JpGU-AGU Joint Meeting 2017

講演情報

[JJ] 口頭発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-CG 地球人間圏科学複合領域・一般

[H-CG32] [JJ] 原子力と地球惑星科学

2017年5月23日(火) 13:45 〜 15:15 304 (国際会議場 3F)

コンビーナ:笹尾 英嗣(国立研究開発法人日本原子力研究開発機構 東濃地科学センター)、佐藤 努(北海道大学工学研究院)、幡谷 竜太(一般財団法人 電力中央研究所)、座長:村上 裕晃(国立研究開発法人日本原子力研究開発機構)

14:15 〜 14:30

[HCG32-08] 放射性廃棄物処分における沿岸部の下刻侵食のリスクマネジメント

*幡谷 竜太1 (1.一般財団法人 電力中央研究所)

キーワード:地層処分、沿岸部、侵食、リスクマネジメント

1. はじめに
 HLW処分場の科学的有望地選定に係わる中間整理[1]において,沿岸部がより適性の高い地域とされた.これを受けて設置された沿岸海底下等における地層処分の技術的課題に関する研究会では,隆起・侵食に係る調査・評価技術の高度化の必要性が取り上げられた.一方,中深度処分の規制の審議でも,少なくとも10 万年間は著しい侵食作用の影響を回避し,侵食作用を考慮しても離隔に必要な深度を確保することが議論されている[2].これらを踏まえ,本発表では,沿岸部の河川下刻のリスクアセスメントの知見[3など]に基づき,沿岸部の隆起・侵食に関わるリスクマネジメントの枠組み,リスクに関わる意思決定の在り方について議論し,マネジメントの観点から解決すべき課題を抽出する.
 なお,本研究では議論を単純化するため,議論の範囲を隆起地域に限定,断層等の影響はない,との前提を置いて,海水準変動1サイクル後の約10万年間を議論する.

2. 下刻侵食のリスクマネジメントの概要
 一般的なリスクマネジメントの流れに沿って,リスク対応方針の決定,リスクアセスメント,リスクトリートメントを考える.
(1) リスクマネジメント方針
 最終処分法では,著しい侵食の影響を避けるとされているが,この具体化として,少なくとも10万年間は地表露出させない,少なくとも10万年間は一定深度を確保するといった考え方がある[2, 4など].いずれにせよ,下刻が着目される.
(2) リスクアセスメント
 沿岸部における河川下刻のリスク分析については,1つには,中間整理[1]などで述べられた,「過去10万年程度の間の海水準の最大低下量と隆起量の和」を最大下刻量とする考え方がある.一方,「我が国の隆起域における後期更新世以降現在までの氷期/間氷期1サイクルの間に生じた下刻量は,当該地点のその期間の隆起量に約100mを加えたものが最大であるとする見解もある[3].さらに,「過去に実際に起こった下刻量を以て,これを将来の下刻量と評価する」という考え方もあろう.
以上のようなアセスメントの結果を以て,リスク基準との比較を行う(リスク評価).リスク基準については,次章で詳述する.
(3) リスクトリートメント
 一般に,リスクへの対応は,回避,低減,分散,保有の4つに区分される.前3者は,それぞれ,サイトから除外する,埋設深度を深くする,複数地点を選定・開発すると言える.

3. 放射性廃棄物処分サイトの選定に際しての河川下刻のリスク基準の考察
 意思決定をスムーズに行うための知恵として,我々は予めリスク基準を決め,それと調査・評価の結果を比較することをやってきた.前章では,3つの河川下刻のリスクアセスメントの考え方を紹介したが,これらのことから,将来約10万年後の下刻に対して,以下の3つのリスク基準を考えることができる.

[A]最大海面低下: 隆起量+最大海水準低下量
[B]後期更新世以降の海面低下に対する下刻の最大値:隆起量+100m(隆起域)
[C]後期更新世以降の海面低下に対する下刻の実績値:隆起量+沖積層基底深度

 Aは海水準変動の不確実性の影響を容認する.即ち,想定よりも海水準最大低下量が大きければ下刻は深くなるし,小さければ浅くなる.Bは海水準変動に加えて,沖積層基底の深度分布の不確実性の影響を保有する.つまり,反証があるかないかである・Cは海水準変動に加えて,地形・地質調査の不確実性の影響を保有する.なお,どこが下刻されるかわからない,河川の流路が特定できない前提では,AとBは採用できるが,Cはできない.
大局的には,A,B,Cの順に地表接近に関わる裕度が大きくなり,処分場建設可能範囲が広がると考えられ,また,経済的にも有利と考えられる.

4. まとめ
 本稿はどのリスク基準の妥当かを述べるものでは無い.ここで訴えたい点は,将来予測を受入れること,リスク対応方針,リスク基準,リスク対応を決めることは,背後にあるリスクを保有するという当たり前のことである.そして,長期の将来を見通すことが求められる放射性廃棄物処分事業では,リスクマネジメントの枠組みを示し,殆どが個々に実施されているリスク分析の研究をこの中で具体的に表現すること,保有するリスクを説明することが,意思決定の際の効果的な情報提供となると考える.

引用文献
[1]地層処分技術WG(2015)科学的有望地の要件・基準に関する地層処分技術WGにおける中間整理,[2]原子力規制委員会(2016)炉内等廃棄物の埋設に係る規制の考え方について(案),[3]幡谷ほか(2016)応用地質,57,15-26.,[4]NUMO(2009)概要調査地区選定上の考慮事項.