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[HCG33-02] 原子力発電所の地震安全性を矮小化している「基準地震動」:新たな「深層防護用地震動」の提案
キーワード:原子力発電所、基準地震動、深層防護、トランス・サイエンス、深層防護用地震動、地域情報委員会
●はじめに: 地震の脅威を仮に地震動に限っても,原子力規制委員会による新規制基準は,原発の地震安全性の確保に関して極めて不十分である.原発の地震対策は,福島原発事故後に抜本的に再構築されるべきだったにもかかわらず,基本的に昔ながらの狭義の耐震設計とそのための「基準地震動」に矮小化されているからである.したがって,ある原発が新規制基準を満たしても(審査に合格しても),その原発の地震安全性は保証されない.しかも現在は,審査が甘く,新規制基準すら満たさずに再稼働しつつある.本発表では,新規制基準の枠内での基準地震動(以下Ss)の技術的問題点にも言及するが,より根元的に,基準地震動に替わるべき新たな想定地震動の概念を提案する.
●新規制基準でのSs の問題点: 規制委員会規則第5号および「同規則の解釈」および関連審査ガイドが規定するSs と,実際に新規制基準適合性審査で承認されたSs は,年超過確率でみたとき,原発の安全目標である10-4 (炉心損傷頻度)〜10-6 (重大事故による大量放射能放出)に比べて著しく過小評価である.「震源を特定せず策定する地震動」には旧原子力安全委員会以来の方法論的欠陥があるし,「敷地ごとに震源を特定して策定する地震動」では,活断層の長さから地震モーメントを求める式の良否など以前の問題として,一般に活断層が地下の震源断層を一意的には示さないことが根本的に重要である.なお,松田 (1975) の式が今でも使われているが,石橋 (1998) 以来指摘している問題があるし,松田 (1998) で改訂もされている.また,演者が旧安全委の耐震指針改訂の際に提案した続発大余震の考慮が新規制基準に入っていないのも問題である.
●狭義の耐震設計用基準地震動から「深層防護用地震動」へ: 原発事故による放射線災害から人と環境を守るための基本的考え方は「深層防護」(安全対策の多段階設定)であり,新規制基準もそれが基本だとしている.そうであれば,原発の地震安全性を確保するための地震動は,これまでのように第1層の異常運転の予防,第2層の異常運転の制御,第3層の事故を想定範囲に収める制御(ここまでが重大事故SAの防止)における設備・機器の耐震設計のためのSs として考慮するだけでは不十分である.第4層のSAの制御と影響緩和においても当然考慮されなければならない.すなわち,1万〜100万年に1度の地震に対して特定重大事故等対処施設(免震重要棟,予備電源・注水設備,可搬型設備など)や発電所内の道路なども機能を損なわないことを,厳重に確認しなければならない.九州電力川内原発を例にとれば, 水平最大加速度 540 Gal のSs-1も,同 620 Gal のSs-2も,短周期成分だけで振動継続時間が短く,米国で重視されている累積絶対速度CAV (Cumulative Absolute Velocity;佐藤, 2015) も極めて小さい.南海トラフ巨大地震が内閣府 (2012) の想定か,それ以上の規模で起これば,川内原発における短周期から長周期までの地震動の加速度,速度,変位,継続時間が第4層の設備・施設・作業を破綻させる可能性は高い.したがって,第1層から第4層までに適用される広帯域の「深層防護用地震動」(Earthquake Ground Motion for Defense in Depth, EGMDD) とでもいうべきものを新たに想定し,それに対して各層の健全性を確認する必要がある.さらに,深層防護の第5層(SAが制御できずに放射性物質が大量放出された場合の所外での緊急対応) が,(津波と地殻変動を別としても)EGMDDによって阻害されないことが,原発の総合的な地震対策の最後の砦として必要不可欠である.
●国民が納得できる「深層防護用地震動」の策定を: ある原発において人々の安全と安心が得られる地震動(Ss であれEGMDDであれ)がどのようなものであるかは,地震学・地震工学によっては答が出せず,Weinberg (1972) が述べたようにトランス・サイエンスの問題である.その決定は規制委の守備範囲を超える.理学・工学専門家による検討過程,工学的対応可能性,経営的判断,住民の要求といったものをすべて持ち寄り,全関係者の討論によって,あるレベルで合意できるか,合意できずに操業をやめるか,結論を導くべきであろう.そのような場として,例えばフランスで相当程度に機能しているCLI(Commission Locale d'Information;地域情報委員会;例えば, 菅原・城山, 2010)のような仕組みをいっそう拡充・確立することが考えられる.このような取り組みをしなければ,福島原発事故を上回るような「原発震災」の再発を防げないだろう.
●新規制基準でのSs の問題点: 規制委員会規則第5号および「同規則の解釈」および関連審査ガイドが規定するSs と,実際に新規制基準適合性審査で承認されたSs は,年超過確率でみたとき,原発の安全目標である10-4 (炉心損傷頻度)〜10-6 (重大事故による大量放射能放出)に比べて著しく過小評価である.「震源を特定せず策定する地震動」には旧原子力安全委員会以来の方法論的欠陥があるし,「敷地ごとに震源を特定して策定する地震動」では,活断層の長さから地震モーメントを求める式の良否など以前の問題として,一般に活断層が地下の震源断層を一意的には示さないことが根本的に重要である.なお,松田 (1975) の式が今でも使われているが,石橋 (1998) 以来指摘している問題があるし,松田 (1998) で改訂もされている.また,演者が旧安全委の耐震指針改訂の際に提案した続発大余震の考慮が新規制基準に入っていないのも問題である.
●狭義の耐震設計用基準地震動から「深層防護用地震動」へ: 原発事故による放射線災害から人と環境を守るための基本的考え方は「深層防護」(安全対策の多段階設定)であり,新規制基準もそれが基本だとしている.そうであれば,原発の地震安全性を確保するための地震動は,これまでのように第1層の異常運転の予防,第2層の異常運転の制御,第3層の事故を想定範囲に収める制御(ここまでが重大事故SAの防止)における設備・機器の耐震設計のためのSs として考慮するだけでは不十分である.第4層のSAの制御と影響緩和においても当然考慮されなければならない.すなわち,1万〜100万年に1度の地震に対して特定重大事故等対処施設(免震重要棟,予備電源・注水設備,可搬型設備など)や発電所内の道路なども機能を損なわないことを,厳重に確認しなければならない.九州電力川内原発を例にとれば, 水平最大加速度 540 Gal のSs-1も,同 620 Gal のSs-2も,短周期成分だけで振動継続時間が短く,米国で重視されている累積絶対速度CAV (Cumulative Absolute Velocity;佐藤, 2015) も極めて小さい.南海トラフ巨大地震が内閣府 (2012) の想定か,それ以上の規模で起これば,川内原発における短周期から長周期までの地震動の加速度,速度,変位,継続時間が第4層の設備・施設・作業を破綻させる可能性は高い.したがって,第1層から第4層までに適用される広帯域の「深層防護用地震動」(Earthquake Ground Motion for Defense in Depth, EGMDD) とでもいうべきものを新たに想定し,それに対して各層の健全性を確認する必要がある.さらに,深層防護の第5層(SAが制御できずに放射性物質が大量放出された場合の所外での緊急対応) が,(津波と地殻変動を別としても)EGMDDによって阻害されないことが,原発の総合的な地震対策の最後の砦として必要不可欠である.
●国民が納得できる「深層防護用地震動」の策定を: ある原発において人々の安全と安心が得られる地震動(Ss であれEGMDDであれ)がどのようなものであるかは,地震学・地震工学によっては答が出せず,Weinberg (1972) が述べたようにトランス・サイエンスの問題である.その決定は規制委の守備範囲を超える.理学・工学専門家による検討過程,工学的対応可能性,経営的判断,住民の要求といったものをすべて持ち寄り,全関係者の討論によって,あるレベルで合意できるか,合意できずに操業をやめるか,結論を導くべきであろう.そのような場として,例えばフランスで相当程度に機能しているCLI(Commission Locale d'Information;地域情報委員会;例えば, 菅原・城山, 2010)のような仕組みをいっそう拡充・確立することが考えられる.このような取り組みをしなければ,福島原発事故を上回るような「原発震災」の再発を防げないだろう.