JpGU-AGU Joint Meeting 2017

講演情報

[EJ] ポスター発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-CG 地球人間圏科学複合領域・一般

[H-CG31] [EJ] 福島第一原子力発電事故からの地域復興に貢献できること

2017年5月23日(火) 13:45 〜 15:15 ポスター会場 (国際展示場 7ホール)

コンビーナ:西村 拓(東京大学大学院農学生命科学研究科生物・環境工学専攻)、溝口 勝(東京大学大学院農学生命科学研究科)、登尾 浩助(明治大学)

[HCG31-P10] 養液土耕栽培制御システムによるハウス栽培支援

*小沢 聖1喜多 英司2 (1.明治大学 黒川農場、2.株式会社ルートレック・ネットワークス)

キーワード:養液土耕、ハウス栽培、制御システム

2015年に福島県飯舘村の菅野宗夫さんの要請を受け、村の将来の農業のひとつの見本とする事例として、老朽化パイプハウスを改修し、ICT養液土耕栽培システム「ゼロアグリ」を導入した。養液土耕栽培とは、供給する灌漑水に肥料を混ぜ、主に点滴潅水チューブで作物の株元供給する栽培方法で、1960年代に潅水量節約のためにイスラエルで開発された。明治大学と㈱ルートレック・ネットワークスで、2013年にこれを自動化する「ゼロアグリ」を開発し、市販している。制御部と駆動部に分かれ、センサーはハウス外の日射センサー、ハウス内の地温、土壌水分、土壌EC(電気伝導率:主要な肥料源である硝酸に強く反応する)を同時測定する土壌センサー(ハイドロプローブⅡ)からなる。センサーで測定するデータを制御部のデータロガーに記録し、インターネットでクラウドに送信し、そこでデータを基に供給培養液の量と濃度、供給時刻を計算し、この結果を制御信号としてインターネットで制御部に戻し、駆動部の電磁弁を開閉して培養液供給を管理する仕組みである。圃場には点滴潅水チューブで培養液を供給する。温湿度計、ウェブカメラなども設置できる。

作物の1日の水と肥料の要求量は日射量に比例するため、培養液は時刻ごとの日射量に比例させ供給する。また、土壌水分と土壌ECが一定値になるように培養液の供給量と濃度を別に制御することで、作物生長による水と肥料の要求の増加、ハウス下層土から根圏土壌への水浸入による作物の潅水要求の低下などに対応できる。栽培者は、作物の生育状況を観察して、土壌水分と土壌ECの制御値を変更する。いわば、このシステムは栽培者と協業する半自動である。制御の変更にはタブレット端末を利用するので、すべてのデータはクラウドに蓄積され、栽培者の「経験と感」が数値化される。このデータを、翌年の栽培に利用したり、経験が不十分な栽培者に提供したりできる。地域で導入すれば、栽培が上手な人と下手な人との比較ができ、地域全体の改善に利用できる。

飯舘村では、震災以前、水稲と酪農を中心とした農業が営まれていた。2017年4月から帰村が開始されるものの、水稲の価格暴落に改善の見込みはない。また、牧草地は常に放射線汚染の危険に曝されているため、酪農再開の目処もたたない。さらに地形の制約で、大規模な畑地を利用する農業に可能性は乏しい。このような背景で可能性が高いのがハウスを利用した施設園芸である。20から30aの面積で家計収入を賄う農業経営が可能である。さらに、飯舘村の標高の高い地域では、やませの進入の助けもあって夏の果菜類の生産に適している。一方、冬の低温による短所は、ハウス導入で高まる日射量の豊富さがもたらす長所が十分に補う。また、岩手県三陸沿岸で、岩手大学、ルートレック・ネットワークスと共同開発した「高度不耕起輪作」で冬の生産性を飛躍的に高められる期待がある。「高度不耕起輪作」とは、作物生育が遅い冬に、従来直播していた作物を移植で栽培回数を増やす方法である。岩手県三陸沿岸では、これまで「春夏キュウリ→秋冬ホウレンソウ」であった作型を、「春夏キュウリ→秋レタス→冬春移植ホウレンソウ2作」に改善し、農家の農業経営全体での収入を28%増加できた。飯舘村で2015から2016年に、「春夏ピーマン→秋レタス→冬春移植ホウレンソウ2作」で検討したところ、十分に適用可能との結論を得た。帰村できない「通い」での作物栽培を「ゼロアグリ」が十分に支援した。帰村が果たされても、ハウスでの野菜、花き生産の経験に乏しい村民、十分に農業に時間をさけない村民にとって、「ゼロアグリ」の役割は極めて有効と考える。さらに、「ゼロアグリ」の情報共有機能を利用することで、村、農協、普及センターなどが地域全体を円滑に支援できる体制の確立が期待できる。

近年、ICTを農業に利用する試みは多い。しかし,、ほとんどが現実とかけ離れて目標だおれに終わっている感がある。このような状況をみて、本研究で飯舘村では栽培論、社会論とリンクした現実的な復興支援技術の確立が求められる。
農業への企業参入による復興は、疲弊する被災地を活性化するうえで不可欠な選択枝である一方で、過度な企業参入で被災地が労働者ばかりになると、消防団、冠婚葬祭、水路管理などの非経済活動に支障をきたしかねない。自営農家の経済活動の向上によって被災地を支援するこが極めて重要な所以である。
ICT業界では、機械と機械をつなぐ意味の「Machine to Machine」を「M2M」と略して表現する。これを「Man to Man」にすることを目指す。Manには現存しない過去の人も含む。日本の農業を支えてきたのは先人の「経験と勘」である。将来、被災地の復興に関わった人材も先人として扱われる。彼らの業績を数値化して次世代に伝えたいという思いも込める。