JpGU-AGU Joint Meeting 2017

講演情報

[JJ] 口頭発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-DS 防災地球科学

[H-DS17] [JJ] 湿潤変動帯の地質災害とその前兆

2017年5月24日(水) 15:30 〜 17:00 102 (国際会議場 1F)

コンビーナ:千木良 雅弘(京都大学防災研究所)、小嶋 智(岐阜大学工学部社会基盤工学科)、八木 浩司(山形大学地域教育文化学部)、内田 太郎(国土技術政策総合研究所)、座長:石丸 聡(北海道立総合研究機構 地質研究所)

15:45 〜 16:15

[HDS17-08] 巨摩山地・甘利山南面の御庵沢における完新世前期の大規模地すべり

★招待講演

*苅谷 愛彦1 (1.専修大学文学部環境地理学科)

キーワード:岩盤重力変形、鬼界アカホヤ、糸魚川-静岡構造線活断層帯、14C年代、第四紀地形・地質学

甲府盆地西方・甘利山(標高1740 m)とその周辺の山地には地すべりが発達する。本発表は、甘利山南面を集水域とする富士川水系御勅使川左支・御庵沢に発達する地すべりのうち最大規模の移動体をもつ事例(GOA)について、その地形・地質学的特性や堰き止め湖沼・氾濫原堆積物から推定される発生年代を中心に報告するものである。GOAの滑落崖は最大幅約600 mで、その頂部は標高1630 m付近にある。移動体(A=5.9×105 m2)は基盤をなす西八代層群由来の角礫を主とし、標高960~1320 mに及ぶ。層厚は20 m以上である。GOAの移動体体積はV=1.2×107 m3以上と推算され、大規模地すべりに区分される。GOAの移動体は御庵沢を堰き止め、小湖沼・氾濫原を出現させた。湖沼・氾濫原堆積物の層厚は10 m以上で、南北走向・東17~42度傾斜を示す。湖沼・氾濫原堆積物はGOAの移動体を覆う一方、本流性の河成礫層に覆われる。湖沼・氾濫原堆積物の下限・上限層準から得た木片は7741~7615 cal BPと5261~4873 cal BPを示した。また同下限よりやや上位に、鬼界アカホヤ(約7200 cal BP)の薄層も認定された。これより、GOAの初生地すべりは8000~7700 cal BPころ生じ、堰き止め湖沼・氾濫原は約3000年後の5000 cal BPころ本流の礫層で埋積されたと推定される。地すべりの規模が大きいことから、誘因として糸魚川-静岡構造線活断層帯または海溝型プレート境界断層の活動による強震動が想定される。前者の南部区間は8400~7200 cal BPころ活動したとされる。
GOAの滑落崖の背後(北側)には東西性のリニアメントが発達し、これに交わる尾根・水路が系統的右ずれ変位を起こしているようにみえる。リニアメントに並行・雁行する弧状地形も認識できる。甘利山では活断層または重力性断層とされる千頭星山断層が知られているが、これらの地形はそれと異なる。甘利山山頂一帯を載せる岩盤ブロックが重力変形により東~東北東へ変位し、これによりリニアメントや右ずれ変位が生じた可能性がある。そうであれば、GOAは極度の山体重力変形域側方で生じた大規模地すべりとみなせ、両者の地質的関係や変位発生期の同調性の解明が今後求められる。なお、付図はGOA周辺の地形学図である。堰き止め性湖沼・氾濫原堆積物は星印の地点より上流側に露出するが、上面は礫層に覆われ段丘地形(横縞)をなす。