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[HQR05-03] 珪藻分析から見た関東平野奥部思川低地におけるMIS7~MIS8以降の環境変遷
キーワード:珪藻分析、思川
渡良瀬遊水地の北側には北東方向に延びる幅約4㎞の思川の沖積低地(渡良瀬遊水地に接する付近で標高14.75m)がある.思川低地の西方の藤岡台地(佐野台地、約20m),東方の古河台地(約22m)は,従来ではMIS5a~MIS5cとされている(貝塚ほか,2000).
この思川低地が渡良瀬遊水地に接する付近で得られたボーリングコア(OMコア:コア長65m)を用いて分析をした.小杉(1989)が奥東京湾の最奥部として海成層を認めた,古河台地の開析谷,坂間からは約9㎞も奥にあたるので,縄文海進の影響はないものと予想される.このOMコアから,沖積層(ユニットA)の下位に厚さ約7mの礫層(ユニットB)を挟んで,厚さ14m(-4m~-17m)の一部砂質で貝殻片を含むシルト粘土層ユニットが認められた.さらに,その下位に厚さ3mの礫層を挟み厚さ19mの砂・シルト層があり,厚さ約10mの砂層・礫層が最下部を構成していた.ここでは,沖積層(ユニットA)と礫層(ユニットB)を挟んでその下位の海成と予想されるシルト粘土層(ユニットC)を中心に,その古環境を主として珪藻分析を用いて一部イオウ分析を加えて検討したので,その結果に基づいて考察する.分析結果は以下の通りである.
Eユニット:中~下流性河川環境指標種群を主とし,海水泥質干潟指標種群や汽水種を伴う.
Cユニット:下部の-14mでは海水泥質干潟指標種群を主に内湾指標種群を伴う海水種が優勢で,汽水種も随伴する.-13m~-4mの6試料は,Paralia sulcataが優占する内湾指標種群が多数を占め,外洋指標種群を少量伴う.外洋指標種群は上部の -6 ~-4m の3試料で増加する.
Aユニット:下位は黒色土壌で珪藻化石はほとんど産出せず,その上位暗灰色シルトで湖沼浮遊生~湖沼沼沢湿地指標種群を主とし,さらに上位で河川指標種群が主に産出した.このように淡水種のみが産出し,海水種~汽水種は産出しない.
Fユニットは砂礫層,DユニットとBユニットは礫層のため,珪藻分析は行わなかった.
考察
Aユニットは湖沼浮遊生~湖沼沼沢湿地性の淡水種が主体をなし,河川指標種群主体の砂質シルト層に覆われる.縄文海進の影響は本地点にはほとんど及ばなかったものと思われる.
Bユニットは,中川低地上流側(栗橋~古河)におけるBGの分布高度(遠藤,2015)から判断し,BGに対応する可能性が強い.より厳密に見ると,栗橋付近でその基底は-20m,古河付近で-8mであり,OMコア地点の-4mは若干浅いが,ほぼ問題のない範囲にある.約7mの層厚は,栗橋~古河では5m前後であり,若干厚い.
Cユニットは,珪藻分析から内湾指標種群が主で,海水~汽水干潟性指標種群を伴う.外洋種も僅かだが伴い,硫黄分析からも海成と判断されること,MIS5a~MIS5cとされる台地を切るBユニット(BG)の下位にある海成泥層であることから,MIS5eに相当する海成層である可能性が高い.
Cユニットの海成泥層は海域の環境が継続する中で,いきなり礫層によって切られているので,その上位には,古河台地などにおけるボーリング資料(Kunijiban:国土地盤情報検索サイト)に認められる砂層・泥層が存在した可能性が高い.
Dユニットは MIS6の可能性が強く、またEユニット・Fユニットについては,須貝ほか(2013)や納谷ほか(2014)を参考にするとMIS7,MIS8の可能性があり,今後の分析を待ってさらに検討を加える.
Cユニットは,古東京湾(MIS5e)の最奥部の情報を与えるものと思われ,従来の板倉コアより少し奥にあたることから,古東京湾の古環境情報に新たな知見を提供することになるだろう.
遠藤邦彦(2015)「日本の沖積層-未来と過去を結ぶ最新の地層-」,冨山房インターナショナル,pp.415.
貝塚爽平・小池一之・遠藤邦彦・山崎晴雄・鈴木毅彦編(2000)関東・伊豆小笠原.日本の地形,4,東大出版会,349pp.
小杉正人 (1989) 珪藻化石群集による古奥東京湾の塩分濃度の推定.第四紀研究,28,19-26.
須貝俊彦ほか(2013)過去40万年間の関東平野の地形発達史―地殻変動と氷河性海水準変動の関わりを中心に(論説).地学雑誌特集号:東京―過去・現在・未来 (Part I),122,921-948.
納谷友規ほか(2014)関東平野中央部の第四系地下地質.関東平野中央部の地下地質情報とその応用,特殊地質図No.40, 178-203.
この思川低地が渡良瀬遊水地に接する付近で得られたボーリングコア(OMコア:コア長65m)を用いて分析をした.小杉(1989)が奥東京湾の最奥部として海成層を認めた,古河台地の開析谷,坂間からは約9㎞も奥にあたるので,縄文海進の影響はないものと予想される.このOMコアから,沖積層(ユニットA)の下位に厚さ約7mの礫層(ユニットB)を挟んで,厚さ14m(-4m~-17m)の一部砂質で貝殻片を含むシルト粘土層ユニットが認められた.さらに,その下位に厚さ3mの礫層を挟み厚さ19mの砂・シルト層があり,厚さ約10mの砂層・礫層が最下部を構成していた.ここでは,沖積層(ユニットA)と礫層(ユニットB)を挟んでその下位の海成と予想されるシルト粘土層(ユニットC)を中心に,その古環境を主として珪藻分析を用いて一部イオウ分析を加えて検討したので,その結果に基づいて考察する.分析結果は以下の通りである.
Eユニット:中~下流性河川環境指標種群を主とし,海水泥質干潟指標種群や汽水種を伴う.
Cユニット:下部の-14mでは海水泥質干潟指標種群を主に内湾指標種群を伴う海水種が優勢で,汽水種も随伴する.-13m~-4mの6試料は,Paralia sulcataが優占する内湾指標種群が多数を占め,外洋指標種群を少量伴う.外洋指標種群は上部の -6 ~-4m の3試料で増加する.
Aユニット:下位は黒色土壌で珪藻化石はほとんど産出せず,その上位暗灰色シルトで湖沼浮遊生~湖沼沼沢湿地指標種群を主とし,さらに上位で河川指標種群が主に産出した.このように淡水種のみが産出し,海水種~汽水種は産出しない.
Fユニットは砂礫層,DユニットとBユニットは礫層のため,珪藻分析は行わなかった.
考察
Aユニットは湖沼浮遊生~湖沼沼沢湿地性の淡水種が主体をなし,河川指標種群主体の砂質シルト層に覆われる.縄文海進の影響は本地点にはほとんど及ばなかったものと思われる.
Bユニットは,中川低地上流側(栗橋~古河)におけるBGの分布高度(遠藤,2015)から判断し,BGに対応する可能性が強い.より厳密に見ると,栗橋付近でその基底は-20m,古河付近で-8mであり,OMコア地点の-4mは若干浅いが,ほぼ問題のない範囲にある.約7mの層厚は,栗橋~古河では5m前後であり,若干厚い.
Cユニットは,珪藻分析から内湾指標種群が主で,海水~汽水干潟性指標種群を伴う.外洋種も僅かだが伴い,硫黄分析からも海成と判断されること,MIS5a~MIS5cとされる台地を切るBユニット(BG)の下位にある海成泥層であることから,MIS5eに相当する海成層である可能性が高い.
Cユニットの海成泥層は海域の環境が継続する中で,いきなり礫層によって切られているので,その上位には,古河台地などにおけるボーリング資料(Kunijiban:国土地盤情報検索サイト)に認められる砂層・泥層が存在した可能性が高い.
Dユニットは MIS6の可能性が強く、またEユニット・Fユニットについては,須貝ほか(2013)や納谷ほか(2014)を参考にするとMIS7,MIS8の可能性があり,今後の分析を待ってさらに検討を加える.
Cユニットは,古東京湾(MIS5e)の最奥部の情報を与えるものと思われ,従来の板倉コアより少し奥にあたることから,古東京湾の古環境情報に新たな知見を提供することになるだろう.
遠藤邦彦(2015)「日本の沖積層-未来と過去を結ぶ最新の地層-」,冨山房インターナショナル,pp.415.
貝塚爽平・小池一之・遠藤邦彦・山崎晴雄・鈴木毅彦編(2000)関東・伊豆小笠原.日本の地形,4,東大出版会,349pp.
小杉正人 (1989) 珪藻化石群集による古奥東京湾の塩分濃度の推定.第四紀研究,28,19-26.
須貝俊彦ほか(2013)過去40万年間の関東平野の地形発達史―地殻変動と氷河性海水準変動の関わりを中心に(論説).地学雑誌特集号:東京―過去・現在・未来 (Part I),122,921-948.
納谷友規ほか(2014)関東平野中央部の第四系地下地質.関東平野中央部の地下地質情報とその応用,特殊地質図No.40, 178-203.