16:35 〜 16:55
[HCG37-05] 熊本地震から震災対策を再考する
★招待講演
1.熊本地震の震災としての特徴
(1)震度7の複合災害
熊本地震は二度の震度7の地震が28時間の間隔で発生し、二回目の震度7をもたらした地震がM7.3で最大であるということから「本震」となり、最初の震度7を「前震」とした。しかし震災対策の視点からは、二つの震度7の地震の「複合災害」みなすべきである。最初の震度7の地震にどこまで耐えるか、が震災対策の基本であり、震災対策に「前震対策を位置づけるものではない。
(2)地震と風水害の複合災害
4月中旬に発生した熊本地震は、1か月後からの梅雨前線豪雨から台風シーズンを迎え、復旧が間に合わない事態は予見できた。地震で被災した宅地や斜面の崩壊による複合災害は、地震災害後の緊急対策を、風水害の発生を想定したタイムラインの発想で対策できる。
2.熊本地震が提示した震災対策の課題
以下は、次の広域巨大地震災害を想定した熊本地震からの課題である。
(1)事前予防対策の課題
①耐震基準における「地域係数」の課題
地震対策の基本は、事前の耐震対策で被害を軽減することである。災害時の重要拠点施設となる建物はRC構造・S構造であるが、未だ全国には「地域係数」によって耐震設計の基礎である横力の軽減措置がなされている。宮城県沖地震(1978)の後に東北地方の太平洋の件は1.0に改正されたが、東北日本と南西日本は地域係数0.9、0.8、沖縄は0.7である。建築基準法制定以降の主な地震災害の多くが、地域係数が0.9、0.8の地域で発生している。地域係数の改定(1.0に強化)は不可避である。熊本地震の復興では、地域係数1.0で実施されるべきである。
②複合災害に対応する耐震基準の課題
建築基準法において、二度の震度7でも人命を損ねない程度の被災にとどめる耐震基準を設定し、最低限の基準ではなく「望ましい基準」として国民の選択に任すべきである。
③活断層法による住宅の耐震性能の誘導
4,200回を超える余震回数となるような断層帯での熊本地震は、断層帯地震の特性である。断層帯ゾーンの土地利用を長期的にどう誘導するか、長期的戦略として検討すべきである。
(2)発災直後・緊急対応期の課題
①緊急地震速報の限界と課題
直下地震には緊急地震速報が間に合わないことを周知し、震災対策を普及すべきである。
②余震対策と応急危険度判定調査の課題
応急危険度判定調査は、余震による危険を回避するためであるが間に合わない。自己診断で被災者が緊急危険度を測定し、判断できるようにしていくべきである。応急危険度判定士の業務は、罹災証明のための住家被災度調査として展開すべきである。
③断層帯等余震多発型地震と避難人口増の課題
熊本地震と新潟県中越地震は、内陸の余震の多い地震である。そのために、全村建物1000棟当たりの避難者数は、阪神・淡路大震災の3000人の10倍の30,000人に達している。避難場所は全く足らない状況になり、直接死の約3倍の関連死が発生している。
④避難所の限界と多様化の課題
その結果、避難所は劣悪な居住状況となり、中越でも熊本でも車中泊が多発した。民間施設をはじめ、断層帯近傍地域では、民間施設を含め避難所の多様化を図る必要がある。
➄災害救助法と震災関連死の課題
避難所・仮設住宅は災害救助法の対象であり、関連死防止対策を充実すべきである。
⑥緊急物資供給の課題
災害救助法による緊急物資の供給は限定的にすべきで、クーポン券の発行による被災地の流通機能の回復を急ぎ、地域復興の第一歩としていくべきである。
(3)災害対応・仮設居住期の課題
①住家被害調査と罹災証明発行の課題
応急危険度判定士の専門能力を住家被害調査に向け、罹災証明発行の迅速化を図る。
②応急修理制度の課題
見なし仮設住宅のための民間賃貸住宅の応急修理制度が創設されたが、広域巨大災害には、個人所有の住家の応急修理制度(災害救助法)と共に制度拡充していくべきである。
③見なし仮設住宅の課題
見なし仮設住宅は被災地域外への被災者の流出を加速することに十分配慮すべきである。
④応急仮設住宅の課題
広域巨大災害を見据えると、熊本地震でのRC基礎の木造仮設住宅は集落内の個別敷地に建設し、コアハウスとして一定期間後に払い下げて、復興住宅化していく制度を創設すべきである。
3.復旧復興の課題
熊本地震の復興はこれからである。阪神・淡路大震災や新潟県中越地震に比べると、その進捗は遅れている。東日本大震災の被災者の「復興感」調査によると、被災者が復興を感じることに有意な事項は「日常生活の回復」「仕事・収入の確保」「住宅再建の見通し」、「街・集落の復興」である。被災者の復興は避難所、仮設住宅から始まる連続復興の視点と、生活・仕事・住宅・街の総合復興の視点、地域社会の復興を社会基盤とする地域こだわり復興の視点を持って、着実に進めねばならない。
(1)震度7の複合災害
熊本地震は二度の震度7の地震が28時間の間隔で発生し、二回目の震度7をもたらした地震がM7.3で最大であるということから「本震」となり、最初の震度7を「前震」とした。しかし震災対策の視点からは、二つの震度7の地震の「複合災害」みなすべきである。最初の震度7の地震にどこまで耐えるか、が震災対策の基本であり、震災対策に「前震対策を位置づけるものではない。
(2)地震と風水害の複合災害
4月中旬に発生した熊本地震は、1か月後からの梅雨前線豪雨から台風シーズンを迎え、復旧が間に合わない事態は予見できた。地震で被災した宅地や斜面の崩壊による複合災害は、地震災害後の緊急対策を、風水害の発生を想定したタイムラインの発想で対策できる。
2.熊本地震が提示した震災対策の課題
以下は、次の広域巨大地震災害を想定した熊本地震からの課題である。
(1)事前予防対策の課題
①耐震基準における「地域係数」の課題
地震対策の基本は、事前の耐震対策で被害を軽減することである。災害時の重要拠点施設となる建物はRC構造・S構造であるが、未だ全国には「地域係数」によって耐震設計の基礎である横力の軽減措置がなされている。宮城県沖地震(1978)の後に東北地方の太平洋の件は1.0に改正されたが、東北日本と南西日本は地域係数0.9、0.8、沖縄は0.7である。建築基準法制定以降の主な地震災害の多くが、地域係数が0.9、0.8の地域で発生している。地域係数の改定(1.0に強化)は不可避である。熊本地震の復興では、地域係数1.0で実施されるべきである。
②複合災害に対応する耐震基準の課題
建築基準法において、二度の震度7でも人命を損ねない程度の被災にとどめる耐震基準を設定し、最低限の基準ではなく「望ましい基準」として国民の選択に任すべきである。
③活断層法による住宅の耐震性能の誘導
4,200回を超える余震回数となるような断層帯での熊本地震は、断層帯地震の特性である。断層帯ゾーンの土地利用を長期的にどう誘導するか、長期的戦略として検討すべきである。
(2)発災直後・緊急対応期の課題
①緊急地震速報の限界と課題
直下地震には緊急地震速報が間に合わないことを周知し、震災対策を普及すべきである。
②余震対策と応急危険度判定調査の課題
応急危険度判定調査は、余震による危険を回避するためであるが間に合わない。自己診断で被災者が緊急危険度を測定し、判断できるようにしていくべきである。応急危険度判定士の業務は、罹災証明のための住家被災度調査として展開すべきである。
③断層帯等余震多発型地震と避難人口増の課題
熊本地震と新潟県中越地震は、内陸の余震の多い地震である。そのために、全村建物1000棟当たりの避難者数は、阪神・淡路大震災の3000人の10倍の30,000人に達している。避難場所は全く足らない状況になり、直接死の約3倍の関連死が発生している。
④避難所の限界と多様化の課題
その結果、避難所は劣悪な居住状況となり、中越でも熊本でも車中泊が多発した。民間施設をはじめ、断層帯近傍地域では、民間施設を含め避難所の多様化を図る必要がある。
➄災害救助法と震災関連死の課題
避難所・仮設住宅は災害救助法の対象であり、関連死防止対策を充実すべきである。
⑥緊急物資供給の課題
災害救助法による緊急物資の供給は限定的にすべきで、クーポン券の発行による被災地の流通機能の回復を急ぎ、地域復興の第一歩としていくべきである。
(3)災害対応・仮設居住期の課題
①住家被害調査と罹災証明発行の課題
応急危険度判定士の専門能力を住家被害調査に向け、罹災証明発行の迅速化を図る。
②応急修理制度の課題
見なし仮設住宅のための民間賃貸住宅の応急修理制度が創設されたが、広域巨大災害には、個人所有の住家の応急修理制度(災害救助法)と共に制度拡充していくべきである。
③見なし仮設住宅の課題
見なし仮設住宅は被災地域外への被災者の流出を加速することに十分配慮すべきである。
④応急仮設住宅の課題
広域巨大災害を見据えると、熊本地震でのRC基礎の木造仮設住宅は集落内の個別敷地に建設し、コアハウスとして一定期間後に払い下げて、復興住宅化していく制度を創設すべきである。
3.復旧復興の課題
熊本地震の復興はこれからである。阪神・淡路大震災や新潟県中越地震に比べると、その進捗は遅れている。東日本大震災の被災者の「復興感」調査によると、被災者が復興を感じることに有意な事項は「日常生活の回復」「仕事・収入の確保」「住宅再建の見通し」、「街・集落の復興」である。被災者の復興は避難所、仮設住宅から始まる連続復興の視点と、生活・仕事・住宅・街の総合復興の視点、地域社会の復興を社会基盤とする地域こだわり復興の視点を持って、着実に進めねばならない。