JpGU-AGU Joint Meeting 2017

講演情報

[JJ] 口頭発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-CG 地球人間圏科学複合領域・一般

[H-CG35] [JJ] 社会とともに地球環境問題の解決に取り組む超学際研究の未来

2017年5月22日(月) 15:30 〜 17:00 A07 (東京ベイ幕張ホール)

コンビーナ:近藤 康久(総合地球環境学研究所)、近藤 昭彦(千葉大学環境リモートセンシング研究センター)、木本 浩一(関西学院大学・共通教育センター)、手代木 功基(総合地球環境学研究所)、座長:近藤 康久(総合地球環境学研究所)

16:15 〜 16:30

[HCG35-04] 流域スケールの環境問題解決を目指す超学際研究の実践
-滋賀県の農業集落における「地域の環境ものさし」づくりの展開過程

*淺野 悟史1脇田 健一2奥田 昇1 (1.総合地球環境学研究所、2.龍谷大学)

キーワード:水田農業、超学際科学

流域スケールで環境問題を考えるとき,大きく上流・中流・下流という3つの「地域」が,さらに支流や細流に注目すると多くの「地域」が,環境問題の現場として挙げられる。マクロスケールの流域の環境問題解決には,上流・中流・下流というメソスケールの「地域」や,メソ地域内に多数存在するミクロスケールの「地域」レベルでの活動が不可欠となる。しかし,ミクロスケールの地域の環境は多様であり,そこに暮らす生活者の生業や行動も大きな地域差を伴う。環境保全活動もまたこうした地域特異性をもっている。

そこで,本研究では,地域の生活や生業の関連が深く,地域の保全活動の成果を住民自らが実感することができる指標を「地域の環境ものさし」と定義し,住民との対話の中から候補を探っていった。候補として挙げられたのはメダカ,ドジョウ,カエルといった水田となじみの深い生きものたちであったが,メダカやドジョウは既に生息地が限定され,また移動能力も限られるため,地域全体の環境保全活動の評価を行うことは難しいことがわかった。カエル類は排水路や農道で寸断された環境であっても,環境さえ整えば自ら移動してくる(していく)ことが可能である。

昭和33年2月に対象地区で撮影された水田は冬でも水が張られ,湿田環境が保たれている。こうした写真をもとに聞き取りを行い,「冬季の湿環境の維持」に狙いを定めた。ちょうど,この地区では2016年2月から冬季湛水を環境保全活動のメニューにとりいれることが分かったので,既に行われている水田内水路づくりと合わせ,地域の保全活動と位置づけることにした。冬季湛水が始まった2月1日,冬季湛水取り組み水田を調査中,ニホンアカガエルの卵塊が見つかった。同行していた農家さんはこれを懐かしんでおられた。冬季の湿田がもどったことで,再び農家とアカガエルの接点がうまれた瞬間であった。

2月1日から3月24日までのべ45人・日,アカガエルの卵塊調査を行った結果,1,788個の卵塊が見つかった。ニホンアカガエルは通常,1頭のメス個体が1個の卵塊をつくる。卵塊を数えることはその水田に産卵に訪れたアカガエル成体の数を推定することができる。それは専門家でなくても使うことができる「環境ものさし」となる。卵塊の分布調査結果は地図上にプロットし,調査参加農家さんらと共有した。地図に落とすことで卵塊の多いところと少ないところ,ひいては保全活動の実施場所との関連を見てもらうのが狙いだった。

6月になると,有志の農家さんでホタル調査を開始,飛び交うホタルの概数を数え,アカガエルの卵塊同様に地図上にプロットしておられた。これは研究者の力を借りずに進められた。環境ものさしに求められる機能として,「数を数えることができる」,「地図上で成果を確かめることができる」といったものが有効であったことがわかる。

2017年2月の冬季湛水は大きな期待をもって迎えられることになった。2016年度の15筆を大きく上回る56筆が冬季湛水の取り組みに参加した。卵塊調査参加者はもちろんのこと,クチコミで広がった結果,参加していなかった農家さんらも興味をもって参加していることを示していた。これら一連の研究結果をもとに,「環境問題の解決」に地域の活動の成果の確認がどのような役割を果たすのかを報告したい。