[HGM04-P04] 2007年能登半島地震震源域の地殻変動量を用いた河川浸食による地形指標の評価
キーワード:地形解析、河川浸食、地殻変動、2007年能登半島地震
河川浸食による地形指標は,地殻変動を広範囲に素早く認識するための基礎的なツールとして発展してきた.近年では,実際の地殻変動と高い相関関係があることが報告されている.しかしながら,日本国内に分布する活断層の活動性の検討において,河川侵食による地形指標を適応した事例は少ない.また,内陸に分布する活断層の活動性については,トレンチ調査等によって詳細なデータが得られているが,沿岸部に分布する活断層に対する活動性の検討には,海成段丘面の旧汀線高度などの限定的な情報のみになる場合が多い.そこで,本研究では,断層活動に伴う隆起運動が明らかにされている2007年能登半島地震の震源域で地形解析を行い,地殻変動との比較を行った.
2007年能登半島地震は,能登半島北西岸の沿岸地域を震源として発生したMJMA6.9の地震である.この地震による陸域の地殻変動については,航空レーザ計測結果や衛星SARデータ等から明らかにされており,北高南低の隆起傾向を示す.また,航空レーザ計測による鉛直変動様式と海成段丘面の旧汀線高度の分布様式は調和的であり,本地域は少なくとも後期更新世以降の断層活動による継続的な隆起が生じている.
本研究では,Smf,Vf,SL,Af,Bsの5つの地形指標を用いた.Smfは山麓沿いの平野-山地境界(mountain front)の湾入距離とmountain frontの直線距離の比で表され,隆起的な地域ほど湾入の程度は悪くSmf値は小さな値を示す.Vfとは谷底幅と尾根-谷底間の標高差の比で表され,隆起的な地域ほどV字形の断面形状を示し,Vf値は小さくなる. SLは河川勾配と河川距離の積で表され,活構造の分布域では大きな値を示す.Afは流域の傾きを表す指標で,全流域面積に対する右岸側の流域面積の比で計算される.Bsは流域の形状を表す指標で,流域の縦軸と横軸の比で計算され,活動的な地域ほど縦長(値が大きく)で低活動域ほど円形を示す.解析には国土地理院公表の5-m DEMを使用した.
震源域に分布する流域のうち,50個の流域を用いて解析を行った.その結果,SmfとVfの分布様式は全体的に北側で値が小さく,南側で大きくなる傾向が見られる.SLについても,同様に北側が高く南側が低い傾向はあるが,SmfとVfよりもばらつきの程度は大きい.Af,Bsについては,上記のような北高南低の傾向は見られなかった.また,これらの指標と旧汀線高度との相関をとると,最も高い相関を示す指標はSLで,相関係数rは0.56,Smfでr = 0.34,Vfでr = 0.21となり,いずれも高い相関を示さない.そこで,河口付近の地形情報や谷頭位置の状況,下刻する位置の地形等の基礎的な地形情報を加味し,各指標値でグループ分けを行った.その結果,Smfは河口付近に海食崖を伴う場合に旧汀線高度と高い相関を認められた(r = 0.9).Vfについては,河口付近の形状に加えて,計測箇所の尾根を同時代に設定する事で,旧汀線高度分布と高い相関が認められる.SLについては,河川の最大標高と非常に高い相関があり,谷頭部に分布する段丘面から細分する事で,旧汀線高度の分布様式と同様の傾向が見られる.
以上のように,沿岸部における地殻変動に対する地形解析を行う際には,海岸浸食の影響を考慮し,流域内の時代設定を十分注意した上で,それぞれの指標から得られた数値を対比する事が重要である.
2007年能登半島地震は,能登半島北西岸の沿岸地域を震源として発生したMJMA6.9の地震である.この地震による陸域の地殻変動については,航空レーザ計測結果や衛星SARデータ等から明らかにされており,北高南低の隆起傾向を示す.また,航空レーザ計測による鉛直変動様式と海成段丘面の旧汀線高度の分布様式は調和的であり,本地域は少なくとも後期更新世以降の断層活動による継続的な隆起が生じている.
本研究では,Smf,Vf,SL,Af,Bsの5つの地形指標を用いた.Smfは山麓沿いの平野-山地境界(mountain front)の湾入距離とmountain frontの直線距離の比で表され,隆起的な地域ほど湾入の程度は悪くSmf値は小さな値を示す.Vfとは谷底幅と尾根-谷底間の標高差の比で表され,隆起的な地域ほどV字形の断面形状を示し,Vf値は小さくなる. SLは河川勾配と河川距離の積で表され,活構造の分布域では大きな値を示す.Afは流域の傾きを表す指標で,全流域面積に対する右岸側の流域面積の比で計算される.Bsは流域の形状を表す指標で,流域の縦軸と横軸の比で計算され,活動的な地域ほど縦長(値が大きく)で低活動域ほど円形を示す.解析には国土地理院公表の5-m DEMを使用した.
震源域に分布する流域のうち,50個の流域を用いて解析を行った.その結果,SmfとVfの分布様式は全体的に北側で値が小さく,南側で大きくなる傾向が見られる.SLについても,同様に北側が高く南側が低い傾向はあるが,SmfとVfよりもばらつきの程度は大きい.Af,Bsについては,上記のような北高南低の傾向は見られなかった.また,これらの指標と旧汀線高度との相関をとると,最も高い相関を示す指標はSLで,相関係数rは0.56,Smfでr = 0.34,Vfでr = 0.21となり,いずれも高い相関を示さない.そこで,河口付近の地形情報や谷頭位置の状況,下刻する位置の地形等の基礎的な地形情報を加味し,各指標値でグループ分けを行った.その結果,Smfは河口付近に海食崖を伴う場合に旧汀線高度と高い相関を認められた(r = 0.9).Vfについては,河口付近の形状に加えて,計測箇所の尾根を同時代に設定する事で,旧汀線高度分布と高い相関が認められる.SLについては,河川の最大標高と非常に高い相関があり,谷頭部に分布する段丘面から細分する事で,旧汀線高度の分布様式と同様の傾向が見られる.
以上のように,沿岸部における地殻変動に対する地形解析を行う際には,海岸浸食の影響を考慮し,流域内の時代設定を十分注意した上で,それぞれの指標から得られた数値を対比する事が重要である.