JpGU-AGU Joint Meeting 2017

講演情報

[EJ] ポスター発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-CG 地球人間圏科学複合領域・一般

[H-CG31] [EJ] 福島第一原子力発電事故からの地域復興に貢献できること

2017年5月23日(火) 13:45 〜 15:15 ポスター会場 (国際展示場 7ホール)

コンビーナ:西村 拓(東京大学大学院農学生命科学研究科生物・環境工学専攻)、溝口 勝(東京大学大学院農学生命科学研究科)、登尾 浩助(明治大学)

[HCG31-P01] 福島県南相馬市周辺の湧水,地下水,自噴井の水質・安定同位体の特徴と津波浸水後の水質変化について

*藪崎 志穂1,3稲葉 修2仲川 邦広2 (1.総合地球環境学研究所、2.南相馬市博物館、3.福島大学)

キーワード:南相馬市、地下水、湧水、自噴井、水質、津波

東北地方太平洋沖地震が発生した後の2012年9月より,福島県沿岸域の地下水調査を行っている。津波の浸水被害や原子力発電所事故に伴う汚染物質の問題に対応するため,地下水流動や涵養域の把握,滞留時間を推定することを目的として実施している。これまでに新地町,相馬市,南相馬市,浪江町,大熊町に加え,飯舘村や伊達市等を含む沿岸域から内陸部にかけての広範囲を対象として,地下水,湧水,河川水等の調査を実施し,水質の特徴や時間変化について観測を行っている。本発表では,これまで行った調査の中で,2016年12月に実施した南相馬市の沿岸地域の地下水と湧水について焦点をあて,水質の特徴等の報告を行う。
 調査は2016年12月29~30日に実施した。南相馬市の湧水4地点,地下水5地点(内,自噴井4地点),および相馬市の地下水(自噴井)1地点において,調査・採水を行なった。南相馬市の調査地点では,継続して調査を行っている地点(2地点),および過去に調査を行った地点(1地点)が含まれている。南相馬市の調査地点は,鹿島区,原町区,小高区の沿岸近くに位置しており,一部地点は津波の浸水被害を受けている。現地ではEC(電気伝導率),pH,水温,ORP,湧出量を測定し,採水試料として,無機溶存成分,酸素・水素安定同位体,微量元素,Sr同位体用をそれぞれ採取した。試料は採取後,速やかにろ過を行い,微量元素およびSr同位体分析用には濃硝酸を少量添加した。水質の測定は,無機溶存成分はICS-3000,HCO3-はpH4.8アルカリ度滴定法,微量元素はICP-MS(Agilent 4800cx)を利用して実施した。Sr安定同位体(MC-ICPMS)は今後分析する予定である。
 現地調査ならびに水質分析の結果,以下の事柄が明らかとなった。

1) 水質組成(無機溶存成分)は地点によって異なっているが, Na-(Cl+SO4)型,Ca-HCO3型,Na-HCO3型の3種類に概ね区分できる。このうち,Na-(Cl+SO4)型を示すのは1地点で津波の浸水被害を受けた湧水であり,その影響が未だ残っていると思われるが,ECは30.6 mS/mで海水(約4500 mS/m)と比べると非常に低く,海水そのものが残っているのではなく,浸水時に土壌中にもたらされた海水成分(塩分)が湧水に溶出していると考えられる。この地点は2012年より継続して観測を行っており,2012年12月の時点ではECは約100 mS/mであったが,その後,徐々に低下してきており,影響は少なくなってきていると言える。その他の地点でも津波による被害を受けた地点(自噴井)が複数あるが,いずれも海水成分は認められず,津波の影響は残っていないことが明らかである。こうした特徴は,2012年12月の時点でも確認されており,沿岸域付近の自噴井は比較的深部を流れている地下水が多いことが推察できる。

2) 一般的に,Na-HCO3型を示す地下水・湧水は相対的に滞留時間の長い水とされており,今回調査を行った2地点(南相馬市の地下水,相馬市の自噴井)においてもこの水質組成が確認された。これら2地点のδ18OおよびδDは,他の地点(Ca-HCO3型およびNa-(Cl+SO4)型を示す地点)の同位体比よりもやや低い値を示していることから,より標高の高い地点(阿武隈山地の周辺を想定)で涵養された水であることが予想される。2016年11月に実施した標高別河川水調査の結果から求めた高度効果(δ18O:-0.29‰/100 m,δD:-2.0‰/100 m)を用いて計算したところ,Na-HCO3型を示す2地点の地下水および自噴井はCa-HCO3型を示す自噴井よりも300 mほど標高が高い地点で涵養されたことが示された。この結果は,上述した阿武隈山地における涵養の存在と矛盾が無い。

3) 沿岸域の自噴井でもCa-HCO3型とNa-HCO3型を示す地点が存在しており,場所によって地下水流動系は異なることを示唆している。今後,特に自噴井の調査地点を追加することにより,より詳細な地下水流動系を把握してゆきたいと考えている。

4) 微量成分では,MnとFeが多く含まれており,特に南相馬市原町区の一部地点(自噴井)においてFeは2~3 mg/Lと非常に高い濃度を示している。南相馬市の沿岸域ではFeが多く含まれる地下水(浅層地下水および深層地下水)があることが住民への聞き取りにより把握しており,Feを多く含む地質由来であることが予想される。地下水や湧水のFe,Mn等の微量成分の濃度分布については今後も調査を続け,これらの起源について更に検討を進めてゆく。

5) 地質の違いによりSrの安定同位体比には差異が生じるため,涵養域の違いを把握できる可能性が高い(Srの濃度は地点によって異なっている)。今後,Sr同位体比と水質等を併せて考察し,地下水流動や涵養域について更に考察を進めてゆく予定である。