16:00 〜 16:15
[HCG34-02] イオン液体(1-H-3-メチルイミダゾリウムクロリド)を用いた木質バイオマス(Albizia falcataria)の溶解
キーワード:イオン液体、バイオリファイナリー、ファルカタ
[緒論]
宇宙農業において、樹木は酸素、木材材料、木質バイオマスの供給源として重要な役割を担う1)。木質バイオマスは、セルロース、ヘミセルロース、リグニン、及び多様な有用化学成分を含んでいる。木質バイオマスの有効利用は、閉鎖環境下において利益を与えるだろう。木質バイオマスから有用物質を得る方法は、クラフトパルプ法による紙・パルプの生産を代表として、酸加水分解、酵素糖化法などが研究されてきた。しかし、これらの方法には高温高圧等の過酷な条件が必要とされる。
イオン液体は、融点100℃以下の塩類であり、優れた溶解性、低い揮発性、難燃性、低粘度性などの特徴的な性質がある2)。近年、ある種のイオン液体は、セルロールやリグノセルロースを溶解できることが明らかにされた。また、セルロースフィルムの作成、酢酸セルロースやカルボキシメチルセルロースの合成において、環境に優しい溶媒として利用可能なことが報告されてきた。本研究では、低コストなイオン液体(1-H-3-メチルイミダゾリウムクロリド)を用いて、木質バイオマス(Albizia falcataria)の溶解挙動を検討した。
[実験方法]
試料のファルカタ木材は南海プライウッド(株)から提供していただいた。これをウィレーミルで粉砕し、40~80 meshにふるい分けしたものを使用した。イオン液体である1-H-3-メチルイミダゾリウムクロリド([HMIM]Cl)は合成した。1-イミダゾールと塩酸を混合し、氷冷下で24時間撹拌した。反応液はエーテルで洗浄後、減圧濃縮し、NMRで構造を確認した。0.5gの木粉に15 gの[HMIM]Clを加え、90~120 ℃で1~24時間撹拌し、木粉を溶解させた。溶解液はろ過後、150 mlの1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノンと水で洗浄し、木粉残渣を105℃で乾燥させて溶解率を算出した。木粉残渣はクラソーン法によりリグニン量を求め、FT-IR測定を行った。[HMIM]Clの再利用には、木粉またはセルロースを溶解させた[HMIM]Clにエタノールを加えることにより溶解物を析出させ、ろ過、濃縮により[HMIM]Clを回収して使用した。
[結果と考察]
[HMIM]Clにより90℃で処理した木粉は、1時間で残渣量が大きく減少したが、その後反応時間を延ばしても、残渣量の変化は少なかった。90℃、1時間の条件で処理した木粉残渣のFT-IRスペクトルには、ヘミセルロースのピークは確認できなかったが、セルロースのピークは認められ、比較的穏やかな処理条件で、ヘミセルロースは[HMIM]Cl中に溶解したと考えられる。120℃で処理した木粉では、反応時間が進むにつれて溶解率は増加し、残渣中におけるクラーソンリグニンの割合が増加していた。120℃、24時間の条件で[HMIM]Cl処理した木粉残渣のFT-IRスペクトルでは、セルロースの結晶部分に関するCH2変角振動の1429cm-1、ヘミセルロースのアセチル基(C=O)に由来する1740 cm-1のピークは認められず、リグニンベンゼン環のC=C結合由来の1600、1460 cm-1のピークが認められた。120℃、24時間のような高温・長時間の処理により木粉中のセルロースとヘミセルロースがともに[HMIM]Cl中に溶出し、残渣中にリグニンが濃縮されることが示唆された。
セルロース溶解後に回収した[HMIM]Clを用いて木粉の溶解を行うと、回収前の[HMIM]Clとほぼ同等の溶解率となった。一方、木粉溶解後に回収した[HMIM]Clを使用して木粉の溶解を行った場合、溶解率は低くなった。これは、エタノールを用いて溶出物の析出を行った場合、低分子のリグニン分解物が完全に析出しないためだと考えられる。
[引用文献]
1) Yamashita, M., Ishikawa, Y., Nagatomo, M., Oshima, T., Wada, H., Space Agriculture Task Force. Space agriculture for manned space exploration on mars. J Space Tech Sci, 21(2), 1-10, 2005
2) Miyafuji, H. Application of ionic liquids for effective use of woody biomass. J Wood Sci, 61, 343-350 (2015)
宇宙農業において、樹木は酸素、木材材料、木質バイオマスの供給源として重要な役割を担う1)。木質バイオマスは、セルロース、ヘミセルロース、リグニン、及び多様な有用化学成分を含んでいる。木質バイオマスの有効利用は、閉鎖環境下において利益を与えるだろう。木質バイオマスから有用物質を得る方法は、クラフトパルプ法による紙・パルプの生産を代表として、酸加水分解、酵素糖化法などが研究されてきた。しかし、これらの方法には高温高圧等の過酷な条件が必要とされる。
イオン液体は、融点100℃以下の塩類であり、優れた溶解性、低い揮発性、難燃性、低粘度性などの特徴的な性質がある2)。近年、ある種のイオン液体は、セルロールやリグノセルロースを溶解できることが明らかにされた。また、セルロースフィルムの作成、酢酸セルロースやカルボキシメチルセルロースの合成において、環境に優しい溶媒として利用可能なことが報告されてきた。本研究では、低コストなイオン液体(1-H-3-メチルイミダゾリウムクロリド)を用いて、木質バイオマス(Albizia falcataria)の溶解挙動を検討した。
[実験方法]
試料のファルカタ木材は南海プライウッド(株)から提供していただいた。これをウィレーミルで粉砕し、40~80 meshにふるい分けしたものを使用した。イオン液体である1-H-3-メチルイミダゾリウムクロリド([HMIM]Cl)は合成した。1-イミダゾールと塩酸を混合し、氷冷下で24時間撹拌した。反応液はエーテルで洗浄後、減圧濃縮し、NMRで構造を確認した。0.5gの木粉に15 gの[HMIM]Clを加え、90~120 ℃で1~24時間撹拌し、木粉を溶解させた。溶解液はろ過後、150 mlの1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノンと水で洗浄し、木粉残渣を105℃で乾燥させて溶解率を算出した。木粉残渣はクラソーン法によりリグニン量を求め、FT-IR測定を行った。[HMIM]Clの再利用には、木粉またはセルロースを溶解させた[HMIM]Clにエタノールを加えることにより溶解物を析出させ、ろ過、濃縮により[HMIM]Clを回収して使用した。
[結果と考察]
[HMIM]Clにより90℃で処理した木粉は、1時間で残渣量が大きく減少したが、その後反応時間を延ばしても、残渣量の変化は少なかった。90℃、1時間の条件で処理した木粉残渣のFT-IRスペクトルには、ヘミセルロースのピークは確認できなかったが、セルロースのピークは認められ、比較的穏やかな処理条件で、ヘミセルロースは[HMIM]Cl中に溶解したと考えられる。120℃で処理した木粉では、反応時間が進むにつれて溶解率は増加し、残渣中におけるクラーソンリグニンの割合が増加していた。120℃、24時間の条件で[HMIM]Cl処理した木粉残渣のFT-IRスペクトルでは、セルロースの結晶部分に関するCH2変角振動の1429cm-1、ヘミセルロースのアセチル基(C=O)に由来する1740 cm-1のピークは認められず、リグニンベンゼン環のC=C結合由来の1600、1460 cm-1のピークが認められた。120℃、24時間のような高温・長時間の処理により木粉中のセルロースとヘミセルロースがともに[HMIM]Cl中に溶出し、残渣中にリグニンが濃縮されることが示唆された。
セルロース溶解後に回収した[HMIM]Clを用いて木粉の溶解を行うと、回収前の[HMIM]Clとほぼ同等の溶解率となった。一方、木粉溶解後に回収した[HMIM]Clを使用して木粉の溶解を行った場合、溶解率は低くなった。これは、エタノールを用いて溶出物の析出を行った場合、低分子のリグニン分解物が完全に析出しないためだと考えられる。
[引用文献]
1) Yamashita, M., Ishikawa, Y., Nagatomo, M., Oshima, T., Wada, H., Space Agriculture Task Force. Space agriculture for manned space exploration on mars. J Space Tech Sci, 21(2), 1-10, 2005
2) Miyafuji, H. Application of ionic liquids for effective use of woody biomass. J Wood Sci, 61, 343-350 (2015)