序と堆積相,堆積物の顕微鏡観察,全岩化学組成と粒度分析による風化残留元素の濃集状態につい検討し,全岩化学組成・REE組成などの多角的なアプローチによって,古風化度の見積もりを行った.
調査地域を三重県伊賀市上野~島ヶ原地域とし,古琵琶湖層群の下部を占める伊賀層・北又層について検討を行った.伊賀層では,氾濫原,湖沼堆積物が卓越する.下部では含角礫塊状シルト層相が卓越し,上部ではチャネル状斜交層理砂礫層相が増加する.これらは堆積相の多様性から蛇行河川システムによって形成された可能性がある.一方,北又層は大礫を含む礫支持礫層相とその上位の斜交層理砂礫層相からなる.これらはシルト-粘土層と指交関係にあり,泥質岩相に乏しく,礫質・砂質な堆積物が卓越する.これらのことからチャネル堆積物と考えられる。
古琵琶湖層群伊賀層および北又層の堆積相解析をもとに,泥質岩試料の採取を行い,その主要元素組成とREE組成を検討した.その結果,伊賀層の化学組成は,おおよそSiO2が47 %から77 %, Al2O3が13 %から34 %, Fe2O3が1 %から6 %である.一方,北又層では,おおよそSiO2が70%から74%, Al2O3が18 %から22 %, Fe2O3が2 %から4 %である.風化度を表すCIA値は伊賀層で52から95であり,北又層で72から80であった.
一方,コンドライトによって規格化されたREEスパイダーダイアグラムにおけるEu異常と重希土類と軽希土類の比(La/Sm)Nを使用して,供給源の識別を行った.その結果,分化した火成岩類を起源とするグループと未分化な火成岩類に由来するグループ,その中間のグループが識別でき,それぞれのCIA値が大きく異なることが判明した.
結果として,伊賀層の供給源岩と古風化度は一見すると多様であるが,供給源岩ごとにCIA値を区別すると,分化した火成岩,たとえば花崗岩,に起源を持つグループが卓越し,CIA値85-95程度を示す.一方,伊賀層上部と北又層では,玄武岩・安山岩などの,分化の低い火成岩に起源を持つグループが卓越し,それらは70-83程度のCIA値を示す.供給源の変遷をまとめると,古琵琶湖層群初期には強い風化を受けた花崗岩類から堆積物が供給され,その後,ほとんど風化を受けていない凝灰岩類・火山灰類からの供給に変化したことが示唆される.
従って,古琵琶湖層群下部の堆積期初期には強い風化条件をもたらす陸上環境が出現していたと考えられる.凝灰岩の年代からその時期は3.3-3.1 Maと考えられ(川辺ほか,1996; 林・川辺,1993),落葉樹からなる暖帯型の植物群で特徴付けられる時期とされる(木田,1989).気候区と古風化度の関連については今後の検討が必要であるが,供給源岩の識別によって古風化度を限定し,具体的な見積もりが可能となったといえる.
風化帯は,地質環境の最上部に位置することから,本研究は過去の風化状況の復元を通じた,地質環境の変遷の理解に活用されることが期待される.
本研究は,経済産業省資源エネルギー庁委託事業「地質環境長期安定性評価確証技術開発」の成果の一部を使用した.