[HCG32-P04] 再冠水試験に伴う埋め戻し試験 (1)坑道埋め戻し材の浸潤・膨潤過程の観測
キーワード:再冠水試験、埋め戻し試験、埋め戻し材、ベントナイト
1.はじめに
日本原子力研究開発機構は,高レベル放射性廃棄物の地層処分技術に関する研究開発の一環として,岐阜県瑞浪市に位置する瑞浪超深地層研究所において,結晶質岩(花崗岩)を主な対象として深地層の科学的研究(地層科学研究)を進めている。現在,瑞浪超深地研究所の深度500mに掘削した水平坑道を利用した研究開発として,①地下坑道における工学的対策技術の開発,②物質移動モデル化技術の開発,③坑道埋め戻し技術の開発の3つの課題を設定し進めている。
これらの研究開発課題のうち,③坑道埋め戻し技術の開発の一環として,瑞浪超深地層研究所の深度500mの坑道内に止水壁を設置することで坑道の一部(以下,冠水坑道:長さ40m×幅5m×高さ4.5m)を地下水で満たし,再冠水に伴う地質環境特性の回復過程を把握する再冠水試験を実施している。この試験の一部として,坑道冠水時の埋め戻し材(ベントナイト,砂,礫)の透水性や膨潤圧などの物性評価手法の構築を目的とした埋め戻し試験を実施している。本発表では,埋め戻し試験の概要とこれまでの観測結果を紹介する。
2.埋め戻し試験の実施内容
埋め戻し試験は,冠水坑道の床盤に掘削したボーリングピット2ヶ所(長さ4m×幅3m×深さ1m)で実施している。埋め戻し材はベントナイトを配合して周辺地山と同等以上の低透水性をもたせることを想定し,透水係数10-11m/sオーダーの低透水性が期待できる混合率として,ピットA(ベントナイト15%,砂35%,礫50%),ピットB(ベントナイト15%,砂85%)とした。埋め戻し施工における管理基準は,室内試験の結果等を参考に乾燥密度1.3〜1.5g/cm3,含水比11~15%とした。
各ピットの初期状態の把握として,ピットの形状計測,壁面観察,割れ目からの湧水量計測を実施しており,ピット壁面の割れ目密度には明瞭な粗密のコントラストがみられたが,湧水分布と割れ目密度に関連性は認められなかった。
埋め戻し方法,埋め戻し条件の確認及び計測機器の設置方法の確認を目的とした予備試験を地上で実施した後,2014年9月に冠水坑道のピットで埋め戻しを行った。ここでは厚さ約0.1mの締固めを繰り返し,高さが約0.7~0.8mとなるよう施工した。埋め戻し材への地下水の浸潤過程などを把握するため,ピット1ヶ所あたり水圧計6個,土壌水分計14個を埋め戻しピット中間深度の同一水平面上,土圧計6個をピットの中央・縁辺・上下端に配置した。埋め戻し完了後には,ピット上部に厚さ0.2~0.3mのコンクリート蓋を打設した。
ピット埋め戻し後,2015年9月10日から9月14日までと,2016年1月25日から2017年2月現在(継続中)までの2回にわたり冠水坑道を冠水させた。
3.観測結果
ピット内の土壌水分は,両ピットとも,埋め戻し直後から湧水量の多い岩盤面近傍の地点で上昇する傾向が見られた。また,埋め戻しから約1週間後に冠水坑道全体が水深30㎝程度湛水し,全28観測地点中26地点で飽和あるいは異常を示した。湛水した水の排水後,ピットAでは土壌水分計の出力はほぼ湛水前の値に回復した。その後のピットAの飽和状況は地点により異なり,ピット中央部で2週間程度,ピット外側部(岩盤との接触部)で数日から1ヶ月程度で飽和に達した。これらの結果は,ピットAでは,岩盤からの湧水により外側から内側に向かって飽和領域が広がるものの,岩盤からの湧水量の違いや埋め戻し材の透水不均質性により外側部でも飽和までに時間を要する状況にあったことを示唆する。一方,ピットBでは排水後もほとんどの地点で飽和を示す値となった。この原因としては,ケーブルの浸水により出力上昇が生じたこと,ケーブル周縁の締固めが十分でなく水みちが形成されたことなどが考えられる。
第1回の冠水では,止水壁のバルブ閉栓直後から水圧が急激に上昇し,水圧・土圧ともに最大1.7 MPa程度を示した。9月14日以降は冠水坑道からの排水により水圧・土圧ともに急激に低下しほぼ0.0 MPaに戻った。
第2回の冠水では,止水壁のバルブ閉栓直後から水圧が急激に上昇し,水圧・土圧ともにバルブ閉栓18日後に3.1 MPa程度を示した。その後水圧は6ヶ月間低下し,さらにその後6ヶ月間2.4 MPa程度で定常状態となっている。この水圧・土圧の変化は冠水坑道の水圧変化とほぼ一致している。
観測された水圧と土圧から埋め戻し材の膨潤圧を求めたところ,ピットAで0.03~0.09 MPa,ピットBで0.05~0.08 MPaを示し,室内試験で得られたピットA材で0.03~0.04 MPa,ピットB材で0.04 MPaと比べやや大きい値を示した。
4.今後の展開
今後もピット内部での観測を継続し,基礎データの取得及び観測機器の耐久性や設置法の確認を行う予定である。また,冠水坑道の排水後に,埋め戻しピットの状況やセンサーの設置状況を確認すると共にピット内の埋め戻し材を採取し,室内試験により実際の埋め戻し材の特性を確認する。
日本原子力研究開発機構は,高レベル放射性廃棄物の地層処分技術に関する研究開発の一環として,岐阜県瑞浪市に位置する瑞浪超深地層研究所において,結晶質岩(花崗岩)を主な対象として深地層の科学的研究(地層科学研究)を進めている。現在,瑞浪超深地研究所の深度500mに掘削した水平坑道を利用した研究開発として,①地下坑道における工学的対策技術の開発,②物質移動モデル化技術の開発,③坑道埋め戻し技術の開発の3つの課題を設定し進めている。
これらの研究開発課題のうち,③坑道埋め戻し技術の開発の一環として,瑞浪超深地層研究所の深度500mの坑道内に止水壁を設置することで坑道の一部(以下,冠水坑道:長さ40m×幅5m×高さ4.5m)を地下水で満たし,再冠水に伴う地質環境特性の回復過程を把握する再冠水試験を実施している。この試験の一部として,坑道冠水時の埋め戻し材(ベントナイト,砂,礫)の透水性や膨潤圧などの物性評価手法の構築を目的とした埋め戻し試験を実施している。本発表では,埋め戻し試験の概要とこれまでの観測結果を紹介する。
2.埋め戻し試験の実施内容
埋め戻し試験は,冠水坑道の床盤に掘削したボーリングピット2ヶ所(長さ4m×幅3m×深さ1m)で実施している。埋め戻し材はベントナイトを配合して周辺地山と同等以上の低透水性をもたせることを想定し,透水係数10-11m/sオーダーの低透水性が期待できる混合率として,ピットA(ベントナイト15%,砂35%,礫50%),ピットB(ベントナイト15%,砂85%)とした。埋め戻し施工における管理基準は,室内試験の結果等を参考に乾燥密度1.3〜1.5g/cm3,含水比11~15%とした。
各ピットの初期状態の把握として,ピットの形状計測,壁面観察,割れ目からの湧水量計測を実施しており,ピット壁面の割れ目密度には明瞭な粗密のコントラストがみられたが,湧水分布と割れ目密度に関連性は認められなかった。
埋め戻し方法,埋め戻し条件の確認及び計測機器の設置方法の確認を目的とした予備試験を地上で実施した後,2014年9月に冠水坑道のピットで埋め戻しを行った。ここでは厚さ約0.1mの締固めを繰り返し,高さが約0.7~0.8mとなるよう施工した。埋め戻し材への地下水の浸潤過程などを把握するため,ピット1ヶ所あたり水圧計6個,土壌水分計14個を埋め戻しピット中間深度の同一水平面上,土圧計6個をピットの中央・縁辺・上下端に配置した。埋め戻し完了後には,ピット上部に厚さ0.2~0.3mのコンクリート蓋を打設した。
ピット埋め戻し後,2015年9月10日から9月14日までと,2016年1月25日から2017年2月現在(継続中)までの2回にわたり冠水坑道を冠水させた。
3.観測結果
ピット内の土壌水分は,両ピットとも,埋め戻し直後から湧水量の多い岩盤面近傍の地点で上昇する傾向が見られた。また,埋め戻しから約1週間後に冠水坑道全体が水深30㎝程度湛水し,全28観測地点中26地点で飽和あるいは異常を示した。湛水した水の排水後,ピットAでは土壌水分計の出力はほぼ湛水前の値に回復した。その後のピットAの飽和状況は地点により異なり,ピット中央部で2週間程度,ピット外側部(岩盤との接触部)で数日から1ヶ月程度で飽和に達した。これらの結果は,ピットAでは,岩盤からの湧水により外側から内側に向かって飽和領域が広がるものの,岩盤からの湧水量の違いや埋め戻し材の透水不均質性により外側部でも飽和までに時間を要する状況にあったことを示唆する。一方,ピットBでは排水後もほとんどの地点で飽和を示す値となった。この原因としては,ケーブルの浸水により出力上昇が生じたこと,ケーブル周縁の締固めが十分でなく水みちが形成されたことなどが考えられる。
第1回の冠水では,止水壁のバルブ閉栓直後から水圧が急激に上昇し,水圧・土圧ともに最大1.7 MPa程度を示した。9月14日以降は冠水坑道からの排水により水圧・土圧ともに急激に低下しほぼ0.0 MPaに戻った。
第2回の冠水では,止水壁のバルブ閉栓直後から水圧が急激に上昇し,水圧・土圧ともにバルブ閉栓18日後に3.1 MPa程度を示した。その後水圧は6ヶ月間低下し,さらにその後6ヶ月間2.4 MPa程度で定常状態となっている。この水圧・土圧の変化は冠水坑道の水圧変化とほぼ一致している。
観測された水圧と土圧から埋め戻し材の膨潤圧を求めたところ,ピットAで0.03~0.09 MPa,ピットBで0.05~0.08 MPaを示し,室内試験で得られたピットA材で0.03~0.04 MPa,ピットB材で0.04 MPaと比べやや大きい値を示した。
4.今後の展開
今後もピット内部での観測を継続し,基礎データの取得及び観測機器の耐久性や設置法の確認を行う予定である。また,冠水坑道の排水後に,埋め戻しピットの状況やセンサーの設置状況を確認すると共にピット内の埋め戻し材を採取し,室内試験により実際の埋め戻し材の特性を確認する。