JpGU-AGU Joint Meeting 2017

講演情報

[JJ] 口頭発表

セッション記号 H (地球人間圏科学) » H-DS 防災地球科学

[H-DS17] [JJ] 湿潤変動帯の地質災害とその前兆

2017年5月24日(水) 15:30 〜 17:00 102 (国際会議場 1F)

コンビーナ:千木良 雅弘(京都大学防災研究所)、小嶋 智(岐阜大学工学部社会基盤工学科)、八木 浩司(山形大学地域教育文化学部)、内田 太郎(国土技術政策総合研究所)、座長:石丸 聡(北海道立総合研究機構 地質研究所)

16:45 〜 17:00

[HDS17-11] S-DEMデータを活用した斜面動態モニタリング手法

*菊地 輝行1秦野 輝儀3千田 良道4西山 哲2 (1.株式会社開発設計コンサルタント、2.岡山大学大学院、3.電源開発株式会社、4.中日本航空株式会社)

キーワード:地すべり、数値標高モデル、点群データ、斜面動態モニタリング

1.はじめに
近年多発する異常気象を誘因とした地すべり・崩壊に対する取り組みは重要な社会的問題である.一般に地すべり・崩壊の監視は,傾斜計や伸縮計を用いて計測監視する.しかし地すべり・崩壊は,平常時の変位量が不明で豪雨などの事象発生時に滑動するため,疑わしい箇所すべてに一般的な監視機材を設置することは費用対効果に課題がある.つまり斜面崩壊の被害を未然に防ぐために簡易的にモニタリングする計測技術の確立は不可欠である.航空レーザ測量によって得られる三次元点群データを用いて初生的な斜面変動を検出することが可能となれば,ダム貯水池・調整池の安全管理や地域のハザードマップの高精度化にも役立つと考えられる.本研究は,変動の見られる斜面を対象として多時期に取得したレーザ計測結果に基づいて変動ベクトル解析を行い,斜面の変動や変状をモニタリングするのに適した計測法を構築することを試みたものである.

2.航空レーザ計測による斜面動態モニタリング手法
一般的なレーザ計測においてオリジナルデータからフィルタリングされたグラウンドデータは,植生の影響を除去した比較的単調な数値標高データ(DEM:Digital Elevation Model)となる.DEMデータによる地すべりやマスムーブメントの解析の活用は2008年の岩手・宮城内陸地震において数値地形画像マッチングにより 3次元ベクトル変位量を算出している(Mukoyama,2011).DEMでは転石やオーバーハング地形など詳細な地表面の状態を表現できない.そこで図-1に示すような計測データ本来の情報量を活かした細密な下層モデル(S-DEM:Substratum Digital Elevation Model)を作成した.S-DEMとは,グラウンドデータから任意の距離に位置する点群だけを抜きだし,その最下層面のみから補間陰影処理を行うことでオリジナルデータ本来の情報量を生かした詳細な地形形状である.これによりオーバーハング地や岩屑を含む斜面の地形を数10cmレベルで再現可能となった.本解析は中日本航空(株)製の解析ソフトMierreを用いて実施した.本手法は地すべりの活動性の評価に活用されており、菊地ほか(2017)により約20cmの閾値での変動ベクトル解析例が報告されている。

3.解析結果
本研究で解析の対象とした箇所は,山地内にある貯水池近傍の斜面変動を示す2地点であり,2または3時期の計測を行った.この成果をもとに変動ベクトル解析を実施した.その解析図を図-2に示す.データの品質検証は,1m2グリッド中のレーザ照射点を示す計測点密度および,変動ベクトル解析時の10m×10mの不動点の変動量で評価を行った.
①A地点
A地点は,貯水池に面する崩壊地である.微地形判読と現地調査の結果から,表層崩壊の進行する斜面であると推定した.変動ベクトル解析の結果,貯水池標高から表層崩壊上端部までの標高差約100mの不安定斜面で最大変位量4.6mを確認した.この表層崩壊の範囲は,斜面の傾斜角度と類似したベクトルを示しており,変位量もほぼ一定であった.この結果は,表層にある岩屑堆積物の平行移動と推定することができる.なお,表層崩壊の上位に位置する露岩部では貯水池方向に約0.5mの変状が認められているため,今後の観測を継続的に行う事が提案された.
②B地点
B地点は,2012年9月に発生した台風12号の豪雨による地すべりである.当該地点は防災科学研究所による地すべり地形分布図にも掲載されておらず,初生地すべりと考えられる.初回の計測は2013年に実施して微地形判読を行い明瞭な滑落崖や崩壊地が複数確認された.また現地踏査とボーリング調査が実施され地すべり面の確認と孔内傾斜量の計測が実施された.しかし標高差約300mの広大な斜面であるため地すべり全体の面的な変動の把握が必要であり,2015年に二時期目の航空レーザ計測を実施した.その結果,変動ベクトル量は,地すべりブロックの内外でほぼ誤差の範囲である±0.3m程度の検出量であり,ベクトルの方向についても,まとまった傾向がない事から,誤差以上の有意な変動は認められないと判断され,今後も定期的に計測を続けることとなった.

4.まとめ
本研究では,斜面のグラウンドデータの到達率を的確に管理し航空レーザ計測を高密度かつ高精度で行うことにより,10cmオーダーの精度を持つ変動ベクトル解析の斜面への適用が可能となり,これまで不可能であった1m以下の地表面の変動や変状を容易かつ広範囲に把握することができた.この手法を繰り返し適用していくことで航空レーザ測量が,定期的な斜面のモニタリング手法として実務へ適用が普及すると考える.

参考文献
Mukoyama, S. :Estimation of ground deformation caused by the Earthquake(M7.2)in Japan,2008,from the Geomorphic Image Analysis of high resolution LiDAR DEMs, Journal of Mountain Science,Vol.8,No.2,pp.239-245,2011.
菊地輝行,秦野輝儀,千田良道,西山哲:S-DEMデータを利用した地すべり地における変動ベクトル解析技術の開発,応用地質,57巻第6号,pp.277-288,2017.