JpGU-AGU Joint Meeting 2017

講演情報

[JJ] ポスター発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-DS 防災地球科学

[H-DS16] [JJ] 津波とその予測

2017年5月24日(水) 15:30 〜 17:00 ポスター会場 (国際展示場 7ホール)

コンビーナ:行谷 佑一(国立研究開発法人 産業技術総合研究所 活断層・火山研究部門)、山本 直孝(防災科学技術研究所)

[HDS16-P04] 建物スケールの陸域遡上津波の再現計算

*宮下 卓也1森 信人2 (1.(㈱)建設技術研究所、2.京都大学防災研究所)

キーワード:津波、準3次元

1.研究の目的 2011年の東北地方太平洋沖地震による津波は,遡上後,市街地において複雑な挙動を示した.津波の被害評価には最大浸水深を用いることが多いものの,実際の被害状況は最大浸水深の分布と必ずしも一致しないことが確認され,市街地スケールにおける被害評価に関する見直しが求められている.このため,今後の沿岸都市域での津波被害予測には,土地利用を粗度で表現するモデルから建物スケールでの詳細な解析モデルが必要となる.本研究では,2次元と準3次元海洋(Q3D)モデルを用いて,市街地を対象とした津波変形実験のに対する再現計算を行い,遡上後の津波伝播特性について評価を行う.
2.研究内容 (1) Q3Dモデルによる津波実験の再現計算遡上波の水位時系列や流速などの詳細な比較を行うため,Park et al.(2013)による実際の市街地を1/50スケールで模擬した津波遡上実験を検証対象とした.市街地模型は,長さ48.8m,幅26.5mの矩形型平面水槽に設置され,計算は,準3次元海洋モデルであるROMSを用いて行った.ROMSの基礎方程式は静水圧近似を用いたEuler方程式である.水平方向には直交座標系,鉛直方向にはσ座標系を用い,空間解像度は4cmである.地形データは,市街地模型をレーザプロファイラで1mmの精度で計測したものをそのまま数値計算に用いた.鉛直混合にはk-εモデル,水平混合にはSmagorinskyモデルを用いた.遡上前の砕波減衰については,波高水深比を用いた砕波帯のエネルギー減衰を付加し評価した.合計31地点における実験結果を比較対象にQ3Dモデルの精度検証を行った.測点が汀線から伝播する波向に平行な建物間に設置された地点では,砕波による大規模渦によるエネルギー散逸を考慮していないことから,水位についてはやや過大評価となったが,流速と質量フラックスは全体的に実験値とよく整合した.一方で,構造物の背後にあたる点では,波の回折や干渉が大きく影響し,十分な精度を得られなかった.(2) 渦動粘性の変化による質量輸送の検証:水平渦動粘性係数νtを,時間・空間ともに一定とし,0.000,0.005,0.010 [m²/sec]の3条件で計算し,差異を検証した.νtを0.010としたケースでは,νtを0.000としたケースに対して,最大流速が計算領域の陸域部の中間で30%程度,最も内陸の地点では50~70%程度減少した.特に水平渦動粘性係数が影響する渦スケールの違いにより,建物間の幅が狭く流れが速い領域における進行速度に大きな差異が現れた.(3) Q3Dモデルと2Dの比較:Q3Dモデルに加えて,鉛直層を1層に落とした2Dモデルを用いて実験の再現計算を行った.2Dモデルによる最大浸水深分布は,内陸部において,Q3Dモデルに比べて小さくなる傾向がある.さらに底面摩擦係数を変化させて比較した結果,2Dモデルは,水位の大きさに関係なく,底面摩擦や渦による散逸を鉛直方向一様に受けるため,流速の鉛直分布を考慮できるQ3Dモデルよりも結果が摩擦係数に鋭敏に反応し,またエネルギー散逸が大きくなる傾向があることを明らかにした.
3.主要な結論 (1) Q3Dモデルを用いて,市街地の模型を設置した津波実験の再現計算を行い,実験値と比較した.数値モデルは,遡上波に平行な構造物列間では良好な結果を示すが,構造物の背後での計算精度は不十分であった.(2) 大きさの異なる水平渦粘性を用いた解析により,市街地のように波の進行幅が変わりやすい地形では,渦粘性係数の値が波の進行する速度に大きく影響することが確認された.(3)さらにQ3Dモデルと2Dモデルの解析結果の比較により,浸水深が減少する内陸部においては,2つのモデル間の差異が大きくなり,2Dモデルでは底面摩擦係数の影響が大きくなることを確認した.