JpGU-AGU Joint Meeting 2017

講演情報

[JJ] ポスター発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-CG 地球人間圏科学複合領域・一般

[H-CG36] [JJ] 海岸低湿地における地形・生物・人為プロセス

2017年5月20日(土) 15:30 〜 17:00 ポスター会場 (国際展示場 7ホール)

コンビーナ:藤本 潔(南山大学)

[HCG36-P01] 地球の分布北限地域におけるマングローブ林発達に関する新しい知見

*宮城 豊彦1内山 庄一郎2 (1.東北学院大学、2.国立研究開発法人防砂科学技術研究所)

キーワード:マングローブ生態系、沖縄 西表島 、地生態学、年輪解析、UAV/SfM、帯状配列

沖縄県八重山郡にある西表島の仲間川河口部デルタに広がるマングローブ林は、地球の北限域に広がる大規模なマングローブ林として知られる。今から約40年前に実施したこのマングローブ生態系に関する初期の研究(菊池他、2017,18)で、デルタの微地形と潮位に対応したマングローブ種群の植生配列が明らかにされた。しかし、この植生配列がどのように発達したのかについては、十分な分析・解明がなされたとは言い難い。マングローブ林とその立地の研究、とりわけマングローブ林の大きな特徴とも言える潮位に対応して優先する種が置き換わるいわゆる帯状配列は明瞭な事実と考えているが、「その帯状配列がどのように発達するのか?」、いわばメカニズム的な解析については、潮間帯土地柄がの森林生態系という土地と植生の特殊性故か、なかなか明快な説明ができていないように思う。ただ、西表島のマングローブ生態系は、北限に位置しながらも諸外国とは若干社会的な背景が異なる。この地域における半世紀以上に及ぶ充実した画像情報、近年劇的に進歩する新しい画像情報取得と解析手法を適用できること、40年に及ぶ調査経験、丁寧な土地・土壌・森林・樹木に関する計測によって、仲間川での事例では今後大きく進展する可能性がある。1940年にはマングローブ伐採許可が下り、大富・大原を始め西表には沢山のカッチ工場があった。西表島のマングローブ林は第2次世界大戦を通して大きく破壊されたもので、極論すれば復活した森である。
発表者らは、予察的な成果として、昨年の本学会等で仲間川下流域デルタ部のマングローブ林が過去約40年間(1978年撮影空中写真と2015年6月UAV撮影画像)でどのように成長したのかを明らかにした(公表論文としてはUchiyama & Miyagi, 2016がある)。マングローブ林の帯状の配置は、優占種群の置き換わりだけでなく、同一種における樹高も樹形も帯状に変化しており、その理由に成長量の多寡が影響していること、特にヤエヤマヒルギの主体部分は樹形が著しく変形し矮性低木林(Dwarf shrub,臥龍梅型;菊池他での議論、1976)を形成するが、これには樹形の矮性化と同時に樹高の低下があった。
今回の報告も調査研究の初期段階にある。2015年12月にUAVによるデータ取得を取得し、同年6月に取得したデータとの比較を行うことで半年間における樹冠部の変化を明らかにした。この年の10月には最大瞬間風速が60mを超え、この間の変化には台風によるもの、端的には破壊による変化が含まれている。行政機関各方面の許可と協力を得て、域内の倒木を玉切することを始めた。年輪データを取得することで成長や樹形変形の過程を定量的に把握できる可能性を持つ。年輪データを整備中であるが、例えば極めて成長の遅い樹木の樹齢は70年前後のものが多そうである。ヤエヤマヒルギの矮性低木林では100年を超える樹齢のものがある。今年早々に玉切りした樹木のデータ整備を行い、樹齢データと38年間の成長・低木化データとの突合せを行うことが必要である。さらに、成長の多寡を何がつかさどるのかについての分析が必要だろう。巨大台風の度に樹高を減らすと思われる矮性低木林では樹木は臥龍し、葉数が少なく、色も薄い。この特性は数十年に亘って形成され続けている。世界で最も充実した現場情報を持ち、規模も組成も充実した西表島仲間川デルタのマングローブ生態系はマングローブ生態系の一大特性ともいえる帯状構造の形成がどの様に進むのかを解明できると考えられる。