JpGU-AGU Joint Meeting 2017

講演情報

[EJ] 口頭発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-CG 地球人間圏科学複合領域・一般

[H-CG31] [EJ] 福島第一原子力発電事故からの地域復興に貢献できること

2017年5月23日(火) 15:30 〜 17:00 304 (国際会議場 3F)

コンビーナ:西村 拓(東京大学大学院農学生命科学研究科生物・環境工学専攻)、溝口 勝(東京大学大学院農学生命科学研究科)、登尾 浩助(明治大学)、座長:西村 拓(東京大学大学院農学生命科学研究科生物・環境工学専攻)、座長:登尾 浩助(明治大学農学部、明治大学農学部)

16:00 〜 16:15

[HCG31-03] 福島第一原発事故避難地域の営農再開の現状と将来 飯舘村を事例に

*服部 俊宏1齋藤 朱未2 (1.明治大学、2.同志社女子大学)

キーワード:Post the Fukushima disaster, Restarting farming

福島第一原子力発電所事故で避難を余儀なくされた農家には,避難先で営農再開をしている方々がいる。一方,様々な理由で不本意ながら農業から切り離されてしまった避難者も多い。さらに,避難指示を解除される地域が増加すると共に,村への帰還,避難先での定着等さまざまな選択がなされ,新たな課題も出現している。そこで,本発表では,多くの地域で避難指示が解除され村の再建が始まっているなか,営農再開という視点から,被災農村の位置づけを中山間地域農村一般との対比の中で検討し,将来への課題を明らかにすることを目的とする。本発表では,福島第一原子力発電所事故で全村避難を強いられている福島県相馬郡飯舘村を事例に,避難先で営農再開している農業者や仮設住宅への避難者に対して発表者らが実施した聞き取り調査,アンケート調査から営農再開農家や仮設住宅避難者の動向と意向を把握した。
 これまで,避難先で営農を再開してきたのは,大規模に営農してきた農家がほとんどである。彼らが避難先のどこで営農再開したか,その過程には経営内容により相違がある。花卉栽培は避難先の周辺で花卉栽培のハウスを建設できる農地を探した例が多い。それに対して,肉牛飼育は廃業して空いている畜舎に入居している例が多く,そのような畜舎がどこにあるかで再開先が決まる傾向にある。このような営農再開者を受け入れた地域の側にとっては,これまで地域内に不足していた経営能力の高い農業者が遊休化していた農地や畜舎の利用を進めてくれることになり,参入は歓迎されている。遊休農地・施設の利用だけではなく,地域にとってこれまでにない作目が導入されることになるなど,地域によい刺激を与えている営農再開者も多い。
 一方,仮設住宅への避難者は,ごく一部の例外を除いて営農再開していない。仮設住宅への避難者は高齢者が中心であり,地域農業の担い手の位置にある方は少なかった。そのため,営農再開するために必要な農地や作業・保管スペースの確保,農機具の購入をするだけの経営力がないからである。
 避難指示解除後に向けての対応については,帰宅困難区域の出身者を除くと,多くの営農再開農家が帰還を検討し,実際に準備を進めている例も多い。しかし,帰村当初から避難前の経営規模を回復する例はなく,また避難先から生活拠点や営農の全てを一度に移転する事例も少ない。しばらくは飯舘村と避難先の二重生活・両方での営農を継続することを選択している営農再開農家が多い。
 飯舘村も多くの中山間地域農村と同様,避難前から人口動態は減少傾向にあった。しかし,全村避難とそこからの帰還は,人口減少を数十年先取りしただけではない変化を地域にもたらしている。例えば,屋敷周りにある自給目的の菜園は通常の農村であれば,高齢者が最後まで耕作を続ける対象となる空間であるが,飯舘村ではむしろ,帰村が困難な高齢者の存在,除染結果に対する不安なども含め,自力で営農再開を図ることが産業的な利用以上に困難であることが予想される。産業政策としての農業支援だけではなく,これまで政策が対象としてこなかった部分での対応が必要になることも考慮しなければならない。
 地域農業やコミュニティに関する課題は,むしろ避難解除後の方が困難なものが多い。対策についても,次の世代への継承を視野に入れた長期的なものをも考えるべきである。そこに関わる研究者にとっても,住民の意に寄り添いながら長期にわたって関係を続けることが必要であろう。