[HCG32-P02] 森林除染による土砂の流出を観測するための観測装置の設置
キーワード:福島第一原子力発電所事故、森林除染
(背景)
東京電力福島第一原子力発電所の事故により環境中へ放出された放射性セシウムは,東日本の広い範囲に沈着した.環境省,地方自治体により人の生活圏の除染が実施されている.そのなかで,落葉広葉樹林に対する除染について「落葉等を除去することによって高い除染効果が得られることが見込まれ」,「森林周辺の居住者の生活環境における放射線量を低減する観点から、林縁から20m程度の範囲をめやすに行うことが効果的・効率的」(環境省除染関係ガイドライン平成25年5月第2版)とされている.除染作業で落葉が除去されることにより地面が露出され,除染前とは降雨での地面の侵食に変化が見られると考えられる.本件では,除染が行われた森林において土砂流出を観測するための土砂受けを設置し,土砂の移動を観測した結果を報告する.
(観測方法)
調査対象の森林は福島県内のコナラ等の落葉広葉樹林で,2014~2015年に林縁から20mの範囲で除染が行われた.除染により,林床では笹等の下草は刈り取られ,堆積有機物層(分解が進み,落ち葉が破片状になったF層・H層を含む)が除去され,鉱質土層が露出した状態となった.樹木の細根が地面に露出している箇所もあった.2016年3月に森林内の除染がなされた領域において,地表流等による土砂流出を観測するための装置を設置した.観測する領域として,斜面方向に長さ4m,等高線方向に幅2mのプロットを設定した.プロット斜面の傾斜は27°である.領域内外の地表流を区分けするために,プロット斜面の上端と側辺にプラスチック板で区画した.下端には地表流による流出土砂を捕捉するための土砂受けとして大型の雨どいを設置した.プロット斜面下端にアクリル板を5cm程度地面に差し込むことでスロープをつくり,斜面を流れる地表流がアクリル板を伝い土砂捕捉用の雨どいへ流れるようにした.雨どいから下流に50Lのコンテナボックスを取り付け,貯留タンクとした.2016/3/16から観測を開始し,12/9までに6回の土砂を採取した.
(流出土砂量)
流出土砂を捕捉する雨どいにたまった土砂の量は,合計4,491gであった(3/16-4/5:3.4g/day,4/5-5/30:5.3g/day,5/30-7/12:20.6g/day,7/12-9/2:55.3g/day,9/2-11/23:4.2g/day,11/23-12/9:1.7g/day).プロットの単位面積当たりでは,561g(平均侵食深0.5mm程度)であり,東京電力福島第一原子力発電所の事故以降林床に人の手が加わっていない同傾斜の斜面での観測値の1オーダー大きい値であった.特に,7/12-9/2の期間に流出土砂の64%が集中していた.調査対象の森林から直線距離で6kmにある気象庁アメダスの観測点での雨量では,日雨量で118.0mm,75.5mm,78.5mmの大雨が8月下旬に集中したためと考えられる.土砂を採取した期間ごとの,土砂流亡量式であるUSLE(Wischmeier & Smith; 1978)の降雨係数の近似として友正ほか(1990)で提案されている1時間雨量の2乗の和と雨どいにたまった土砂の量に対して,良い相関が得られた.発表では採取した土砂の放射性セシウムの濃度や沈着している放射性セシウムに対する流出割合についても報告する.今後,落葉により斜面の土壌が次第に被覆され,降雨での侵食が抑制されていくと考えられることから観測を継続する予定である.
(文献)
環境省, 除染関係ガイドライン第2版, 平成25年5月
Wischmeier, W. H., Smith, D. D., Predicting rainfall erosion losses – a guide to conservation planning., Agriculture Handbook No. 537. (1978)
友正達美,高木東,中尾誠司,土壌流亡量式USLEにおける降雨係数の近似計算法(1990)
東京電力福島第一原子力発電所の事故により環境中へ放出された放射性セシウムは,東日本の広い範囲に沈着した.環境省,地方自治体により人の生活圏の除染が実施されている.そのなかで,落葉広葉樹林に対する除染について「落葉等を除去することによって高い除染効果が得られることが見込まれ」,「森林周辺の居住者の生活環境における放射線量を低減する観点から、林縁から20m程度の範囲をめやすに行うことが効果的・効率的」(環境省除染関係ガイドライン平成25年5月第2版)とされている.除染作業で落葉が除去されることにより地面が露出され,除染前とは降雨での地面の侵食に変化が見られると考えられる.本件では,除染が行われた森林において土砂流出を観測するための土砂受けを設置し,土砂の移動を観測した結果を報告する.
(観測方法)
調査対象の森林は福島県内のコナラ等の落葉広葉樹林で,2014~2015年に林縁から20mの範囲で除染が行われた.除染により,林床では笹等の下草は刈り取られ,堆積有機物層(分解が進み,落ち葉が破片状になったF層・H層を含む)が除去され,鉱質土層が露出した状態となった.樹木の細根が地面に露出している箇所もあった.2016年3月に森林内の除染がなされた領域において,地表流等による土砂流出を観測するための装置を設置した.観測する領域として,斜面方向に長さ4m,等高線方向に幅2mのプロットを設定した.プロット斜面の傾斜は27°である.領域内外の地表流を区分けするために,プロット斜面の上端と側辺にプラスチック板で区画した.下端には地表流による流出土砂を捕捉するための土砂受けとして大型の雨どいを設置した.プロット斜面下端にアクリル板を5cm程度地面に差し込むことでスロープをつくり,斜面を流れる地表流がアクリル板を伝い土砂捕捉用の雨どいへ流れるようにした.雨どいから下流に50Lのコンテナボックスを取り付け,貯留タンクとした.2016/3/16から観測を開始し,12/9までに6回の土砂を採取した.
(流出土砂量)
流出土砂を捕捉する雨どいにたまった土砂の量は,合計4,491gであった(3/16-4/5:3.4g/day,4/5-5/30:5.3g/day,5/30-7/12:20.6g/day,7/12-9/2:55.3g/day,9/2-11/23:4.2g/day,11/23-12/9:1.7g/day).プロットの単位面積当たりでは,561g(平均侵食深0.5mm程度)であり,東京電力福島第一原子力発電所の事故以降林床に人の手が加わっていない同傾斜の斜面での観測値の1オーダー大きい値であった.特に,7/12-9/2の期間に流出土砂の64%が集中していた.調査対象の森林から直線距離で6kmにある気象庁アメダスの観測点での雨量では,日雨量で118.0mm,75.5mm,78.5mmの大雨が8月下旬に集中したためと考えられる.土砂を採取した期間ごとの,土砂流亡量式であるUSLE(Wischmeier & Smith; 1978)の降雨係数の近似として友正ほか(1990)で提案されている1時間雨量の2乗の和と雨どいにたまった土砂の量に対して,良い相関が得られた.発表では採取した土砂の放射性セシウムの濃度や沈着している放射性セシウムに対する流出割合についても報告する.今後,落葉により斜面の土壌が次第に被覆され,降雨での侵食が抑制されていくと考えられることから観測を継続する予定である.
(文献)
環境省, 除染関係ガイドライン第2版, 平成25年5月
Wischmeier, W. H., Smith, D. D., Predicting rainfall erosion losses – a guide to conservation planning., Agriculture Handbook No. 537. (1978)
友正達美,高木東,中尾誠司,土壌流亡量式USLEにおける降雨係数の近似計算法(1990)