JpGU-AGU Joint Meeting 2017

講演情報

[JJ] 口頭発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-CG 地球人間圏科学複合領域・一般

[H-CG37] [JJ] 熊本地震から学ぶ活断層と地震防災

2017年5月21日(日) 10:45 〜 12:15 A02 (東京ベイ幕張ホール)

コンビーナ:鈴木 康弘(名古屋大学)、藤原 広行(防災科学技術研究所)、久田 嘉章(工学院大学建築学部)、釜井 俊孝(京都大学防災研究所)、座長:久田 嘉章(工学院大学建築学部)、座長:鈴木 康弘(名古屋大学)

12:00 〜 12:15

[HCG37-16] 2016年熊本地震の断層周辺における浅部・深部統合地盤モデルの構築

*先名 重樹1神 薫1若井 淳1東 宏樹1内藤 昌平1森川 信之1前田 宜浩1岩城 麻子1山田 隆二1河合 伸一1松山 尚典2藤原 広行1 (1.防災科学技術研究所、2.応用地質)

キーワード:強震動予測、S波速度構造モデル、微動アレイ、ボーリングデータ、卓越周期

1.はじめに
平成28年熊本地震においては、益城町において4/14の前震(Mjma6.5)と4/16の本震(Mjma7.3)の2度にわたって震度7を観測し、断層近傍の住宅等に大きな被害を及ぼした。住宅等建物被害の分布1)においては、おおよそ本地震の地表地震断層2)近傍に被害が集中している傾向が確認されたが、断層直上であっても被害が少ない場所や、断層から離れていても被害が比較的大きな場所も確認されている。これらの現象は、地盤構造に起因する可能性が高いとの指摘もある。  
そこで、被害が大きい断層近傍の熊本平野を中心とした地域において、ボーリングデータの収集による初期地質モデルの構築、および、微動観測および地震観測記録の収集によるS波速度構造モデル高精度な地盤モデルを構築し、建物被害分布との比較・検討を行った。
なお、地盤モデルの構築においては、内閣府SIP「レジリエントな防災・減災機能の強化」の⑤「リアルタイム被害推定・災害情報収集・分析・利活用システム開発」のテーマの1つである「地震被害推定のための地下構造モデルの構築」において実施している。

2.データの収集
ボーリングデータについては、九州地盤情報共有データベース(第1版・第2版)、熊本県および市町村からの提供、熊本市地盤図、平成28年熊本地震復興支援ボーリング柱状図緊急公開サイト2)のデータを収集した。地震観測記録については、熊本県の震度計の地震波形データを収集した。
微動観測については、主に工学的基盤(Vs400程度)までを極小アレイ観測で、地震基盤(Vs3000程度)までを半径800m(400m,200m,100m,50m,25m)、の4点のアレイにて実施し、極小アレイ観測は、アレイ半径60cm の「4点極小アレイ」および1辺5m~10m超の「3点不規則アレイ」の組み合わせで実施している。これらの観測は、地震観測点(K-NET,KiK-net, 自治体震度計および気象庁)付近や公道上などで実施している。アレイは約5km間隔以内で26地点、極小アレイは約1km間隔(益城町周辺は100~500m間隔以内)約500地点において実施した。観測機材としては、一体型常時微動観測機材JU4104)を用いて、約1~2km 間隔で各地点15分間の観測を行った。また、サンプリング周波数は200Hz とした。

3.S波速度構造解析(モデル構築)および結果の概要
 本検討の微動解析については、近年の研究5)で提案・高度化されている浅部地盤探査手法等により、1次元S波速度構造の評価を行った。極小アレイの解析については、微動解析ソフト「BIDO2」「クラウド型微動観測システム」4)等を用いて、H/Vスペクトル比および位相速度を求め、分散曲線の深度変換(SPM)6)および逆解析(Pelekis and Athanasopoulos(2011)7)およびArai and Tokimatsu(2004)8)等)を行ってS波速度構造を求めた。アレイの解析については、SPAC法とGAおよびArai and Tokimatsu(2004)を参考にしている。モデル作成においては、1次元S波速度構造や2次元S波速度構造断面および深度平面分布等にて、初期地質モデルと比較・検討した上で、3次元地盤モデルに展開している。作成した地盤モデルによる応答解析結果等により、特に益城町の断層直上付近の被害集中地域において、1.75Hz~3Hzを示す地域に「全壊」の割合が多く、1.75Hz未満の地域には比較的被害が少ないこと等が分かった。また、1.75Hz未満の地域ではAVS30が100~180(m/s)、1.75Hz以上では180~270(m/s)であり、線形増幅倍率は前者の方が大きくなるが、実際の建物被害は後者の方が大きくなっていることが分かった。

4.まとめ
 本検討では、熊本平野周辺において、ボーリングデータに基づいた地質モデルを作成した上で、地震観測および微動観測で得られた解析結果に基づき、3次元S波速度構造モデルを作成した。作成した地盤モデルのS波速度構造分布や卓越周期分布と被害分布の間には一定の相関が認められる。しかしながら、地盤モデルを用いた強震動計算による被害推定を行い、建物被害と調和的な結果を得るには、非線形特性を考慮する必要があると考える。

謝辞
本研究は,総合科学技術・イノベーション会議のSIP(戦略的イノベーション創造プログラム)「レジリエントな防災・減災機能の強化」(管理法人:JST)によって実施されました。産総研の長郁夫博士、(株)サイスモ・リサーチの司宏俊博士、神奈川大学の荏本孝久教授には、微動観測データ等を御提供いただいた。記して感謝いたします。

参考文献
1) 門馬直一, 藤原広行, 中村洋光, 佐伯琢磨, 下村博之, 山田哲也, 藤澤誠二:平成28年熊本地震における益城町の震度分布と建物被害の関係,日本地震工学会年次大会, O1-2, 2016.
2) Y.Shirahama et al : Characteristics of the surface ruptures associated with the 2016 Kumamoto earthquake sequence, central Kyushu, Japan : Earth, Planets and Space, 68:191 DOI 10.1186/s40623-016-0559-1, 2016.
3) 平成28年熊本地震復興支援ボーリング柱状図緊急公開サイト:http://geonews.zenchiren.or.jp/2016KumamotoEQ/index.html.
4) Shigeki Senna, Atsushi Wakai, Kaoru Jin, Hiroki Azuma, Hiroyuki Fujiwara : Development of cloud-type microtremor observation system, 5th ESG, 2016.
5) Ikuo Cho and Shigeki Senna : Constructing a system to explore shallow velocity structures using a miniature microtremor array - Accumulating and utilizing large microtremor datasets -:Synthesiology,Vol.9 No.2,pp.86-96, 2016.
6) Cho, I., S. Senna, and H. Fujiwara, Miniature array analysis of microtremors, Geophysics, 78, KS13–KS23, doi:10.1190/geo2012-0248.1, 2013.
7) Satoh, T., C. J. Poran, K. Yamagata, and J. A. Rodriguez : Soil profiling by spectral analysis of surface waves, in Proc. 2nd International Conference on Recent Advances in Geotechnical Earthquake Engineering and Soil Dynamics, vol. 2, pp. 1429–1434, 1991.
8) Pelekis, P. C., and G. A. Athanasopoulos : An overview of surface wave methods and a reliability study of a simplified inversion technique, Soil Dyn. Earthquake Eng., 31, 1654–1668, 2011.
9) Arai, H., and K. Tokimatsu : S-Wave velocity profiling by inversion of microtremor H/V Spectrum, Bull. Seismol. Soc. Am., 94, pp.53-63, 2004.