JpGU-AGU Joint Meeting 2017

講演情報

[JJ] 口頭発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-CG 地球人間圏科学複合領域・一般

[H-CG37] [JJ] 熊本地震から学ぶ活断層と地震防災

2017年5月20日(土) 15:30 〜 17:00 A09 (東京ベイ幕張ホール)

コンビーナ:鈴木 康弘(名古屋大学)、藤原 広行(防災科学技術研究所)、久田 嘉章(工学院大学建築学部)、釜井 俊孝(京都大学防災研究所)、座長:鈴木 康弘(名古屋大学)、座長:藤原 広行(防災科学技術研究所)

16:20 〜 16:35

[HCG37-04] 不確かさを考慮した地震動予測・地震ハザード評価の課題

*藤原 広行1森川 信之1岩城 麻子1前田 宜浩1 (1.防災科学技術研究所)

キーワード:強震動予測、地震ハザード評価、不確定性、ばらつき

平成28年熊本地震は、地震本部による長期評価がなされ、震源断層を特定した地震動予測地図が公表されていた布田川断層帯・日奈久断層帯の一部が活動した地震であった。熊本地震の解析より得られた知見を踏まえ、地震動予測・地震ハザード評価における課題、特に、将来の事象の予測における不確かさの取り扱いに関して考察する。予測における不確かさを、偶然的ばらつきと認識論的不確定性に分類して考える。偶然的ばらつきは確率変数として評価され、認識論的不確定性はロジックツリーなど用いて評価される。

(1)地震規模(地震モーメント)設定における不確かさの考慮
① 震源断層形状のモデル設定の考え方に関する認識論的不確定性の考慮
震源断層の大きさの設定に関して、認識論的不確定性を考慮し、現行のレシピに従った基本モデルに加え、下記のようなモデルを考慮することが必要である。
・震源断層長さが地表断層長さより長いとするモデル
・断層下端深さを地震発生層下限よりもやや深くするモデル
・震源断層の上端を0km(地表)とするモデル
・傾斜角の設定における不確かさを考慮したモデル

② 震源断層の巨視的パラメータ設定に関する不確かさの考慮
経験的関係式を用いて震源断層モデルのパラメータ設定を行う場合、式の選択に伴う認識論的不確定性や、経験式を用いた予測に含まれる偶然的ばらつきを適切に考慮することが重要である。例えば、下記のような不確かさを考慮することが必要である。
・L-Mo関係、Mj-Mw関係における経験式選択に関する認識論的不確定性
・Mo-S関係、Mo-A関係における偶然的ばらつき

(2)地表を含む震源断層の位置・形状のモデル化に関する不確かさの考慮
これまでの強震動評価では主として短周期の強震動生成のモデル化に重点を置いており、震源断層は地震発生層内とし、その上端を0km(地表)としていなかった。断層のごく近傍での強震動予測を行うためには、地表地震断層の評価に基づく、上端深さを0kmとした震源断層の位置・形状の詳細なモデル化が必要となる。それに伴い、詳細な位置・形状のモデル化に関する不確かさを考慮することが必要である。

(3)震源断層モデルの微視的パラメータにおける不確かさの考慮
断層モデルを用いたシミュレーションによる地震動予測では、「平均的な地震動レベル」と「モデルの不確定性に起因する地震動のばらつき」の両方を評価する必要がある。そのためには、震源断層モデルの微視的パラメータにおける不確かさの考慮が必要である。特に、破壊開始点位置、アスペリティ位置、アスペリティの実効応力の不均質さ、地震発生層より浅部でのすべり速度時間関数の設定などに関する不確かさの考慮が重要である。その際、ばらつきを考慮した場合においても、安定してパラメータ設定が可能となるようレシピを改良する必要がある。仮定した断層パラメータのばらつきの物理的根拠や、得られた地震動のばらつきの観測記録等による裏付けも今後の課題である。
シミュレーションを用いて将来の予測を行う場合、過去地震の再現モデルと予測のためのモデル群との関係を明確にする必要がある。再現モデルが予測モデル群にそのまま含まれている必要は必ずしもないが、過去地震の再現モデルから得られる知見を予測のためのモデルの構築にどのように活かすのかが重要なポイントである。

(4)地下構造モデルにおける不確かさの考慮
震源のモデル化に比べると地下構造モデルの不確かさはほとんど考慮されていない。陸域は浅部・深部統合地盤モデルのように稠密な観測データに基づいたモデルが作成されつつあるが、海域については大きな不確かさがある。1Hz程度以上の高周波数域を計算対象として含む場合には、ランダム不均質などによる偶然的ばらつきを考慮する必要がある。浅部地盤による増幅率の評価においても、データの不足による認識論的不確定性の考慮が今後の課題である。

(5)固有規模よりもひとまわり小さい地震の考慮
4月14日21時26分頃の地震はM6.5であり、固有規模よりもひとまわり小さい地震と考えられるが、最大震度7が観測されている。現状の確率論的な地震動ハザード評価(全国地震動予測地図)では、こうした地震は、震源断層をあらかじめ特定しにくい地震としてモデル化されており、ハザードの過小評価の懸念がある。固有規模よりもひとまわり小さい地震の地震規模と発生頻度のモデル化も重要な課題である。