JpGU-AGU Joint Meeting 2017

講演情報

[JJ] 口頭発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-CG 地球人間圏科学複合領域・一般

[H-CG37] [JJ] 熊本地震から学ぶ活断層と地震防災

2017年5月20日(土) 15:30 〜 17:00 A09 (東京ベイ幕張ホール)

コンビーナ:鈴木 康弘(名古屋大学)、藤原 広行(防災科学技術研究所)、久田 嘉章(工学院大学建築学部)、釜井 俊孝(京都大学防災研究所)、座長:鈴木 康弘(名古屋大学)、座長:藤原 広行(防災科学技術研究所)

16:05 〜 16:20

[HCG37-03] 2016年熊本地震における地表地震断層の直上の建物被害と対策

*久田 嘉章1 (1.工学院大学建築学部)

キーワード:2016年熊本地震、地表地震断層、建物被害と対策

前報(文献1))に続き、地表地震断層近傍の建物被害調査を報告し、活断層に有効な対策を考察したい。調査は外観目視により、築年・用途・構造・階数・基礎形式・屋根形式・地盤変状の有無、破壊パターン(D0~D6:岡田・高井(1999)に準拠)等を対象に、計240棟(倉庫を除くと193棟)で行った。
調査例として図1と表1に御船町高木地区の建物の被害分布と統計結果、写真1に建物の被害例を示す。この地区の調査建物数は39棟で、9割は低層木造住宅(2階以下)であった。築年と全壊率(D4以上)の関係では、新しい建物で0%、古い建物で17%、非常に古い建物で29%であった。図1には都市圏活断層図(国土地理院)による活断層と、出現した地表地震断層の位置を示すが、両者は比較的近いが、建物スケールでは一致しない。一方、表1には地表地震断層の直上とそれ以外の被害統計を示すが、前者の全壊率は43%に対して、後者では13%であり、断層直上で被害が集中している。写真1は断層直上の典型的な被害例である。(a)は古い在来木造住宅で、基礎の無筋コンクリートブロックが断層すべりで破壊され、建物が大きく変形・大破している。次に(b)は断層直上の新しい住宅(恐らく軽量鉄骨造)であり、敷地の盛土で断層すべりが緩和されていた。さらにRC造のべた基礎が非常に有効であり、基礎に若干の亀裂があったが、断層すべり変位の影響を遮断し、建物は無被害であった。最後に(c)は非常に古い伝統木造建築であり、独立(束)基礎であるため、断層すべりが建物を変形・大破させているが、建物は変形に柔軟に追随し、倒壊は免れていた。
他の調査地域でも同様な結果で、50cm程度までの断層変位であれば、新しい建物のRC補強のべた基礎などの効果でほぼ無被害であり、古い木造建物でも変形に追随できる場合、倒壊は免れていた。一方、強震動については、地盤の良否などでその強さと被害には大きな地域差がみられた。例えば、益城町下陣地区(調査建物数61)では、強震動により大破した建物は皆無であり、震度は5強程度と推定された。大破は地表地震断層直上の1棟のみで、50cm程度の縦ずれ変位に起因していた。一方、南阿蘇の黒川・河陽地区(調査建物数54)では、断層直上とそれ以外の全壊率は64%(倒壊率は18%)と53%(倒壊率は42%)であった。その殆どは耐震性に劣る古い木造建物に集中したが、震度7に相当する非常に強い揺れが生じたと推定された。
最後に、活断層に対する建物対策を考察する(詳細は文献2),3)などを参照)。災害時に機能継続を要する重要建物は活断層帯を避けることが望ましいが、一般の建築では以下のような対策を行うことで倒壊するような大被害の可能性を大きく低減できる。
・盛土などによる断層すべり変位を分散する対策
・新築の小規模建築では、地域係数を1、耐震等級を2以上とし、RCべた基礎、高い剛性の躯体、軽い屋根等による強震動と地盤変状への対策
・新築の大規模建築では、地盤調査で断層位置とすべり量を特定し、断層を避ける、エクスパンションジョイントなどでの構造的な分離などの地盤変状への対策
・既存建物では、耐震診断・補強による倒壊防止対策
・免震建物では、震源近傍強震動を考慮したレベル3地震動による余裕度検証や、断層すべりや地盤傾斜への対応策(フェールセーフなどの機能の追加など)の実施
上記の被害低減対策に加え、負傷者を出さない・避難しない対策、災害時対応力を併せたレジリエントな対策が有効である。
・室内や設備機器等の安全対策
・自助と共助による災害発生時の対応力向上策(研修・訓練・改善など)

謝辞:本調査には村上正浩・金田惇平・寺本彩乃・柳田悠太郎・進藤俊弥 氏(工学院大)、鱒沢曜 氏(鱒沢工学研究所)、境茂樹・森清隆・仲野健一・東條有希子 氏(安藤ハザマ)、木本幸一郎 氏(SAI構造設計)、小林亘 氏(東京電機大)、鈴木光 氏(減災アトリエ)が参加し、田中信也氏(東電設計)に情報提供を頂きました。また文部科学省科研費(JP16K06586)の助成を受けています。

参考文献:1)久田 ほか、2016年熊本地震の地表地震断層の近傍における建物被害調査(その1)、(その2)、日本地震学会秋季大会、2016.
2) 久田、活断層と建築の減災対策、活断層研究、28号、pp.77-87, 2008.
3) Bray, J.D, Designing Buildings to Accommodate Earthquake Surface Fault Rupture, ATC & SEI 2009 Conference on Improving the Seismic Performance of Existing Buildings and Other Structures, 2009.