JpGU-AGU Joint Meeting 2017

講演情報

[JJ] 口頭発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-CG 地球人間圏科学複合領域・一般

[H-CG37] [JJ] 熊本地震から学ぶ活断層と地震防災

2017年5月20日(土) 15:30 〜 17:00 A09 (東京ベイ幕張ホール)

コンビーナ:鈴木 康弘(名古屋大学)、藤原 広行(防災科学技術研究所)、久田 嘉章(工学院大学建築学部)、釜井 俊孝(京都大学防災研究所)、座長:鈴木 康弘(名古屋大学)、座長:藤原 広行(防災科学技術研究所)

15:35 〜 15:50

[HCG37-01] 熊本地震が提起した活断層評価および地震防災の課題

*鈴木 康弘1 (1.名古屋大学)

キーワード:熊本地震、活断層評価、地震防災

1995年阪神・淡路大震災以降、活断層地震は地震防災上の重要なターゲットとされた。大地震を起こす可能性のある主要活断層が選定され、それらについて地震発生長期評価が進めてきた。熊本地震を起こした布田川-日奈久断層は主要断層の一つであるため、熊本地震およびその災害は詳細に検証される必要がある。地震発生を十分予測できていたか、これまで地震本部が提供した情報は被害軽減に役立ったか、今後の活断層地震防災のために地震本部および研究機関はこの地震から学び、何をすべきか。
 熊本地震の被災者の多くが布田川-日奈久断層の存在を知っていた。地震発生可能性が「やや高い」レベルにあることも伝えられていた。このことは22年間の大きな成果である。しかしながら、地震対策が実際に進められていたかどうかについては大きな疑問がある。従来の情報が地震防災対策の実施に対してどの程度効果的であったかどうかは批判的に検証される必要がある。熊本地震の際の断層の挙動は、活断層評価において想定された断層区分と一致していない。またトレンチ調査結果からは、むしろ地震発生確率が低いと推定される区間が地震を起こしている可能性がある。そのため従来の活断層評価の妥当性を検証する必要がある。
 活断層に沿って「震災の帯(被害集中域)」ができたことも熊本地震の顕著な特徴の一つである。現行の規定では、気象庁は地震計設置地点以外では震度7を認定することができないため、公式には益城町と西原村にのみ震度7が認定されているが、実際には南阿蘇をはじめとする地震断層沿いではいずれも震度7相当であった可能性が高い。建築基準法は改定しないという方針が国交省から出されているが、震度7に対して現行の基準が十分でない可能性は極めて高い。そのため将来の地震防災にとって、震度7になり得る地域を特定し、耐震化に関する指導を行う必要性がある。また、従来の強震動計算においては、深さ3km以浅は強震動を生成しないとされてきたが、今回の観測結果はこの前提に疑問を呈している。強震動生成および被害発生との関係について解明されるべき課題は多い。
 さらに、熊本地震においては様々な地変が現れた。その中には、①震源断層の地表出現と判断される狭義の地震断層のほか、②震源断層とは連続せず付随的に変位した断層、③震源断層とは無関係の重力性の地すべりなどがある。現状においてそれらが明確に区別できているだろうか? 地変のメカニズムを明確にすることは重要であり、今後の地震防災において①のみの予測にとどまらず、地表変位のハザード評価を充実される必要がある。
 1995年阪神淡路大震災においても解明できなかった課題は多かった。その原因のひとつは分野間連携の調査体制が整わなかったことにあるため。熊本地震後の調査においてはその反省を十分踏まえ、新たな研究推進体制を地震本部が主導して構築することが急務である。