JpGU-AGU Joint Meeting 2017

講演情報

[JJ] 口頭発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-CG 地球人間圏科学複合領域・一般

[H-CG33] [JJ] 原子力発電所の基準地震動: 理学と工学の両面から考える

2017年5月21日(日) 10:45 〜 12:15 A01 (東京ベイ幕張ホール)

コンビーナ:末次 大輔(海洋研究開発機構 地球深部ダイナミクス研究分野)、橋本 学(京都大学防災研究所)、鷺谷 威(名古屋大学減災連携研究センター)、寿楽 浩太(東京電機大学未来科学部人間科学系列)、座長:末次 大輔(海洋研究開発機構 地球深部ダイナミクス研究分野)、座長:寿楽 浩太(東京電機大学未来科学部人間科学系列)

11:25 〜 11:40

[HCG33-03] 西南日本外帯の回転運動と伊方原子力発電所に関する考察

*野津 厚1 (1.港湾空港技術研究所)

キーワード:原子力発電所、設計地震動、中央構造線、傾斜角、地殻変動、逆断層

福島第一原子力発電所の事故を受けて,原子力発電所の審査体制が見直され,新規制基準への適合性に関する審査が行われるようになった.審査会合の資料は公開されており(http://www.nsr.go.jp/disclosure/committee/yuushikisya/tekigousei.html),審査の学術的妥当性を,トレースしようとすればトレースできる状態にある.しかしながら,地球科学の多くの専門家は多忙であるため,よほど必要に迫られなければ,資料を開いてみようとは思わないであろう.著者自身も基本的にはそうであったが,縁があって伊方原子力発電所の基準地震動策定に関する資料に目を通すことになった.その結果,多くの専門家が首を傾げるのではないかと考えざるを得ないような部分もあることに気付いた.ここではそれについて報告する.報告する内容は,著者自身が専門とする強震動シミュレーションに関することではなく,テクトニクスに関することであるから,通常であれば著者から報告すべき内容ではない.しかし,現時点でこのような報告ができる専門家が他にいない可能性が高いので,あえて著者から報告するものである.本報告をきっかけとして,今後,専門家の間での議論が深まることを期待するものである.
伊方原子力発電所の基準地震動策定については平成27年3月20日の会合に事業者が提出した資料3-4-1(http://www.nsr.go.jp/data/000100928.pdf)に詳しい.発電所の敷地前面海域には中央構造線断層帯が存在しているので,それによる地震動が基準地震動の策定において考慮されている.その際,傾斜角については90度を基本とし角度のばらつきも考慮しているが,発電所から離れるセンスである北傾斜については30度まで考慮しているにも関わらず,発電所に近づくセンスである南傾斜については80度までしか考慮していない(p.55).つまり発電所にとって厳しくなる条件が考慮されていない.
国土地理院の地殻変動ベクトル(http://www.gsi.go.jp/kyusyu/test.html)が示しているように,九州地方は陸側プレートに対して反時計回りに回転している(Nishimura and Hashimoto, 2006)ことはよく知られているところであり,この運動と整合するように2016年熊本地震が発生したこともよく知られている.このとき,上記のサイトのアニメーションから明確にわかるように,伊方発電所付近はコントラクション(圧縮)が生じている領域である.同じ会合に提出した資料3-3(https://www.nsr.go.jp/data/000100933.pdf)で事業者は「敷地周辺は横ずれ断層が卓越する地域と正断層が卓越する地域の遷移域に位置」すると述べているが,横ずれに正断層成分が混じるのは豊後海峡より西側に限られ,発電所前面海域の中央構造線断層帯で横ずれ断層を主体とする地震が発生するときには,正断層成分よりも逆断層成分が加わる可能性が高い.
ところで,逆断層成分を含む地震が北傾斜の断層面で生じると仮定すると,断層の北側が隆起することになるので,断層の南側が高い(半島がある)という地形の特徴と矛盾する.よって,発電所前面海域の中央構造線断層帯が動くときには,少なくとも北傾斜よりは南傾斜の断層面で生じる可能性が高いと言えるだろう.従って,南傾斜より北傾斜に力点を置いている現状の基準地震動策定は妥当ではないと言えるだろう.南傾斜の断層面で地震が生じれば,北傾斜の断層面よりも発電所までの距離が短いため,より大きな地震動が作用する可能性がある.
一点注意すべきことは,四国西部の北西への移動は大部分はプレート間のカップリングによるものであり,いったん南海トラフ巨大地震が起こればキャンセルされるもので,そのすべてが内陸地殻内地震によって解放されるべきものではないという点である.しかしながら,地殻変動ベクトルに示される九州南東部の反時計回りの回転運動と整合する形で熊本地震が発生したという事実は重く,この回転運動とそれに伴う四国西部の北西への移動が,発電所前面海域にその動きと整合する地震,すなわち逆断層成分を含む横ずれ断層地震を発生させる可能性はおおいにあると考えられる.フィリピン海プレートの沈み込みに伴うひずみの蓄積により,そのような地震の発生の可能性が刻一刻高まっている可能性さえある.