[HCG32-P05] 花崗岩地域に建設した坑道の閉鎖に関わる地球化学解析
キーワード:地下水水質、花崗岩
はじめに
高レベル放射性廃棄物の地層処分事業では,地上からの様々な調査によりその適性が確認された地質環境に地層処分場が建設される。一方で,その建設・操業時には坑道が大気環境になることや,長期にわたる地下水の排水,セメント材料の使用などの環境擾乱により,地下施設閉鎖後の化学環境が事前の調査により理解された状態と異なる可能性がある。そのため,地下施設閉鎖後の化学環境の形成プロセスを理解しておく必要がある。
本研究では,地下施設の建設・操業により乱された化学環境の確認とその形成プロセスの理解を目的として,岐阜県瑞浪市の瑞浪超深地層研究所において,花崗岩の深度500mに建設された研究坑道の一部(幅5m,高さ4.5m,長さ約45m:総容量約900m3,以下,冠水坑道とする)を止水壁により閉鎖し,周辺の地下水によって冠水させた。その後,約1年間にわたり定期的に冠水坑道内の地下水を採取し,主要成分濃度,トレーサー(蛍光染料)濃度,pH,酸化還元電位などの観測を行った。また,地球化学計算コードPHREEQCにより主要な化学反応プロセスの解析を行った。
結果・考察
冠水坑道内のトレーサー濃度は,坑道が冠水した2016年1月25日から徐々に減少し,冠水から約180日後には初期値の約2割程度まで減少した。止水壁付近の湧水から冠水坑道の地下水と同等の濃度のトレーサーが検出され,冠水坑道内の地下水が冠水坑道外に浸み出していることが確認されたため、冠水坑道周りの地下水が冠水坑道内へ流入し,冠水坑道内の地下水と徐々に入れ替わっていると判断された。
冠水坑道内の地下水の酸化還元電位は,冠水から約20日を過ぎると大きく低下し始め,約120日後には冠水坑道掘削前の値(約-180mv)と同等まで回復した。冠水直後の地下水には酸素が5㎎/L溶存していたが,約120日後には<0.02㎎/Lまで減少した。また,硝酸イオン濃度が冠水直後に<0.05㎎/Lまで減少し,それと共に亜硝酸イオン濃度が一時的に増加したが,すぐに<0.05㎎/Lまで減少しており,硝酸イオンの還元反応が確認された。加えて冠水から約100日経過後,硫酸イオン濃度の減少が確認された。これらの一連の水質変化は,微生物による還元作用に特有の過程であり,まず溶存酸素が消費され,続いて硝酸イオン,硫酸イオンの順で還元されたと考えられる。
地下水のpHについては,冠水直後の約pH9から徐々に上昇し,約180日後にはpH10付近まで上昇した。溶存成分の測定結果から,冠水坑道壁面の支保に用いた吹付コンクリートに由来する可能性のあるSi, Al,Feの濃度が冠水後増加した。また,坑道に流入する地下水と接している吹付コンクリートを採取して観察したところ,地下水との反応により吹付コンクリートのセメント材料に含まれるポルトランダイト(Ca(OH)2)が減少し,炭酸カルシウムが生成していた。このことから,pHの上昇は,吹付コンクリートの溶解によるものと推測された。この現象はセメント材料を使用した坑道内で普遍的に起こるものと考えられる。
冠水坑道内の水質変化を定量的に評価するため,PHREEQCにより冠水坑道内で想定し得る鉱物相と初期地下水の水-鉱物反応を想定して,その再現を試みた結果,冠水坑道周囲からの地下水との混合と,吹付けコンクリートの構成鉱物(ポルトランダイト,シリカ,エトリンガイトなど),花崗岩中の粘土鉱物などとの水-鉱物反応を仮定することでほぼ再現できることが確認された。
今後,冠水坑道内の岩石や吹付けコンクリートを採取し,その変質状態の確認を行うとともに,PHREEQCによる解析の妥当性を確認していく予定である。
高レベル放射性廃棄物の地層処分事業では,地上からの様々な調査によりその適性が確認された地質環境に地層処分場が建設される。一方で,その建設・操業時には坑道が大気環境になることや,長期にわたる地下水の排水,セメント材料の使用などの環境擾乱により,地下施設閉鎖後の化学環境が事前の調査により理解された状態と異なる可能性がある。そのため,地下施設閉鎖後の化学環境の形成プロセスを理解しておく必要がある。
本研究では,地下施設の建設・操業により乱された化学環境の確認とその形成プロセスの理解を目的として,岐阜県瑞浪市の瑞浪超深地層研究所において,花崗岩の深度500mに建設された研究坑道の一部(幅5m,高さ4.5m,長さ約45m:総容量約900m3,以下,冠水坑道とする)を止水壁により閉鎖し,周辺の地下水によって冠水させた。その後,約1年間にわたり定期的に冠水坑道内の地下水を採取し,主要成分濃度,トレーサー(蛍光染料)濃度,pH,酸化還元電位などの観測を行った。また,地球化学計算コードPHREEQCにより主要な化学反応プロセスの解析を行った。
結果・考察
冠水坑道内のトレーサー濃度は,坑道が冠水した2016年1月25日から徐々に減少し,冠水から約180日後には初期値の約2割程度まで減少した。止水壁付近の湧水から冠水坑道の地下水と同等の濃度のトレーサーが検出され,冠水坑道内の地下水が冠水坑道外に浸み出していることが確認されたため、冠水坑道周りの地下水が冠水坑道内へ流入し,冠水坑道内の地下水と徐々に入れ替わっていると判断された。
冠水坑道内の地下水の酸化還元電位は,冠水から約20日を過ぎると大きく低下し始め,約120日後には冠水坑道掘削前の値(約-180mv)と同等まで回復した。冠水直後の地下水には酸素が5㎎/L溶存していたが,約120日後には<0.02㎎/Lまで減少した。また,硝酸イオン濃度が冠水直後に<0.05㎎/Lまで減少し,それと共に亜硝酸イオン濃度が一時的に増加したが,すぐに<0.05㎎/Lまで減少しており,硝酸イオンの還元反応が確認された。加えて冠水から約100日経過後,硫酸イオン濃度の減少が確認された。これらの一連の水質変化は,微生物による還元作用に特有の過程であり,まず溶存酸素が消費され,続いて硝酸イオン,硫酸イオンの順で還元されたと考えられる。
地下水のpHについては,冠水直後の約pH9から徐々に上昇し,約180日後にはpH10付近まで上昇した。溶存成分の測定結果から,冠水坑道壁面の支保に用いた吹付コンクリートに由来する可能性のあるSi, Al,Feの濃度が冠水後増加した。また,坑道に流入する地下水と接している吹付コンクリートを採取して観察したところ,地下水との反応により吹付コンクリートのセメント材料に含まれるポルトランダイト(Ca(OH)2)が減少し,炭酸カルシウムが生成していた。このことから,pHの上昇は,吹付コンクリートの溶解によるものと推測された。この現象はセメント材料を使用した坑道内で普遍的に起こるものと考えられる。
冠水坑道内の水質変化を定量的に評価するため,PHREEQCにより冠水坑道内で想定し得る鉱物相と初期地下水の水-鉱物反応を想定して,その再現を試みた結果,冠水坑道周囲からの地下水との混合と,吹付けコンクリートの構成鉱物(ポルトランダイト,シリカ,エトリンガイトなど),花崗岩中の粘土鉱物などとの水-鉱物反応を仮定することでほぼ再現できることが確認された。
今後,冠水坑道内の岩石や吹付けコンクリートを採取し,その変質状態の確認を行うとともに,PHREEQCによる解析の妥当性を確認していく予定である。