JpGU-AGU Joint Meeting 2017

講演情報

[JJ] ポスター発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-CG 地球人間圏科学複合領域・一般

[H-CG35] [JJ] 社会とともに地球環境問題の解決に取り組む超学際研究の未来

2017年5月22日(月) 13:45 〜 15:15 ポスター会場 (国際展示場 7ホール)

コンビーナ:近藤 康久(総合地球環境学研究所)、近藤 昭彦(千葉大学環境リモートセンシング研究センター)、木本 浩一(関西学院大学・共通教育センター)、手代木 功基(総合地球環境学研究所)

[HCG35-P04] 福岡県みやま市清水山における自然林の植生構造と森林資源利用の実態把握と共生方法の考察

*山田 大稀1清水 龍太1林 紀代美2青木 賢人2 (1.金沢大学 地域創造学類・学、2.金沢大学 人間科学系)

キーワード:自然林、森林資源利用、社寺林、植生構造、人為的影響

近年,自然環境の利活用の機会が減少したことで,そのニーズや関心が高まりつつある.例えばその自然環境の利活用が行われている地域に,東京都八王子市の高尾山があるが,高尾山は観光地として整備された自然林であり,そのような場での利用と管理の間には多くの課題が存在する.
 その課題とは,管理者側と利用者側の双方が,森林資源の価値を正しく理解していないために,管理・利用の制度設計が困難であることが挙げられる.また,社寺林のような自然林の中で森林資源利用がなされている場合では,社寺林を歴史や文化を感じる場や環境教育,住民交流の場として位置付けられているが,利用者が生態学的な自然林の価値を理解しているかどうか疑問がある.
 一方,現在日本では,その多くが自然林である照葉樹林は,人々の利用により破壊され,神社や仏閣などにわずかに残っているのみである.そのため現在日本では,自然林を保全するためには神社や仏閣などにわずかに残る社寺林の実態とその利用方法を検討する必要があるといえるだろう.また,九州地方の照葉樹林は,日本の九州以東の地域における照葉樹林の代表群落・群集で構成されていることから,日本の照葉樹林の縮図であるといわれている.ゆえに,日本における今後の自然林の保全を考えるうえでは,九州地方の照葉樹林である社寺林を対象とすることに意義がある.
そこで本研究は,福岡県みやま市の清水山に存する,清水寺の社寺林を事例として,森林利用の場と自然林の分布が重なる地域における,自然林の保全策と適した森林利用方法について考察した.
 当調査地は,福岡県みやま市の北東部に位置する標高約350mの低山であり,麓に庭園,山の中腹には天台宗の清水寺がある.寺や展望台,山頂へ,麓の駐車場から複数の山道・車道が整備されており,徒歩はもちろん,自動車でも麓から頂上付近まで移動できる.また,孤立した自然林であるヤブツバキクラス域(Camellietea japonicae-Gebiet)のミミズバイ-スダジイ群集(Symploco glaucae-Castanopsietum sieboldii)が社寺林として清水寺周辺に広がる.また,境内の建造物の周辺にはサクラやモミジの植栽もある.
 本研究の調査方法は,自然林の植生構造の実態を把握するものと,調査地の人々の森林資源利用の実態を把握するものの二つに分けられる,
 自然林の植生構造の実態把握の方法は,ライントランセクト法により行った.清水寺の参道を挟む斜面において,参道と直交するようにラインをとり,そのライン上の植生構造と環境特性を記録した.また,当ラインは,登山客などが利用する山道とも交わっている.そして得られたデータより,植生構造を把握し,当調査地において,人為的な影響の有無を検証した.検証方法は,ミミズバイ-スダジイ群集が人為的影響を受けたときに種組成が貧化して置き換わる二次林の構造と比較検討する方法である.また,山道や植栽部に隣接した部分における特徴的な植生構造の有無にも注目した.
 調査地の人々の森林資源利用の実態を把握する方法としては,主に3つの方法をとった.1つ目は調査地における,訪問客に対する訪問目的などの聞き取り調査である.2つ目は,清水寺の若住職に対する聞き取り調査である.ここでは森林資源利用の管理側の実態を調査した.3つ目は,福岡県勤労者山岳連盟に所属する団体に対するアンケート調査である.調査項目は清水山の訪問経験の有無や,訪問時の目的などである.また,好む森林のイメージを問う設問を設け,登山客が好む林相の傾向を調査した.
 調査の結果,自然林の構造は,全体的な植生構造は,種組成が貧化した二次林の構造はほぼ見られず,ミミズバイ-スダジイ群集に自然林の構造であるといえるであろう.しかし,より細部の植生構造においては,山道や植栽部に隣接した部分で人為的影響を受けたと思われる構造が存在した.
 森林資源利用では,様々な利用方法があり,その目的として清水山には自然的価値と文化的価値,登山的価値の3つの価値があるとした.訪問客の実態としては,登山的価値や文化的価値を求める者が多い傾向にあり,自然的価値は間接的に理解される程度であった.管理側としては自然林であることに誇りを持ち,その自然林が荒れることや,荒れることでの周囲の環境への影響を懸念した.
 以上より,自然林の適した森林資源利用の方法を考察すると,森林資源利用の目的に,自然林の特性による自然的価値を付与することが必要だと考える.自然的価値を付与した目的をもって森林資源を利用することが,自然林への理解を生み,適切な利用を促すと考えるからである.
 しかし,人の利用がある以上は何らかの人為的影響は存するだろう.故にその影響を防ぐ具体的な方法や,影響を受けた後の適切な管理,対処方法をさらに検討する必要がある.