JpGU-AGU Joint Meeting 2017

講演情報

[JJ] 口頭発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-CG 地球人間圏科学複合領域・一般

[H-CG35] [JJ] 社会とともに地球環境問題の解決に取り組む超学際研究の未来

2017年5月22日(月) 15:30 〜 17:00 A07 (東京ベイ幕張ホール)

コンビーナ:近藤 康久(総合地球環境学研究所)、近藤 昭彦(千葉大学環境リモートセンシング研究センター)、木本 浩一(関西学院大学・共通教育センター)、手代木 功基(総合地球環境学研究所)、座長:近藤 康久(総合地球環境学研究所)

16:45 〜 17:00

[HCG35-06] 参加型バックキャスティングと「持続可能な社会システムへの転換」研究の複合――「未来の理想の食卓」ワークショップを事例として

*太田 和彦1秋津 元輝2谷口 吉光3中村 麻理4マックグリービー スティーブン1熊谷 啓2 (1.総合地球環境学研究所、2.京都大学、3.秋田県立大学、4.名古屋文理大学)

キーワード:超学際、参加型バックキャスティング、持続可能な社会システムへの転換、持続可能な食料消費と生産

1990 年代初期から、欧米圏の地方自治体は持続可能な発展への政策面での関与を深めている。しかし一方で、地方自治体がより短期的目標を設定し、目的を十分に果たしていないことが、GHG 排出削減の文脈などで指摘されている (Bulkeley and Broto, 2012)。また、地方自治体のなかに変化をおこす意思や計画がある場合でも、部署間の政策や事業の分断(例:セクショナリズム)、政治的サイクル(例:選挙)による不連続なコミットメントなどの要因が取組みを困難にしているという指摘がある(Maas et al., 2012)。これらの問題に対し、着目されるのが参加型のガバナンス、つまり、トップダウン型のモデルから、社会の多様なステークホルダーの意見交換と合意形成を通じたボトムアップ型のモデルへの移行である(Aylett, 2011)。そのなかで、超学際(Transdisciplinary:TD)は、社会と協力して持続可能性の課題に対処するための効果的なアプローチとして提案されてきた(Lang 2012, Scholz and Steiner, 2015)。
 しかし、研究者と政府・自治体・企業・NPO・住民などの諸々のステークホルダーが協働企画を行うための方法は多岐にわたり、多様なフレームワークが提案されている。これは各TDプロジェクトのバックグラウンドの相違によるところが大きい。そのため、一般的に共通する成功要因、阻害要因を諸事例から導き出すことは困難であるが、日本に限定した場合、成功要因として、ステークホルダーの特定と、プロジェクト終了後の継続問題や財政問題についての共通理解が指摘されている (森 2014b)。これにより、別のプロジェクトとしての発展なども見込まれる。
 本報告は、研究者とステークホルダーとの問題意識と成果の共有・展開を図るための方法として、参加型バックキャスティングの有効性に注目する。同時に、参加型バックキャスティングと、科学技術社会学における「持続可能な社会システムへの転換」に関する研究との併行の必要性を明らかにする。また、参加型バックキャスティングの具体例として、現在取り組み中の、秋田県能代市での「30年後の地域の理想の食卓」をテーマとした食農システムの転換に向けたワークショップの実践事例を紹介する。
 参加型バックキャスティングは、持続可能性の長期的な目標を達成するために幅広いステークホルダーの参加が必要とされるようになった背景から、1990年代初めよりオランダ政府のプログラムで用いられてきた(Vergragt et al.1993, Quist et al.2001)。実施の目的は、(1)望ましい将来目標の妥当性と実行可能性を分析し、(2)そのための実践ならびに政策決定を促すことである。この将来像の作成とその評価の2段階のそれぞれに研究者とステークホルダーが参加する(Carlsson-Kanayama et al.2008)。参加型バックキャスティングでは、問題意識や単なる予測像の共有だけでなく、研究者とステークホルダーのそれぞれが受け入れできるイメージを確認することが求められる(Veargragt, 1993)。また、将来像の実現にあたりマネジメント可能/不能な側面を相互に確認することも重要である。これに関しては、異分野の研究者間においても相互確認の必要性が指摘されている(森 2014a)。
 参加型バックキャスティングを通じて促される施策は、現時点で(あるいは仕組み作りによって)マネジメント可能な側面を中心に扱うこととなる。しかし、マネジメント不能とされた側面に関しても、今後の変化のあり方や関連要因についての知識の共有は、プログラム終了後の継続や財政について共通認識を進める上で重要となる。そのため、科学技術社会学の研究蓄積(Geels & Schot 2007, Wiek et al. 2011)の確認は、参加型バックキャスティングの実践と併行することでTDに多くの寄与をもたらすことが期待される。
 以上の見解に基づく具体例として、2016年に秋田県能代市で行われた「30年後の地域の理想の食卓」をテーマとした食農システムの転換に向けた3回のワークショップの実践事例を紹介する。ワークショップでは、「30年後、能代で囲む理想の食卓はどのようなものか」、「それを実現するために、今、何をしなければならないか」をテーマとして、11人の参加者にそれぞれ「理想の食卓」をスケッチしてもらい、その実現に向けた意見交換を行った。また、「転換」に関する科学技術社会論的な研究蓄積に関しては、後日のセミナーにおいてふれた他、今後、地方紙における連続寄稿によって補うことが計画されている。参加型バックキャスティングを先行させたことは、食をテーマとし、リラックスした気分で地域の持続可能性を考える条件を整えるためである。
 地方自治体を単位とした参加型バックキャスティングは、近年NPO / NGOグループの形成を経験したが、EUのような国家政策に影響を与える強力な市民社会がまだ存在していない日本の文脈において特に重要であると考えられる。